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逆襲の大怪蟹!

【前回までのあらすじ】


 東池袋、六十階ビルに陣取った巨大な妖――――【大怪蟹】。樹希たちはそれが喚び出した大量の化け蟹の群れに追い詰められ窮地に陥っていた。

 もはや絶体絶命と思われたその時、まばゆい閃光と共に舞い降りたのは暁煌と契約し、魔法少女として新たな姿を得た灯夜であった。


 不完全な契約によって霊装の主導権を暁煌に明け渡すというトラブルに見舞われながらも、友と池袋の地を守る為戦いの場へと降り立つ二人。


 ――――樹希たちが苦戦した化け蟹を瞬時に殲滅する、圧倒的な力。最強の魔法少女となった灯夜と暁煌が今、【大怪蟹】へと挑む!

「あの化け蟹が……全滅!? それもほんの一瞬で――――」


 にわかに信じられないような光景が、わたしの……四方院樹希の眼前には広がっていた。


「強いとかそういう次元じゃねーだろアレ! リアルで無双キメてるヤツなんてオレ初めて見たぞ!?」


 愛音が驚くのも無理はない。あやかしとの戦いにおいてここまでの実力差を見せつける術者など、わたしですら……かつて“千年に一人の逸材”と呼ばれた、わたしのたったひとりの姉以外には――――知らない。


「フッ、どうやら敵ではないらしいというのは救いだな。だが四方院よ、あいつの霊力はやはり――――」


「ええ。状況的にもそう考えるしかないわね」


 不知火ミイナも、やはり気付いている……あの霊装術者の放つ霊力が、わたし達の見知った人物のそれに極めて近いという事に。


「なんかそんな感じの匂いがしたような気がしないでも、ってノイが言ってるけど……マジか?」


 つい先程まで猫の身体能力を得る術を使っていた愛音にも、どうやら察しはついたようだ。


「ニオイ、する……あれはツキシロトーヤ! ちょっとチガウけどダイタイ同じ!」


「月代って、あのセンセーの甥とかいう? たしかに銀髪やけど……あんな子やったっけ?」


 そう……あれは月代灯夜。多少付き合いのある術者であれば、姿が変わったところで霊力の質で見分けがついてしまう。けれど――――


「けれどあの姿と強さ。間違いないわ……灯夜は【契約】した――――あるいは【憑依】されたか。どちらにしろ、さっきの竜種の子が関わっていると見て間違いないでしょう」


 彼は、あの竜種の少女を助けることに最後までこだわっていた。その為だったら無理でも無茶でも……自分の身を危険にさらす事でさえ、ためらいなく行うだろう。

 ……そうならないよう釘を刺したつもりだったが、どうやら刺し方が甘かったらしい。


「オイオイ【契約】はともかく【憑依】はやべーだろ? 戻れなくなるとかあるヤツじゃん! それに――――」


「あいつは風の精霊だか何かとすでに【契約】していたはずだ。それがさらに別の妖となど……あり得るのか?」


「わたしだってこんなケースを見たのは初めてよ。けれど……現実に起こってしまった以上は受け入れるしかない」


 灯夜は、最初からずば抜けて高い霊力を持っていた。妖が視えるだけに留まらず、出会った時にはすでにシルフと【契約】を果たしていた程だ。


 そして、その霊力は今も成長を続けている。【契約】の影響で霊力が高まるという現象はある程度実証済みではあるけれど、それだけで片付けるにはあまりに早く、大きな成長を月代灯夜は遂げていた。


 短い間に幾度もの窮地を乗り越えてきた経験もあるだろう。しかし、一番の要因はやはり彼自身の資質にあるのではないか?

 灯夜は勢い任せの無理や無茶の果てに、またも彼にしか成し得ない奇跡に辿り着いてしまったのではないか――――


「霊力はともかく、さっきの体術はあの【竜種】と同じもの。月代のやつがあそこまで動けるとは考えられん……となれば」


「【憑依】されている、って言いたいの? けれど、あの子はこうしてわたし達を助けてくれたのよ! 灯夜の意志がなければ、そこまではしない!」


 大事には至っていないと信じたいが、彼の現状を判断するには情報が足りなすぎる。あの灯夜なら【竜種】の彼女を信じ、自らの意志で身体を明け渡すという事さえあり得るのだから。


「……なあ、コレって直接聞いたほうが早えーヤツじゃね?」


「愛音?」


「だって本人目の前にいるじゃん? オレがちょっくら行って確かめてくっぜ!」


 わたしが止める間もなく、謎の霊装術者に向かって駆け出す愛音。即断即決と言えば聞こえは良いが、何も分からぬ内に突っ走るのはあまりに無謀だ。


「フッ、今回はアイツが正しいな。戦いの最中に野暮と言えば野暮だが」


「不知火ミイナ、貴女まで――――」


「この場の行く末と同じくらい、月代の安否が気にかかる……そこは四方院、お前とて譲れないところだろう?」


 お前の本心は見抜いている、と言わんばかりの彼女の笑み。悔しいが……その通りだ。


「あたし達も行くぞ。どのみち、避けては通れない道なのだからな」



◇◇◇



「――――――――!!」


 ――――咆哮を上げる巨大蟹。そのちょうど頭の上あたりに赤く輝く魔法陣のような物が現れ、そこに向け禍々しい妖気が急激に集まっていくのがわかる。


「ふん、手下が役に立たんと見て自ら仕掛けてくるか……小賢しい」


『どうするの暁煌!?』


 見るからに、かなり威力の大きい攻撃を放ってくるに違いない。今のぼく達――――ぼくと暁煌が霊装して一心同体になった新たな魔法少女であっても、まともに受ければかなりのダメージを受けてしまうだろう。


「どうするも何もぞ。あんな前振りの長い術など見てからでも余裕でかわせるわ。あとはその隙にいくらでも反撃を――――」


「おーい、そこのトーヤっぽい魔法少女ー!」


 不意に響く脳天気な声と共に、駆け寄ってくるのは――――愛音ちゃんだ!


「む、いかん! 今来られてはあ奴も巻き添えになるぞ!」


『ええっ!?』


 愛音ちゃんだけではない。その後ろからは樹希ちゃんと他のみんなもこちらに向かってくるのが見える!


「止めねば! ええと……トウヤよ、あ奴の名前は何といったかの?」


『愛音! 愛音ちゃんだよ……って、もう目の前に来てる!』


 頭上の巨大蟹の正面にはいつのまにか燃え盛る大きなエネルギーの塊みたいな物が出現している。これは……もう発射寸前じゃないのか!?


「お前トーヤなのか? それともドラゴンちゃんの方か?」


 そんな中、にこやかに話しかけてくる愛音ちゃん……ぼく達のほうにすっかり気を取られて、巨大蟹の動向が見えていないのか!?


「まさか【憑依】したりされちゃったりとかしてねーよな……って、あっ」


 とはいえさすがの愛音ちゃんもこの距離まで来れば気付く……火に飛び込む羽虫のごとく、自分が今まさに大砲の砲口前に飛び込んでしまった事に。


「愛音! もう、止まりなさいと言ったのに!」


「ここまで来てしまってはあたし達も同じだ。まずはあれを凌がねばな」


 愛音ちゃんを追って樹希ちゃんとミイナ先輩も駆けつけてきた。巨大蟹の攻撃までもう時間がない……ぼく達は回避できるが、他のみんなは――――


『暁煌!』


「まったく……世話のかかる仲間たちよのう!」


 彼女の言葉と同時に再び鱗たちが展開し、ぼく達の頭上で壁のように連結しはじめた。けれど、間に合うのか? 巨大蟹の攻撃はもう――――



「――――――――!!!」


 池袋の街を震撼させる邪悪な咆哮と共に、赤黒くおぞましい閃光がぼく達めがけ降り注いだ――――!!

 ラスボスにはラスボスの意地がある!

 敵が強い程魔法少女は輝くのです٩( 'ω' )و

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