小さな出会い6
放課後になり、穂乃香と一緒に校舎を歩く。丸一日、授業を受けなかった生徒が校内にいるからか、俺が抱えているコイツの所為かはわからないが、少なくない視線を集めた。最悪の事態を想定し、いつでも対処できるように身構えていたが、意外にも騒がれたり教師に見つかることはなかった。
「みんな見てたね」
人心地ついた頃、そんなことを穂乃香が言った。なんだか嬉しそうだ。昼休みのような無理して抑え込んでいる感じはもうない。
「いつのも穂乃香を見つめている人数よりは、少なかったんじゃないか?」
軽く背中を叩かれた。照れ隠しのつもりだろうが、もう少し強く叩かないとマッサージにもならない。
昇降口から校舎沿いに歩いて裏へと回る。そこには既に一人の女子生徒がいて、俺たちに気が付くと慌てて頭を下げていた。
ここしばらくの間、俺と穂乃香は放課後の空いた時間で花壇の修復作業の手伝いをしていた。苦労の甲斐もあり、今では立派な花壇が浮かび上がっている。やれることはもうほとんどなく、後は土の入れ替えと花を植えるだけになっている。
次の休みの日に花屋へ買い付けへ行く手筈となり、今日は最後の手入れと、約束の日の詳細をつめることになっている。それだけならたいした時間も掛からないが、下級生は穂乃香のことをえらく気に入っているようで、話が弾んでいるように見える。穂乃香も楽しそうにしているので俺としては構わない。
ふと、視線を感じ校舎の方へと顔を向けると栗崎の姿があった。目が合うと栗崎は軽く頭を下げた。少し離れることを穂乃香に伝え、仔犬を抱えたまま校舎の方へ足を進めた。
「どうしました?」
栗崎の視線は、腕の中で寝ている仔犬に向けられている。
「捨て犬。しばらくの間、飼うことになった」
「そうですか」
疑問はあるだろうが、栗崎は多くを聞かない。近すぎず遠すぎず。その一歩引いた距離感が、今は心地いい。ふと、栗崎が俺に向かって手を伸ばしてきた。咄嗟に半歩退いた。
「飼い主の許可もなく触ろうだなんて失礼でしたよね。すみません」
「いや、触るくらい別に許可はいらない。好きに触ってくれ」
「そうですか」
栗崎はもう一度手を伸ばすと臆することなく、慣れた手つきで仔犬の頭を撫でた。最初こそ、仔犬は驚いて目を開いたが、しばらくすれば気持ち良さそうに目を細めていた。
「動物飼ってたのか?」
「いえ。一度も飼ったことありません。妹がアレルギー持ちなので」
「それにしちゃ動物の扱いに馴れているように見えたんだが」
「昔から、動物は好きでしたから」
それから他愛無い話を幾つか交わし、栗崎は別れを告げて校舎の中へと入っていた。これといった要件はなかったらしく、ただ姿が見えたから挨拶を、とのこと。
穂乃香の元へと戻れば、何故か下級生は申し訳なさそう俺に頭を下げた。何をどう勘違いしたのか、俺を放置して穂乃香とお喋りに興じていたことが悪いと思ってしまったらしい。
誤解はすぐに解けたのだが、どうも俺と話す時は緊張している節がある。積極的に仲良くなろうとは思っていないので、なるようになるしかない。別れ際にもう一度、約束した時間と場所を確認して俺と穂乃香は帰路に着く。




