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独の華  作者: 秋夜
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愛する人

左腕が動かない。。


花井士郎は絶望していた。あの夜、何が起こったのか、あれからどうなったのか、千絵は無事なのか。一度に色々な事を考えすぎて頭が熱くなる。


「何がどうなってるんだ。」


何より1番近い不安は自分の左半身が動かない事。


「なんだよ、動けよ!動いてくれよ!!」


士郎はそう自分の身体に訴えかけた。しかし、左腕はぴくりとも動かない。


そこに看護師さんが部屋に入ってきた。驚いた表情を見せ、士郎にあの後何があったのか話してくれた。


「花井さん、よかった、気が付いたんですね、、3日前に緊急搬送されてきたんですよ。あの山の管理者さんが見つけてくれたみたいで、もう少し遅れていたら危険だったんですよ。」


士郎は目の前の笑みに苛立ちを感じた。何が良かったのか、左半身は動かない事が良かった事なのか。


「千絵は、藤村千絵は大丈夫ですか!?」


士郎は不安要素である千絵の容態をたずねた。


「藤村さんも目を覚ましていますよ。ただ、、」


ただ。その言葉に恐怖しか感じなかった。


「藤村さんは、言葉を発することもできない状態です」


士郎は頭が真っ白になった。。


「それは、つまり、どういう事ですか。。?」


千絵が?言葉が発せられない。。?

なんでそんな事に。。?


分からないことが多すぎて唖然としていると、


「藤村さんは言語障害および身体障害を起こしてしまっているんですよ」


いつの間にか部屋に入ってきた白衣を着た50代くらいの男性が話した。士郎や千絵の担当医であった。


「僕は君や藤村さんの担当医の桜田だ、誠に残念だが、君の左半身も身体障害を起こしてしまっている、原因はあの山特有の植物で、毒椿の花粉を吸い込んだせいだと考えている」



士郎は思い出した、あの日あの夜、千絵が倒れた時目の前にあった椿の花。


「あれが、毒椿。。」


「ああ、あの山では昔、高濃度の放射線物質を多く含む鉱石が発見されていてね、その成分を椿が養分として取り込んで突然変異したものが毒椿だ。本来あの区画は立入禁止の筈なんだが、。」



そんな、、だってあの場所は柵も看板も無くて、それ以前に来た道を戻っただけなのに、、


「毒椿には強い幻覚作用もあると聞く、恐らくだが、いつの間にか花粉を吸い込んで幻覚をみせられていたのだろう」


桜田先生は白い無精髭を触りながら考えていた。


「とにかく、千絵に会わせて下さい!」


士郎はいてもたってもいられなかった。



桜田先生は「だめだ、今はまだ安静にしていなさい、君は今目覚めたばかりなんだ」と言って病室を出ていってしまった。


「看護師さんお願いです!一目でいいから千絵に会わせて下さい!!」


「ごめんなさい。それは私の独断では出来ないの、本当にごめんなさい。」



くそっ。こんな時に何もしてあげられないなんて!!


士郎は右手を血がにじむほど強く握り、自分を責めた。


あの時、千絵を止めていれば、、、!




それから10日経ち、リハビリを真剣に取り組んだお陰で少しずつ歩けるようになった。


この10日間、未だに千絵とは会えていない、病室の場所さえも知らされてない為、昼間リハビリの名目で院内を少しずつ歩き回ったが、探しきれていない。


そもそもこの病院にいるのだろうか、この病院はあの山から近い大学病院で、千絵の家からはすごく離れている、もう近くの病院に転院している可能性もある。


ここ数日で友人や学校の先生がお見舞いに来たが皆千絵の事は知らなかった。


知らなかった??


友人は知らなくても、先生も知らないなんて、、意図的に話さないようにしているのか。。?


疑問が怒りに変わっていく。


壁を殴り、自分の病室に戻ることにした。


その帰り、ふと病院内の地図が目に入った。


一般病棟、集中治療室、何故か1箇所だけ何も書いてない場所がある。


「5階の奥の部屋、まだ行ってなかったな。」


士郎は左足を引きずりながらも右手で手すりに捕まりながらエレベーターを使い5階に登った。


そこは、いわゆる重症患者、治る見込みのない患者がいるフロアであった。


最初から気にはしていた、でも認めたくなかった、そんな言い訳を自分に言い聞かせながら奥の部屋へ歩いていく。


他の病室とは違う、明らかに厳重にされた部屋があった。金属性の壁、鍵付きの扉。



「なんだこの部屋、、」



そこで士郎は一瞬心臓が止まりかけた、壁には、「藤村千絵様」の文字。



士郎は頭が熱くなった、何を考えているのか自分でもわからない。とにかく足がその厳重な部屋から離れていく。



士郎は走った、自分の今できる限りの力で左足を引きずりながらも走った。



自分の病室まで戻り、洗面台で吐いた。。



千絵がまだどんな状態かはわからない、しかし、あの厳重さ、只事じゃない。。中で千絵がどうなっているのか、想像すら出来なかった。





それから数日、食べ物が喉を通らない。


あの病室のこと、聞けば誰が教えてくれるかもしれない、しかし、聞きたくなかった。いや、聞く気力が無かった。


士郎は窓から見えるあの山をじっと見ていると桜田先生が入ってきた。


「また食事を食べなかったそうだね、それじゃあ体調も良くならないよ?」


士郎はこの数日リハビリを体調が悪いと拒否していた。


「熱はないし、診たところ合併症もない、そんなにリハビリが嫌かい?」



桜田先生はイスに座り窓の景色を遮った。



「何か気にしてるのか?なんでも言ってごらん、僕は一応精神科医もやっていた事があるんだよ。」


はははっと笑い、士郎が口を開くのを待った。



「じゃあ先生、5階の奥の部屋、あれはなんですか。」



桜田先生は参ったという仕草をして答えた。


「あれは、特別病室だ。放射能汚染された患者を隔離する部屋だ」



その言葉に血が沸騰するような怒りが込み上げてきた。



隔離?千絵を、??



気付いた時には桜田先生の胸ぐらを掴んでいた。



「ふざけんな!!!なんだよ隔離って!!!千絵をなんだと思ってんだ!!!」


「仕方なかったんだ!」


桜田先生の低く強い声に一瞬震えた。



「仕方なかったんだ。彼女は、藤村さんは高濃度の花粉を体内に取り込んでしまっていた。その取り込んだ花粉から放射線が放出されているんだ。このままでは病院全体に害が出る。その為にはああして隔離するしか無かった。」



士郎は胸ぐらを掴んだ右手をゆっくりと離した。



「隠していてすまなかった。君をあの病室に近付けさせるわけにはいかなかったんだよ。」


士郎は何も言わなかった。


「しばらくまた安静にして、落ち着いたらまたリハビリ頑張ろうね」


そう言って桜田先生は病院を後にした。



士郎の視線の先にはあの山が禍々しく睨んでいた。



~愛する人~ 終

2話目も読んでいただきありがとうございます。

次回はリハビリを終えた士郎が学校に戻ります。

そこで起こる出来事とは。

次回もご期待ください。

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