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6.幸せの定義

 美味しいものを食べてオズは幸せにならなかったので、今度は違う方向で攻めたいと思う。

 本当は家族でいると一番幸せになれるんじゃないかなぁ、と思うんだけど、そもそもお母さんが亡くなってるらしいし、王様がそんな時間を取ってくれるようには思えない。あとアンセルと王妃がオズと一緒の空間にいるの嫌がりそうだよね。

 オズのこと殺そうとするらしいし。


 えー、じゃあ、なんだろ。

 ああ、そういえばこの前ラナは聖女のそばにいられて幸せって言ってたっけ。

 ……もしかして聖女と一緒にいればいるほど幸せになれるみたいな能力があるのかな?


「ねぇねぇ、ラナ。ラナはどうして聖女といられて幸せなの?」


 なにかいいことでもあったのかな。

 そしたら今以上にオズと一緒にいればオズにいいことが起こって幸せになれるかも?


「聖女様、私が一緒にいられて幸せと感じるのは他でもない貴女と共にいられるからですよ」

「……? えーっと、だからなにかいいことあったの?」


 聖女といると幸せ=なにかいいことがあった、でしょ?

 私の言葉にラナは困ったように眉を下げる。

 最近のラナは表情豊かだ。最初の頃は無表情が多かったのに。これも聖女様効果なのかな?


「私は貴女といるだけで心にポッとあかりがついたようにあたたかくなります。貴女がオズワルド様を幸せになさろうと日々奔走している姿はとても微笑ましく、優しい姿だと思います。私は、」


 そんなとき、コンコンとノックがこの部屋に響いた。

 ラナがハッとして扉の方へ向かう。ラナが扉を叩いた人物と話をしてる間、私は淹れてあった紅茶を飲みながら動かない心臓に手を当てた。


 つまり、ラナはオズのことが好き、ってことだよね。

 それなら、それならもしかしたらオズとラナがラブラブになれば、オズは幸せになれる? そうだ。昔の偉い人も恋は偉大だって言ってた。


 つまり、そういうことでしょう?


「聖女様、王より聖女様をお連れしろとのお言葉を受けて参上いたしました。私についてきていただけないでしょうか」


 考え込む私に影を作る騎士。ガチガチに緊張した彼に聖女の私は微笑む。


 幸せになる方法、みっけ。

 時間はかかるかもしれないけど、オズがラナを好きになって、それでオズとラナのキューピッドにでもなれば私は幸せになれる。


「わかりました。ラナ、ラナもついてきてください」

「はい、聖女様」


 二人を幸せにする方法。私も幸せ、オズも幸せ、ラナも幸せ。二人じゃない。三人だね。


 騎士に連れられて私が目指すは王宮の一室。いつも私が目を使って悪人を裁くための部屋に行くらしい。

 ちなみに私は普段王宮の客間にいさせてもらってます。

 客間といっても、ほとんど高級ホテルの一室みたいな感じなんだよ。すごいよね。


 テクテクと三人で縦一列で歩くこと数分。目的地に着いた。騎士が仰々しく扉を開けてくれたので、ぺこりとお辞儀をしながら部屋の中に入る。

 そこにいたのはこの国の王様と王妃、それから新しいこの国の宰相だ。


「よくぞ来てくれた、聖女よ」

「お招きありがとうございます、国王様」


 にっこりと笑う。聖女の私はこの国で王様と同じくらい偉い。なんてたって神様が遣わした聖女だもん。そりゃ偉いよね。


「本日はどうかなさいましたか?」

「ああ、聖女に婚姻はどうかと思い縁談を持ってきた」


 ピシリと笑顔が固まる。だけどすぐに小さく深呼吸して聖女を保った。


 だめ。我慢しなくちゃ。いくら殺される心配がないからって、ここで本音をぶちまけたらだめ。私は聖女。幸せになるための聖女様。

 これは私が幸せになるための踏み台。


「縁談のお話は謹んでお断り申し上げます」

「聖女よ、そなたは我らの光であり希望だ。どうか我らの息子と婚姻を結びここに留まっていただきたい」


 笑顔が壊れそうになる。だけど、聖女様だから、聖女様だから、それを繰り返して笑みを保つ。


 なんで、どうして、お前らが幸せなるために私の幸せを諦めなくちゃいけないの?

 私はあんたたちを幸せにするために来たんじゃないのに。オズを幸せにするために来たんだよ。すべては私の幸せのために。だいたい、不正を正すのもついで。なんで見たくもない罪を毎度見なくちゃいけないの。あれ、本当気持ち悪いんだからね。


「息子、とはアンセル様のことでしょうか?」

「ああ、そうだ。オズは聡明だがまだ幼い。だが、アンセルならばそなたを気に入っておるし、そなたを大切にすると我らに申し出もしてきた。それに次期国王だ。聖女にも釣り合うだろう」


 みんな、馬鹿だ。


「アンセル様と婚姻など、とてもできません。無理です」

「なぜですか! 聖女よ、わたくしの息子のどこが気に入らないと!?」

「アンセル様はすでに婚姻されております」

「聖女がアンセルの正妻でありたいというならそうしよう。それでよいか」


 笑みが、浮かべられない。簡単にそんなことを言う王が気持ち悪くてたまらない。それを、そうしようと頷く王妃も。

 ただそばにいるラナだけが、いつもと違う私の様子に気付く。


「無理です」

「な、聖女よ! 王命に逆らうつもりなのですか!」

「王妃様、貴女こそ女神の使いたる私に何様のつもりでしょうか」

「ッ、」

「王様。私は『幸福』を運ぶためにここに遣わされました。その私に一つの夫婦を身勝手な理由で壊させ、『不幸』を運ばせるのですか」


 気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。吐き気がする。反吐が出る。ああ、頭が痛い。

 早くオズが幸せになってくれないからだ。オズが幸せになってくれたら帰れるのに、まだ幸せになってくれない。だからこんな婚姻とか、そんな変な話が出てくるんだ。オズのばかばかばか。


 ここにはいないオズを呪いながら、私は笑顔を消して淡々と話す。


「王様、聖女は誰が望んでも誰のものにもなりません」

「……ならばオズはどうだ。オズならばまだ幼くはあるが婚姻はしていない」

「王様ッ! 何故……!」

「ご安心ください、王妃様。聖女は誰のものにもなりません。もちろん、オズワルド様とも婚姻いたしません。聖女は、神の子、なのですから」


 にっこりと笑みを浮かべる。人形の身体に人形のような笑み。

 神の子、そう。この姿は聖女の、女神のもの。私のものじゃない。結婚なんてできるはずがない。


「……仕方ない。わかった。アンセルには余から伝えておく。それから、オズをよろしく頼む」

「はい、王様」


 そのあとは少しだけ雑談をして私とラナは退出した。終始王妃が睨んできてうっとおしかったのは秘密。


 それにしてもしない、って言ってるのにしつこかったなー。雑談の節々にも結婚いいぞーみたいな言葉が紛れ込んでたし。たぶんあれはまだ諦めてない目だ。警戒しとこ。

 王妃も王妃だ。アンセルと婚姻することに関しては両手を広げて喜んでたくせに、オズとの婚姻話になるととたん反対する。どれだけオズのことが嫌いなんだろ。

 まだ中学生の男の子なのにね。


 あーあ、早くオズのこと幸せにしたいなぁ。

 とりあえず明日からオズとラナくっつけ作戦がんばるぞ。


 頭の中がオズを幸せにすることでいっぱいだった私は知らない。


「何故だ……ッ!」


 アンセルが私たちの話を聞いて悔しそうに壁を叩いていたことなんて。

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