7.作戦は失敗を意味していました
この世界に来て数ヶ月。オズはまだ幸せになってくれない。
王様に直接お断りの話をしたおかげで婚約婚姻うんぬんの話は流れたらしい。そういえば最近アンセルに会ってないなぁ。王様から話を聞いて諦めてくれたのかな。それならいいんだけど。
今日も私はオズを幸せにするために聖女としてここにいる。
「ねー、オズ。ラナってねーすごくいい子なんだよ。私なんかのお世話してくれるんだよ」
「……」
「あとね、紅茶淹れるのも上手なの。クッキーと合わせるととっても幸せになれるよ」
「……聖女様」
「なぁに、オズ」
「執務中です。もう少し静かになさってください」
怒られた。
現在、ラナのいいところをたくさん伝えてラナを好きになってもらおう作戦中なんだけど、中々難しい。
ラナってほら、メイドさんだから、偉い人に自分から話しかけるのはいけないことなんだって。
だから、私は必死にラナ素晴らしいの話をしてオズからラナに話しかけてもらおうとしてるんだけど、これがなかなか難しい。オズって真面目だからへぇ、そうなんだ、くらいにしか聞いてくれない。ひどい。
「あ、あとねラナは」
「ーー聖女様」
「ん?」
「最近聖女様付きのメイドの話をよくされますが、別に聞いてて楽しくもなんともないです。話すのならもっと違う話でお願いします」
なんですって。
でも、違う話ならいいのか。
あんまり、人と話すの好きじゃないから話題ってパッと思い浮かばない。
「オズはなんか話ないの?」
「そもそも私は執務中です」
「……むぅ」
そうでした。
でも、今までは部屋にいたら出て行きなさいって言われることが多かったのに、それを言われないってことはオズも私に慣れてきたってことだよね。
うんうん、これで幸せに一歩近づいてるね。
でも、やっぱり幸せにはなってくれないんだよねぇ。
ソファーの上でお茶を飲みながら、机と睨めっこしてるオズを見つめる。
13歳には見えない大人っぽさ。すごいよねぇ。
「そういえばオズは婚約者とかいないの?」
「……まだいませんよ」
「じゃあ、好きな人は?」
「いるわけないでしょう」
じゃあ、もうこれはラナとラブラブになってもらって幸せになってもらうしかないよね。
「あのね、オズ。ラナはね」
「しつこいですよ、聖女様。その話ばかりするなら出て行ってくれませんか」
「……はぁい」
冷たく言われたらこちらも引くしかない。
ラナを見ると、困ったように私を見てる。うう、ごめんね、ラナ。失敗しちゃった。
「ねぇ、オズ。好きな人ができたら幸せになる?」
「聖女様は私がそんな簡単な思考回路をしてると思ってるんですか?」
「……思ってないヨ」
好きな人ができるだけじゃダメなのか。両思いが必須ですか。
オズからプイッと顔をそらしてクッキーをぱくりと食べる。
オズを幸せにするのはほんとに難しい。
もうすぐでこの世界に来て半年。せめてあと半年以内にはオズを幸せにして帰りたい。
頑張らなくちゃ。
「聖女様」
「ん? どうしたら幸せになるか思いついた?」
「しつこいです。そうではなく、最近兄上がなにか兄上の領地にある離宮を改装してるという噂を小耳にはさんだので」
「……?」
それがなにか私に関係あるの?
アンセルが自分の領地の離宮を改装しようが取り壊そうが私には関係ないけど。
首を傾げるとオズに「馬鹿じゃねぇの」みたいな視線をいただいた。泣くぞ。
「兄上は、貴女を是が非でも捕らえたいようですよ?」
「なにそれ気持ち悪い」
なるほど、監禁部屋ということか。
え、普通に気持ち悪い。断ったのに。
そんなに聖女の容姿は美しいの? オズはなんにも感じてないのに。
……いや、中学生の男の子が聖女美しい結婚したいとか思ってたら気持ち悪いや。
それにしたってアンセルって気持ち悪い。
そういう人間に限って、どうせ元の私になったらゴミのように捨てる。
聖女の器だけが欲しいならあげてやりたいくらい。
アンセルは自分を愛してくれる人間がいるのに、どうしてそれを裏切る真似ができるんだろ。
「本音は隠してください、聖女様」
「アンセル様の前では言わないよ。私も馬鹿じゃないもん。オズの前でだけだよ」
「……?」
「どうしたの、オズ?」
「いえ……なんでも、ありません……?」
なんだかもにょっとした顔をして自分の胸に手を当てながら首を傾げたオズに、私も首を傾げる。
不思議そうなオズはなんでもないと言いながらも首を傾げてる。どうしたんだろ。
「オズ、なにかあるなら私に言って? 私が力になるから」
「……」
何故かオズは胡散臭そうな視線を私によこす。
私、どこか不審だった?
いつも通りだったと思うけど。いつも通り、オズを幸せにするために頑張ってると思うんだけど。
「……貴女の言葉は随分と耳障りがよくて、勘違いしそうになる」
「勘違い? …………!」
「気にしないでください。聖……聖女様?」
オズの様子にやっとわかった。私は馬鹿だ。
「ごめんね、私、用事を思い出したから部屋に戻る」
「そう、ですか。明日も来きますか?」
「……明日は、ちょっと。ラナ、早く戻ろう」
ラナを連れて足早にオズの部屋を出る。
ああ、そうだ。どうして私はその可能性に気がつかなかったんだろう。
「聖女、お前はまた、アイツの部屋にいたのか」
「アンセル様……?」
アンセル様に話しかけられたと思ったら、私の視界は暗転。意識を失った。