アルパカ王国と冬の女王
むかしむかしアルパカ王国に、春・夏・秋・冬、それぞれの季節を司る女王が居ました。
女王達は決められた期間、交代で塔に住むことになっています。
そうすることで、アルパカ王国にその女王様の季節が訪れるのです。
「私、悪役令嬢になる!」
冬の女王が満面の笑みでそう言い出したのは、冬が終わって春の女王とお籠り交代という時でした。
「悪役令嬢になれば王子様の婚約者になれるのよ。そのあと婚約解消イベントが起きるんだけど、それさえ乗り切れば人生勝ち組じゃない?」
冬の女王が握りしめている本は、悪役令嬢になった主人公がなんやかやでモテモテのハッピーエンドになる、という、ナウなヤングにバカウケのベストセラー小説。
春の女王は悟りました。
どうやら冬の女王は、暇にあかせて繰り返し読むうちにすっかりハマってしまったのだなと。
「おーけー分かった、頑張って目指すといい。だから早く塔から出て来なさい」
オトナな春の女王は冬の女王の戯言をスルーして、やるべき事をさっさと終わらせようとしました。
が、冬の女王は頑として出てこようとしません。
「このまま塔から出なければ国は冬のままで大勢の人が困る……つまり私はここに居座るだけで、とんでもない悪役になれるのよ!」
との一点張りです。
そのドヤ顔にムカつき……もとい困った春の女王は、城へ戻って王様達に相談しましたが、王や他の女王達が行って説得を試みるも同じことの繰り返しで、どうにもなりませんでした。
「こうなっては仕方がない。冬の女王が飽きて出てくるまで冬が終わらないという事を国民達に告知しよう」
王様の決断で、冬の女王はとりあえず放置という形に相成りました。
そんなこんなで春が来なくなり、冬のままになってしまったアルパカ王国の国民達はというと。
「隣国が夏の時期に冬のままだって? これはチャンスだ!」
アルパカ王国観光協会は大喜びでスキー場をはじめとした冬の観光名所を避暑地として売り込み、例年の何倍もの観光客を呼び込む事に成功しました。
「春が来ないだって? しかたがない、冬物野菜を育てよう」
農家の人達が栽培した寒さに強い作物は、季節外れという珍しさも手伝って隣国で飛ぶように売れました。
「外は寒いでしょう、暖かいコーヒーでもいかがですか?」
季節外れの冬景色を楽しみつつ温まりながらご飯の食べられる飲食業も、観光客相手に売上好調です。
「今年はまだ冬だからね。仕方がないね」
冬眠中のクマは仕事をせず、引き続き冬眠を満喫していました。
牧場のアルパカ達も初夏の毛刈りを免れて一安心です。
「……という訳で、国民は誰も困っておらんのじゃ」
「私達もお籠りがないから羽を伸ばせるしね」
「交代しなくても問題ないから、つい放置しちゃってたわ」
「ていうか存在を忘れてた」
「そんなあ」
秋に差し掛かる頃になってようやく塔を訪れた王様と女王達の状況説明を聞いて、これでは悪役になれないと冬の女王もがっかりです。
「この際どうかね、今年一年ぐらいは籠りっ放しでいるというのは」
「真っ平御免です!」
冬の女王は慌てて塔を飛び出しました。
こうしてアルパカ王国にふたたび四季が巡るようになったのです。
それから数日後。
反省室で謹慎していた冬の女王は、こっそり持ち込んで熟読していた本を握りしめて叫びました。
「私、このまま反省室で引き篭もりになる! そして異世界へ召喚されて勇者になってハーレムを作るんだ!」