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独の華  作者: 秋夜
4/6

夜の華


士郎は学校にいた。


夕暮れ時、誰もいない教室はなんだか物悲しく、不気味だ。


「バスケ部も辞めちゃったし、この時間は暇だな」


机の上のカバンを持ち、校舎の中庭へと歩いていく。


誰もいない、普段ならもう少したむろしてる学生がいるのだが。


「士郎。」


士郎は誰かに呼ばれた、ふと振り返るとそこには梅塚がいた。


「おう、梅塚も今帰りか。」


「ああ、まぁな、ところで実はお前に話さなきゃいけない事があるんだ。」


いつもは見せない顔、真剣な眼差しだ。


「実はな、オレ、お前と友達辞めようと思う。」


「はぁ?」


突然の告白に戸惑う士郎、普通友達辞めたい奴に友達辞めますなんて言うのか?いや、変な所真面目な梅塚ならありえない話ではない。


「なんでそんな事言うんだ?」


士郎はまだ梅塚が冗談を言ってるのではないかと考えていた。


「お前、バスケ部辞めただろ、それに、その左腕と左足、動かないんだろ、気持ち悪いんだよ、正直。」


士郎は意外な人物からの痛烈な言葉に何も言い返せない。


「もう友達辞めてくれないか。」


士郎は怒りではなく悲しみに飲まれた。


「確かにオレは左半身動かないけど、中身はオレのままだぞ?梅塚、誰かに言えって言われてるのか?それともなにかの冗談、、ドッキリか、ドッキリなんだろ!?」


「いや、本気だ、もう友達辞めてくれ」


梅塚の目は本気だった。



「あー、嫌われちまったかぁ。」


梅塚の背後から橘先生が出てきた。いつもの明るい情熱的な印象はない。


「オレもな、お前の授業はしたくないんだ。」


橘先生までそんな事を言い出すのか。


「先生、先生は教師でオレの担任だろ!何言ってんだよ!」


「お前の事見てると吐き気がするんだよ。」


士郎は悲しみを超えて怒りが湧いてきた。


「私も同感だわ。」


士郎が振り返ると保健の寺田先生が睨んでいた。


「あなたの手足、気持ち悪くて触りたくもないわ。」


なんだこれは、なんでこんな事言われなきゃいけない。オレは何も悪いことなんてしてない!


「したじゃない。」


ふと目の前を見ると千絵の両親がいた。


「あなたのせいで千絵はあんな姿になったのよ。」


「キミがいなければ千絵は幸せでいられたんだ。」


千絵。。千絵はオレのせいで。。


士郎は悲しみと怒り、どちらを出せばいいか分からなかった。


「お前は人殺しだ」「お前は人殺しだ」「お前は人殺しだ」「お前は人殺しだ」「お前は人殺しだ」「お前は人殺しだ」「お前は人殺しだ」「お前は人殺しだ」




「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!」



士郎はその場で崩れた。怒りと悲しみが交差する中で新しく絶望の感情が芽生える。



「そうよ、士郎は私を殺したのよ。」



その声にハッとした。

1番聞き覚えのある声、そう千絵だ。



辺りはすっかり暗くなり、中庭の真ん中にぽつんと千絵が立っている。


しかし、その姿は士郎の知っている千絵では無かった。

髪は抜け、顔は歪み、目は焦点が合っていない。


「千絵、、なんでここに。。」


千絵は1歩1歩足を引きずりながら士郎へ近付いた。


「千絵、、」


士郎は恐怖を感じた、感じてはいけない愛する人への嫌悪感。それを士郎は感じてしまった。


「ほら。士郎だって私が気持ち悪いんでしょ、こんな姿になってさぁ、皆と一緒だよ。」


「違う。。違う!オレは、、オレは。。!」


「いいんだよ、どうせ気持ち悪い生き物になったんだから。、」





「あなたのせいで」



「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!!」





そこは士郎の部屋だった。


「はぁ、はぁ。なんだ、夢か。。」


士郎は汗だくになりながら呼吸を整える。


「最悪の夢だ。。」


しかし、あながち間違ってないのかもしれない、本当は皆心の中ではそう思ってるのかもしれない、そう思ってしまうのも仕方が無かった。



「シャワー浴びるか。。」


シャワーからあがると時計は夜中の3時を指していた。


「こんな時間に起きたら明日学校行けるかなぁ。」


士郎はベッドに腰掛け、枕元にある携帯をみると、着信が32件入っていた。


「え、相手は、、、知らない番号からだ。」


最終履歴は2時46分、士郎が起きた時間だった。


「あと1回くらい電話くれれば出れたかもしれないのに。」


そう思いながらもその番号にかけてみる。


。。プルルルル。。プルルルル。。


『あ、もしもし、士郎君!?』



千絵のお母さんだった。


嫌な予感がする。。



「はい士郎です。どうしました?こんな夜中に、」


『千絵の容態が急変したの!!今ICUに入れられてて!!と、とにかく今から病院にこれる!?』


千絵のお母さんは焦っているようだった。


「わかりました!今すぐ向かいます!!」



電話を切るとすぐさま服を着替えて玄関を出る。


「シャワー浴びといて良かった。」


そんな事を考えていると、


「あ、電車がない!仕方ない、タクシーでいくか」


駅のタクシー乗り場には、数台の待機中のタクシーが並んでいた。


「すいません。鈴根大学病院まで!」



士郎は意外にも冷静だった。


千絵の容態が急変したという事は命が危ないと言う事、それでも士郎は冷静であった。


病院に到着し、すぐさまICUのある階まで登る。


すると廊下には千絵の両親がいた。


「あ、士郎君!」


「お母さん、千絵は大丈夫なんですか!?」


「それが、まだわからないの。」


千絵のお母さんは涙ぐみながら士郎の心配をしてくれた。


「大丈夫だった?士郎君もあの場所に一緒にいたから何かあるんじゃないかって思って、電話にもなかなか出てくれないし。」


「す、すいません。ちょっと悪夢でうなされてまして。」


すると、手術中の赤ランプが消灯し、なかから桜田先生が出てきた。


「先生!千絵は、千絵は大丈夫なんですか!?」


桜田先生はマスクと帽子、手袋を取りながら


「ご両親、花井くん。藤村さんはなんとか命をつなぎ止めました。」


千絵のお母さんはその場で力が抜け座り込んだ。


「千絵は、千絵の身体には何が起きたんですか?」


「高濃度の放射線が体内にある為に拒絶反応を起こしたと考えています。」


「千絵に、千絵に会わせて下さい!」


士郎が懇願するて、桜田先生は首を横に振った。


「前にも言いましたが、藤村さんは放射能を帯びています、近くに行くのは危険です。」


「そうですか。。」


士郎は落胆した。しかし、生きてはいる、それだけで嬉しかった。


「藤村さんのご両親、後で私の診察室に来てください、お話があります。」


そう言うと桜田先生は去っていった。


「士郎君、今日は来てくれてありがとう。それじゃあ診察室に行ってくるわね。あ、もし待っててくれるなら車で家まで送っていくわ。」


千絵のお母さんは士郎の両手を優しく握り、診察室へと向かって行った。



士郎は病院の1階の待合室に戻り、イスに腰掛け天井を見ていた。


手にはまだ千絵のお母さんの温もりが残っている。


「嫌われてなんか無かった。」


そう考えると、自然と涙が出た。悲しみでもない怒りでもない、嬉しさの涙が。



~夜の華~ 終


第四作目ご拝読いただきましてありがとうございます。次回は士郎の希望の話です。

次回もよろしくお願いします。


またご感想やレビューも書いて頂けると嬉しいです。

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