表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
239/245

踏み出す覚悟に絆を添えて

【前回までのあらすじ】


 東池袋、六十階ビルに陣取った巨大な妖――――【大怪蟹】。それが喚び出した大量の化け蟹の群れに追い詰められ、窮地に陥っていた樹希たちを救ったのは……暁煌と契約し、魔法少女として新たな姿を得た灯夜であった。


 化け蟹達を瞬時に殲滅した新たな魔法少女。その凄まじい力に樹希たちは一抹の不安を覚える……あの姿は灯夜が【憑依】された結果なのではないか、と。

 真相を確かめるべく駆け寄る一行。しかしその頭上からは【大怪蟹】の放つ邪悪な閃光が降り注ごうとしていた――――!


 ――――それは、恐ろしいまでの妖力を宿した赤い閃光。見た目も威力も先程あの【竜種】が【滅びの落日】に向けて放った炎の息吹に酷似している。

 まともに浴びていたら、いかに霊装術者と言えどもただでは済まないものだ。


「……間一髪といったところだが、何とか間にうたのう」


 だがそれを、【彼女】は防いでいた。自身の鱗をつなぎ合わせて半球状のドームを作り、降り注ぐ妖力の雨からわたし達を守ったのだ。


「あなたは……あなたは灯夜なの!?」


 開口一番、聞かずにはいられなかった。先程の戦いを見ればこの謎の霊装術者がこちらの味方であることは疑いようもない事実。しかし、共闘する前にまず確かめておくべき事がある。


 ――――わたしの目の前にいる【彼女】。その正体は確かに月代灯夜だ。でもどこからどこまで、どの程度まで月代灯夜を保っているのだろうか?


「ふむ……難しい問題よの」


 美しい銀髪の【彼女】が涼しい顔のまま、視線だけをこちらに投げる。その瞳の色は……金色。灯夜ともあの【竜種】の少女とも違う色だ。


「身体は確かにトウヤであるし、実際本人も中におるのだが……ええい、説明しづらいのう」


 【大怪蟹だいかいかい】の放つ赤黒く濁った閃光がいまだ降り止まぬ中、整った顔立ちにうっすら苦悩を浮かばせる【彼女】。

 その表情は、わたしが知る灯夜のどの表情とも似ていなかった。


「おいイツキ! もうちっと要領いい聞き方ってのがあんだろーが!」


「そうだな。今問題なのは、月代が【憑依】されているのか否かという事。是であれば……黙って見過ごすわけにはいかん」


 愛音と不知火ミイナが割って入る。二人も確かめたい気持ちを抑えきれないのだ。


「ええと少し待て。ふむふむ成程……よし!」


 なにやら虚空の声を聞くような仕草を見せる【彼女】……これは霊装術者特有の動作。自らと霊装したパートナーと話している時の――――


「トウヤが言うには、無茶な契約がたたって霊装が不完全だという事でな。身体の主導権はわらわにあるが【憑依】されておる訳ではない、安心せよとの事ぞ!」


 そう言い放つ【彼女】は、超然とした風貌に似つかわしくないドヤ顔を浮かべていた。その表情を通して、なんとなくだが灯夜の気持ちが伝わってくる……わたしには何故かそう感じられた。


「なーんだ全然問題とかねーじゃんか! 安心したぜ!」


「フッ、全く問題なしとは言えんがな」


「まあ【契約】で事故るなんて割とよく聞く話やからな。ウチも安心したで」


 安堵に胸をなでおろす二人……と灰戸一葉?


「灯夜とほとんど面識もない貴女が何ぬけぬけと話に混ざっているのよ! っていうか、貴女いつの間にこの中に入って来たの!?」


「いやー外におるよりコッチのが安全思うてなー。ほら、ルゥちゃんも一緒やで」


 言いながら影の中に手を突っ込み、猫掴みの要領でルルガ・ルゥを引っ張り出す灰戸。成程抜け目のない女だ。


「それよりそろそろ攻撃が止むぞ。すぐに二撃目はないだろうが、こちらものんびりとはしていられん」


 不知火ミイナの言う通り、鱗のドームに当たる妖力の雨はしだいに弱まっている。反撃するにはこの機をおいて無い。


「だけどアイツの再生能力は厄介……あ、そうか! アンタなら一発でやっつけられんのか!」


 愛音の期待を込めた視線に、しかし【彼女】は首を振った。


「そうしてやってもよいが……わらわが本気を出せばまずあの塔ごとへし折ってしまうでの。トウヤもそれはダメ絶対と言っておる」


 【竜種】の力を操る【彼女】なら【大怪蟹】の放つ閃光と同等以上の攻撃を打ち返す事も可能だろう。しかし、それをすれば奴が足場にしている六十階ビルもまた無事では済まない。

 灯夜が止めるのもわかる――――間違いなく【彼女】の中に灯夜がおり、その意志を【彼女】が尊重しているというのもまた確かのようだ。


「地道に削っていくしかないという事ね。けれど……」


 大技が使えないという事は、手数であの再生能力を上回る必要がある。【彼女】がいくら強いといっても単騎であの巨体を削り切るのは難しいだろう。

 援護するにしてもわたし達の余力はほとんどない。このまま無策で向かっていくのはあまりに危険だ。


「なに、策ならあるぞ……と、トウヤが言っておる」


「!?」


「もっともそれを成すにはお主達の助力が不可欠だが……乗ってみる気はあるかの?」



◇◇◇



「皆、いくわよ!」


 ――――【大怪蟹】の攻撃が止んだ一瞬のスキをついて、みんなは一斉にその場から散開した。


「一番槍はまかせたぜ、ルウ!」


「やる……サクセン通り!」


 箒にまたがって飛び上がる愛音ちゃんとルウちゃん。それに黒翼を広げた樹希ちゃんが続く。


「せっかく来たんだ。お前にも一役買ってもらうぞ!」


「ご無体な……ウチにはあやかしとやり合えるような力はおまへんのに~」


 そして影の中へと消えるミイナ先輩と灰戸先輩。この作戦がうまくいけば、ビルにこれ以上の損害を与えることなく【大怪蟹】――――巨大蟹と化した冨向ふうこう入道を倒せるはずだ。


「トウヤよ、わかっておるのか?」


『わかってって……何を?』


 そう応えつつも、暁煌あかつきが言おうとしている事がぼくには分かっていた。


「作戦通り行く行かざるにかかわらず、あの冨向の止めはわらわ達が刺すことになろう。それはすなわち……あ奴の命を奪うことに他ならぬ」


 ――――妖は倒されてもよみがえる。しかしそれは不死を意味するものではない。倒された妖と同種の妖がいつかまた生まれてくるというだけのものだ。


 だから、倒された妖は死ぬ。危険な妖が再び生まれてくる事を阻止するために封印するという方法もあるけど、どのみちこんな状況でそんな余裕はない。


「お主のことだ……あのような悪党であっても、救うすべあらば救いたいと思っておるのだろう?」


『――――!』


 ――――冨向が悪い妖なのはその行いもさることながら、彼自身の口からも充分すぎるくらい聞かされている。倒して感謝される事はあっても、その逆はないだろう。


 けれど、だからといって命まで奪うのは良い事なのだろうか? 取り返しのつかない裁きを下す権利がぼくにあるのか?

 そう……思ってしまうのだ。


 助ける手段もなく、そのために仲間のみんなを危険にさらす事もできない。倒す以外ないのはわかっている。けれど――――


「今のあ奴は大きすぎる力に呑まれただ暴れるだけの怪物と成り果てておる。己の意志などすでに残ってはおらぬだろう。言わば生ける屍……あ奴を救う道があるとすれば、その命を正しく終わらせてやる他にはないであろうな」


そう。きっとそうする事が正しいのだ。それを理解してもなおためらってしまうのは……ぼくに、覚悟が足りないせい。誰かの命を奪ってでも正しい道を選ぶという断固たる覚悟がぼくには足りないのだ。


『暁煌、ぼくは怖いんだ。取り返しのつかないことを……いくらあやまっても許されないことをしてしまうのが。ぼくはどんな理由があっても、命は奪ってはいけないものだと思ってる。それを曲げるのが良いことだとはどうしても思えないんだ』


「やはりお主は優しいの。確かに、殺すのは褒められた行いではない。だが、それを避けては通れぬ時もある……丁度、今のようにな」


 優しく、さとすような暁煌の言葉。"お姫様"と呼んでいた時の幼い姿が印象深いせいか、彼女の実年齢はぼくよりもずっと上だという事をすっかり忘れていた。


「殺す事は罪。されどそれが避けられぬ罪だというなら……トウヤよ、わらわが共に背負うてやろうではないか」


『えっ!?』


「一心同体、一蓮托生の絆とはそういうものであろうぞ? お主の罪はわらわの罪。地獄に墜ちる時はわらわも一緒ぞ!」


 そう言って暁煌は微笑んだ。もちろん、ぼくは彼女の目からその笑みを見ることはできない……けれど。


『……ありがとう、暁煌』


 彼女の微笑みは、ぼくの心の目にはっきりと映っている。その想いを魂で感じられる。出逢って間もないふたりが、ここまで深く心を通わせることができるなんて。


『良い行いではなくても、罪を犯すことになろうとも……ほくは、ぼくが正しいと信じた道を行く。暁煌……きみと一緒に!』


 暁煌となら、歩いていける……この先どんな苦難が待ち構えていようとも、その果てに迎える結末が残酷なものであったとしても――――

 恐れずに進んでいける。彼女と一緒なら……どこまでも。


「――――――――!!!」


 ……不意に響き渡る憎しみに満ちた咆哮ほうこう。あれを止めるのが、ぼく達が踏み出す最初の一歩だ。


「二撃目が来るぞトウヤ! 他の者達に構わずまっすぐこちらを狙ってくるとは……あ奴め、余程わらわ達が憎いとみえる」


『暁煌!』


「ふん、問題ない。注意を惹く手間がはぶけてむしろ好都合ぞな!」


 作戦ではぼく達が【大怪蟹】の目を引き付けている間にみんなが一斉に攻撃をしかける事になっている。向こうが自分からこっちを狙ってくれるなら願ったりだ。 


『あとはみんながうまくやってくれれば……』


「お主が見込んだ仲間達であろう? 何も心配なかろうて」



 ――――再び降り注ぐ妖力の雨。それを再び鱗のドームで防ぐ。あえて回避せず受け続けることで、みんなが自由に動ける時間を増やす……これは、ぼく達にしかできない仕事!


『みんながチャンスを作ってくれる……それまで、何としても耐え切るんだ!!』

 樹希ちゃん達の不安も解消されていざ反撃のターン!

 あとは駆け抜けるのみなのです٩( 'ω' )و

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ