決断ゆえに13
放課後、旧体育館近くまで足を向けた。見つめる先には穂乃香がいる。穂乃香と、下級生らしき男が向かい合っている。少し視線を横へ向ければ、穂乃香を見守るように滝椿が立っていた。その場所は本来、俺が居るべき場所だった。
俺が頼んだ。穂乃香が告白の返事をすると昼休みに滝椿から伝え聞いていたから代わりを頼んだ。それなのに、見ているだけで嫉妬と後悔が胸に押し寄せてくる。ままならない感情から目を背けるように、穂乃香だけを見ていた。
距離を取っているので表情は確認出来ない。ただ、付き合ってきた経験と雰囲気から、そろそろ終わる頃だろうと、誰にも気付かれないようにその場を後にしようと背を向けた。
「お久しぶりです」
数歩歩いた先に栗崎が待っていた。神出鬼没なのはいつものことだと、気にもならなかった。
「少し、やつれましたね」
「そう、かもな」
「託真さんもそうですが、穂乃香さんもあまりよくないですね」
そう言いながら栗崎は穂乃香に視線を向けた。穂乃香がよくない、と言われれば気になるが、今は止めておいた。
「前に話した話、憶えていますか?」
呟くように言うと、栗垣は俺を見つめた。
「あなた方が兄妹だとわかって、彼が手紙を書いた、と以前お話したことです」
「憶えてるよ」
「続き、お話してもいいでしょうか?」
ここから早く離れたかったが、なんとなく栗崎の話を待っていた。彼の話は手紙を書いた所から始まる。
「彼は出来上がった手紙をその日に渡すと心に決めていました。しかし、見てしまいました。幸せそうに託真さんと一緒にいる穂乃香さんの姿を。託真さんの隣でしか見せない笑顔を。その顔を見ているとわかってしまいました。穂乃香さんは恋をしているのだと。それでも、彼の気持ちが失われることはありません。だからこそ、好きな人が幸せに過ごせるようにファンクラブを作りました」
栗崎は俺をまっすぐに見つめた。
「それが、私の、学園生活の全てです。あなただけが、穂乃香さんを幸せにしてあげられます」
栗崎の言葉が重く届く。“あなただけが穂乃香を幸せに出来る”。そう言われて嬉しくないわけがない。ほんとにそうだったらいいのにと強く思った。今更、考えを変えることは出来ない。
「悪い」
視線を下げ告げる。
「すみません。余計な事を言いました」
「いいんだ。もう終わったことだから」
栗崎に申し訳なくて、居た堪れなくて、早々に別れを告げた。
最後にと、穂乃香の方へ視線を向ければ、穂乃香も俺を見ているような気がした。だいぶ遠くにいるから、顔は判然としないだろう。穂乃香が告白の返事をすると聞いていた俺は、その場所にいるのが穂乃香だとわかる。でも、穂乃香からは決して俺だとはわからない。何を期待しているのだと毒づき、その場を離れた。




