決断ゆえに9
帰り道を歩き、途中でコンビニに寄り、たいして興味もない雑誌を読んで時間を潰し、おにぎりとお茶を買って店を出た。誰もいない公園のベンチでおにぎりを口に運び、お茶を流し込む。食べ終えればやることがなくなり、しばらくの間、夜空を眺めた。
携帯を取り出し時刻を確認すると二十一時になってた。このまま公園で一夜を過ごすわけにはいかなく重い腰をあげた。
何度目かの溜息を吐き、家の前にたどり着く。穂乃香が寝ていてくれることを願いつつドアを開ければ、そんな都合のいい願いは通じないのだと知った。廊下の先にいる穂乃香を視界に捉えた瞬間、視線が足元に向いた。
「ご飯の準備できてます……」
辛そうな声だった。言いたいことがあるだろう。それらを堪え、精一杯普段通りに接しているのが伝わってくる。胸が痛かった。
「食べてきたからいらない」
「そう……なんだ」
「これからも準備しなくていいから」
それ以上の言葉はなく、穂乃香の横を通り過ぎて自分の部屋に向かった。ドアを閉めてしばらくが経ったが、息苦しさは一向に収まらなかった。
制服を脱ぎ捨て、寝間着に着替えるのも億劫だったでの下着姿のままベットに横たわった。音の無くなった部屋で、たいして寒くもないのに体が冷えていく感覚があった。毛布の中で体を抱くようにして睡魔がやってくるのを待っていたが、深夜零時を過ぎても寝付けなかった。
目を閉じても開いていても、闇の中に穂乃香の泣き顔が浮かんでくる。潤んだ瞳が俺を見つめて離れない。いつからか荒い呼吸を繰り返していた。無理せず、十分に時間を掛けて正常な呼吸に戻していく。過呼吸ではないと思うが、徐々に酷くなっている。このまま部屋にいると息が詰まりそうだったので、沈んだ気分を少しでも変える意味も含め、外の空気を吸いに部屋を出た。
足音をたてないよう静かに廊下を歩いて行くと、何処からか微かな音が聞こえてきた。耳を澄ませると、その音は穂乃香の部屋から聞こてきているらしかった。気にするべきではない、そう思いながも足は穂乃香の部屋に向かっていた。
穂乃香の部屋の前で立ち止まる。ドアは少し開いていた。薄暗い部屋に月の光が優しく照らしている。躊躇しながらも視線をベッドに向けてみると穂乃香は起きていた。
それだけならどれだけよかったか。穂乃香は布団に顔を埋め、声を押し殺すように泣いていた。息が詰まった。抑えても抑えても、漏れ聞こえる泣き声から離れられなかった。
悲痛な泣き声が聞こえてくる。とても小さい声だった。けれど、すぐそばで耳を澄ませているかのように鮮明に聞こえた。その声が届く度に、身体の内から何かが溢れ出してくる。勝手に出てくる涙を止められなくて、ただ流れては音をたてず床に落ちた。色々な感情が涙と共に流れては心を空にしていく。全身の水分が無くなってしまうのではないかというほど、とめどなく。
どのくらいその場で佇んでいたのかはわからない。泣き疲れたのか、穂乃香は静かに眠っている。それを見届け終えると体を支えていた力がすっと抜けた。家が傾くように落ちていくにつれて視界も暗く閉ざされていった。




