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突発クエスト

 二階の隅にある視聴覚室。そこがぼく達の目的地だ。距離的には大したことないけど、荷物が重いからそれなりに時間がかかる。


「けっこう重いな……灯夜一人じゃ絶対無理だろコレ。先生のお手伝いもいいけど、仕事は選べよなー」


「ご、ごめん……」


 ちかちゃんとぼくは、林先生の代わりに大きな段ボールの箱を運んでいた。箱に印刷されたイラストから、中身は新品のタブレット端末だと分かる。

 昨日はいろいろあって深く詮索はしなかったけど、運んだ荷物は古くなったタブレットだったのだろう。ぼくも授業で何度か使った事があるけど、確かにちょっとくたびれてた感あったからね。


「ごめんじゃねーだろ……ったく、オメーは変なトコロで遠慮すっからなー」


 先に帰ってと言ったにもかかわらず、ちかちゃんはこうしてぼくを手伝ってくれている。非力なぼくに荷物を預けることを躊躇ちゅうちょしていた林先生を説得できたのも、ちかちゃんが来てくれたおかげだ。


「ホントに……ありがとね、ちかちゃん」


 嬉しかった。一人で運べる荷物でも、重さを二人で分かち合えばずっと楽になる。そして楽になった分、楽しくなる。一人だと辛いだけの荷物運びが、何だか不思議な冒険のようにさえ思えてくる。


「べ、べつに大したコトじゃねーし! まっすぐ帰っても……ヒマだかんなー」


 段ボール箱越しに聞こえる声。影になって見えないけど、そこには彼女が時折見せる、可愛い照れ隠しの表情があるのだろう。


 友達と一緒なら、何だって楽しい。これはぼくがこの学校で学んだ大切なこと。そして、できることなら……それを教えてくれた子と、この気持ちをもう一度分かち合いたい。


「……あ」


「ん? どーかしたのかー」


 ――――しまった。そもそもぼくが先生の代わりに荷物持ちを引き受けたのは、良い子だからでも良い子に見られたいからでもない。

 この荷物の行き先に居るであろう静流ちゃんに会って、もう一度話をするためだ。


 けれどこのまま行くと、その場にはちかちゃんも同席する事になる。


 ちかちゃんには悪いけど、静流ちゃんとはできれば二人きりで会いたい。正直ぼくは恥ずかしいことを言うだろうし、それを聞く静流ちゃんだって他の人の前では気まずい思いをするはずだ。

 そうなっては仲直りどころか、更に状況がこじれかねない。


「ちかちゃん、もうここまで来れば大丈夫だから。ぼく一人で持っていけるから……」


「あ? ここまでも何もねーだろ。もう到着じゃん」


 その通り。視聴覚室はもう目の前だった……あと少し早く、階段を上り終えたあたりで言い出せていればまだ違ったのに。


「よーし、着いたぞー。テキトーに置いときゃいいよなー」


 静止する間もなく、ちかちゃんはぼくから荷物を軽々と奪い取って視聴覚室に入っていく。結構な重さがあるはずなのに、彼女にとっては全然大した事はなかったようだ。

 改めて自身の非力さを思い知らされるようで……つらい。


 後を追って中に入ると、教室の中にはぼく達以外に人影はなく、軽く見渡した限りでは荷物の段ボールも無い。ただ整然と並べられた机と椅子の列があるだけである。

 となると、荷物は奥の準備室の方に運ばれたのだろうか。静流ちゃんがいるとするなら、多分そっちだ。


「任務完了! じゃ、帰ろーぜー」


 無造作に荷物を置くと、ちかちゃんはくるりときびすを返して意気揚々と出口へ歩いていく。でも、ぼくはこのまま帰るわけにはいかない。


「ちかちゃんは先に帰ってて。ぼくは先生に報告とかしていくから……」


「んじゃ待ってるよ。そんなに時間かかんねーだろ?」


 あー、どうしよう。ぼくはこれから静流ちゃんと話さなきゃならない……それも、すぐ終わるような話じゃダメなのだ。


「えっと……時間かかるかもだから、無理して待ってくれなくてもいいよ?」


「別にヒマだしいーよ。灯夜はホント変なトコで気ぃ使うよなー」


 そう言ってニヤリと笑うちかちゃんを見ていると、ぼくの中に不思議な罪悪感が浮かび上がってきた。


 自分のワガママで敢行した荷物運びを手伝ってもらったというのに、大したお礼もできないどころか、ぼくは他の女の子への用を優先させようとしている。

 いや、そもそも静流ちゃんと話すのが本来の目的であって、でも結果的にちかちゃんの手を借りることになって……


 こんがらがった頭をどうにか整理しようとした、そんな時だった。ぼくの視界の端で準備室のドアが開いたのは。


「誰かいるの?」


 現れたのは、凛としたポニーテールの少女だ。教室内を見回すその視線がぼくとちかちゃんを捉えると……瞬間、彼女の表情はわずかに曇る。


「静流ちゃん……」


「どうしてあなたがここにいるの、月代くん」


 彼女の冷たい声が、がらんとした視聴覚室に響き渡る。そして、その視線はまるで氷の矢のように……ぼくの眼をまっすぐ射貫いていた。

久しぶりなので本日二回目の投稿です~。

……あんまりやりすぎるとすぐストックが尽きるのですが。

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