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ふれられないもの  作者: 柳
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天体観測から見える景色4

 

 初日以降、滝椿は過剰なまでに相手を気遣うようになった。以前のような積極性は鳴りを潜め、適度に会話に参加しつつも深く踏み込もうとはしない。あまりにも謙虚過ぎるように思えたが、今はまだそのくらいがちょうどいいのかもしれない。


 滝椿が話し掛ければ未だに穂乃香は緊張している様で、雪花の口調には僅かな棘が含まれている。何が不満なのかわからないが、物腰の低い喋り方や相手を傷つけまいとする姿勢は少なからず好感が持てる。滝椿なりに嫌われないように考えた結果が、今の一歩引いた振る舞いになったのかもしれない。


「幼い頃の話なんですけど」


 と前置きして、滝椿は自身の幼い頃の話を語ってくれた。


「家で留守番をしている時、同じことを考えました。兄妹が居ればこういう時でも寂しくないのでは、と。少し前に出掛けて両親が早く帰ってこないかと何度も時計を確認していました。その度にまったく進んでいないことに落胆して、それでも、また確認していました。そんなことを繰り返して時間が過ぎていきます。買ってもらったゲームを一人でやっている間は夢中になれました。でも、二人ならもっと楽しいのではないのかと思うと、途端につまらなくなったりして――すいません。つまらなかったですよね」


 そう締めくくると、滝椿は申し訳なさそうに乾いた笑いを浮かべていた。


「そんなことない。あまり聞かない話だったし、滝椿が羨ましいって言った気持ちが少し理解できた気がする」

「そうですか。よかったです」


 安心しました、と言うように滝椿は胸に手を当てた。話は途中で終わってしまったものの、それまでは不明瞭であった一人ぼっちの孤独も、滝椿の経験という現実的な例えのおかげで確かな輪郭を持つようになった。


 けれど、適当な空想の中であっても、俺がいる場所の隣には穂乃香がいた。それが当たり前の環境だったから、想像したところで滝椿の言う“一人の寂しさ”を正確には理解できないのかもしれない。


 もし俺が一人っ子だったとしたら、滝椿のように羨ましく思えたのかもしれない、とは思った。有りもしないことを考えても意味はないが。


「本当に――」


 そっと呟く声が耳に届いた。その後に続く言葉は風の音でかき消されて聞き取れなかった。滝椿へ顔を向ける。滝椿は微笑みながら、


「次の休みが楽しみですね」


 と、俺に告げた。

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