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ふれられないもの  作者: 柳
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日常

 

 小さい声が聞こえる。控えめに身体が揺れている。それを自覚すると否応なく意識が呼び起された。


 誰かに呼ばれている。そう自覚していても、目覚め際の心地よさというのは簡単には手放せない。この瞬間でなければ味わえない快楽にまだ浸っていたい気持ちは大きく、もう少しだけと目覚めを遅らせたくなる。それを邪魔されれば誰でも気分は良くないだろう。


 けれど、その行為が誰によって為されているのか。そして、その行動の意図をきちんと理解していれば不満の感情が浮かんでくることはない。俺の為にしてくれている行為を迷惑だと感じたことは一度もない。


「おはようございます」


 声のする方へ視線を向ければ、一人の女の子が俺を見つめていた。綺麗な顔立ちでありながら、まだ幼さの残る可愛らしさを兼ね備えた魅力的な人。そんな女の子――我が妹である穂乃香ほのかが無防備な笑顔で俺を見つめていた。


 その笑顔を見た瞬間、全ての煩わしさから解放されたような気分になった。この笑顔をずっと傍で見ていられるなら何を犠牲にしても構わない。いつだってそう思える。


「おはよう」


 いつもの朝。穂乃香の挨拶から始まる、今日という一日。


「今日もいい天気だよ」


 そう言い残し、穂乃香は一足先に部屋を出た。成長期とはいえまだまだ小柄な背中を見送りつつ、俺はのんびりと朝の支度を始めた。


 制服に着替え、カバンを手に階段を降りる。リビングへ着くと食欲をそそる匂いが鼻をかすめた。テーブルへと視線を向けると、こんがりと焼けたトーストと目玉焼きにサラダと牛乳が並べられている。全ての食事を担当している穂乃香が作ってくれたものだ。欠点などあるわけがない完璧な朝食に胃袋が刺激され、自然と食欲が腹の底から湧き上がってくる。


 台所へと顔をむければ、エプロン姿の穂乃香が小さく唄を口ずさみ、小さく体を揺らしながら使用した調理器具を洗っている。その姿はそのまま、俺よりも早くに起きて朝食の準備をしている穂乃香の姿なのだろう。ほんと、出来過ぎな妹だと感心するばかり。


 穂乃香が洗い物を終えるまでの間、テーブルに着きながらぼんやりと朝のニュース番組を眺めて過ごす。また、どこぞの俳優に不倫疑惑があるだとか、今一押しのお笑い芸人が一発芸を披露したりしていた。そんな情報をただ流し見ていれば、蛇口を閉める音が背後から聞こえた。


「おまたせ」


 と言って、穂乃香が向かいの席に着くのを目で追い、テレビを消してから手を合わせる。一瞬の目配せ。


「それじゃ、いただきます」


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