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爪の下の  作者: 3986
爪の下の(推敲前)
2/9

キッカちゃん、僕を踏んで。


そう言って私の足にすがりついてくる男。

右足の甲には彼の唇の感触。

正直くすぐったいだけで、私に『そういう』趣味はない。


ソファに座らされた私は体を縮こませて、事の成り行きを見守っている。

彼が何をしたいのか、さっぱり分からない。


一人がけ用のソファはダークブラウンで、レザーの上貼りがペタペタと肘やら太ももにくっつく。両わきを固める肘掛けが逃がさないというふうに私に迫ってくるから、余計に縮こまってしまう。


こんな暑い時期に、昼間っからシャッターを閉めた薄暗い部屋で、一体何をやっているんだろう。

クーラーが効いているはずなのに、私の体から汗がにじみ出ている。


彼が入れてくれたローズヒップティーの匂いにクラクラする。

ローテーブルに置かれたカップの中身はまだ半分も減ってない。


彼が家に誘う口実にしたレポートは、二人分。向かい合ってテーブルの上に収まっている。


私は眩暈の中、なぜ彼についてきてしまったのかと、後悔をしていた。






1コマ目の講義が休講になって、学食でレポートの課題を進めようと、本に目を落としていたら急に声を掛けられた。

全く知らない人ではなかったけれど、それは知り合いという意味ではない。見たことがあるというだけで。


「ええと、磯貝君、だっけ。経済数学で一緒の」


今日の一コマ目にあるはずだった講義の名前を挙げると、彼はそうだよ、と頷いた。

講義を休んでもいない彼が、私に何の用だろう、と首をかしげる。


20人くらいしかとってない、人気のない講義。

一回の講義で何度も当たるから、接点がなくてもお互いの名前くらいはなんとなく覚えている。

そして、磯貝君は教授の覚えがいい優秀な学生だった。

当てられて答えられないなんてことは先ずないし、難しいだろうと思われるものの半分くらいは彼に当てられる。


「それ、経営学のレポート?」


私のノートを彼が覗き込んでくる。

彼のような人に自分のレポートの中身を見られるのは恥ずかしかったけれど、突然のことでドギマギして、私は少し体をひいた。


彼は時間にして1分くらい、それに目を通していた。そして、軽く頷くと、僕も同じ授業とってるんだ、一緒にやらないか、と言った。


「私、あんまり良く分かってないし、磯貝君に迷惑かけると思う」


「僕も分からないところがあるから。一緒に調べながらやろう、ね」


彼の茶色い目がこちらに向けられる。

有無を言わさぬ雰囲気で、その口調には現れない強引さに、私は気がついたら頷いてしまっていた。


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