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4.人を呪う聖女様

 お茶会が終わって部屋に戻ると、私の部屋の扉の前に立っているオズが見えた。

 わぁ、珍しい。私に気が付いたオズが私に駆け寄ってくる。


「大丈夫、でしたか?」

「心配してくれてるの、オズ」

「ふざけないでください。私は真剣に……」


 目を凝らして、オズを見つめてもその周りに罪はない。

 安心して微笑む。


「とりあえず部屋に入ろ。扉開けとけば大丈夫でしょ」

「そういうことでは……ああ、いえ、わかりました」


 部屋の前で話すことはお互いにめんどくさいことになると考え直したらしい。

 とりあえず部屋に入る。もちろんラナとオズの従者さんと騎士もいるよ。

 二人きり、なんてなったら恐ろしい。


「義姉上と、なにもありませんでしたか?」

「とくにはなにも」

「……本当ですか?」

「うん。あ、ラナ、私の紅茶にミルクたっぷり入れて」

「かしこまりました」


 ああ、オズってばアントワーヌがアンセル大好きで病んでること知ってるんだなぁ、と思いながらミルクたっぷりの紅茶を飲む。


 とにかく、アントワーヌがオズと婚約しろっていう提案は断らせていただきました。

 考えるまでもないです。ないです。

 結婚とか誰ともしません。聖女様も、私もしません。

 するなら自死しますくらい言ったから大丈夫だと思う。


「私ね、結婚とかしたくないの」

「はい?」

「だからね、アンセル様とはぜーったい結婚しません、結婚するなら死にますって言ったから大丈夫だよ」


 にっこりと笑ってオズに伝えた。

 ちょっと言い過ぎたかな、とは思ったけど、過激なほうがいいかなーって。

 目には目を! 歯には歯を! 過激には過激を! そういうことです。


「何故か、お聞きしても?」

「聞いてもいいけど、教えてあげない。オズがどうしたら幸せになれるのか教えてくれたら、教えてもいいよ」

「だから私は……」


 言い淀むオズを横目で見ながら、お茶を飲む。


 いい加減、幸せの方法教えてくれればいいのに。

 手を叩けば幸せになれるーとかなら、本当簡単だったのにな。なんで人の感情ってこう複雑なんだろう。私もだけど。

 単純なことで幸せになれる脳ならよかったのに。


「……いえ、そこまで言うなら私の今の状況を教えてさしあげますよ」

「本当? 教えて教えて」

「その代わり、貴女がそこまで婚姻したくない理由も教えてください」

「ん、んー、わかった」


 とくに私に不利になるわけじゃないし頷いた。

 どうせオズが幸せになったら、この世界とはおさらば。それなら別に知られてもいっかなーって。


 それに、オズを幸せにすれば私のことは解決するから。


「私が王の妾の息子だということは知っていますよね」

「うん。知ってる」

「私の母は自ら死を選びました」

「……え?」


 あれ、聞いてたのと違う。オズを見ると、その顔にはなんの表情も浮かんでない。

 なんか、地雷を踏んだ? だけど聞かないわけにもいかない。私はオズのことを知って幸せにするんだから。


「母が死んだのは私が兄上よりも優秀だったからです。母は元は正妃の侍女で、王に見初められたことに深い悲しみを抱いていました。そこに正妃の息子である兄上よりも優秀な私を産んでしまったことで、母は精神が壊れたのです」

「……オズは優秀なの?」

「はい。兄上が17で終わらせた勉学をすでに終了してます」


 それは優秀だ。ちょっと優秀すぎてまずい。


「私が五つになる前に母は自ら死にました。それ以来、後ろ盾のない私は私の才能を憎む母と兄上に命を狙われています」

「……不幸でしょ。今のオズ」

「いいえ。今では暗殺者を逆に御せる力も身につきましたし、自分を守る術もありますので不幸ではありません」

「それ、不幸の定義知らないだけだよ」

「……わかりました。仮に私が不幸だとしましょう。でしたら私が幸せになれる方法は一つだけです。


 ーー私が死ぬ以外にはありません」


 な、なにその難易度マックスな方法。

 呆然とする私にオズはにっこりと微笑む。

 脅迫された気分。ただオズは自分がどういった存在か教えてくれただけなのに。


「では、今度は聖女様の番です。貴女はなぜ婚姻したくないのですか?」

「……」


 オズが笑って私に詰め寄る。

 オズが幸せにならないと私は幸せになれないのに、どうしろというのですか。


 とにかく答えなくちゃ。


「……父も母も人間だから、だよ」

「は?」

「父親とか母親とかそういうの以前に猿みたいな交尾のことしか頭にないオスとメスなの。自分の性欲を抑えられないような人が家族ごっこするの。気持ち悪くない? 私はならなくても男がそうなる可能性あるでしょ? だから私は結婚しないの。したくないの。アンセル様だって要は美しい器の聖女とそういうことしたいってことでしょ? それならオズとそういうことしたほうがマシだもん。奥さんがいるだけじゃ満足できなくて外に女を作る男はみんな不幸になればいい」


 ……あ、聖女なのに不幸になればいいなんて言ったらダメだった。

 オズを見ると、目を丸くして私を見てる。

 あちゃ。聖女像壊しちゃった。

 唯一の救いはラナたちが話の聞こえないところにいたこと。よかったです。


「貴女も毒を吐くんですね」

「……秘密にしてね」


 そんなことを言われるとは思わなかった。というかそこなんだ。

 楽しそうに笑ってるオズから顔をそらしてお茶を飲む。

 あ、お茶なくなっちゃった。


「少し、安心しました。貴女の人間らしいところを見て」

「……そう。なら、早く幸せになって」

「私を幸せにしたいなら殺してください」

「無理なこと言わないで。私は生きたオズを幸せにしなくちゃいけないんだから」


 オズのことが聞けてよかったけど、私の使命は難易度が上がった気がしてなりません。

 女神様、やり直しを要求します。


 にこにこと笑うオズから目をそらしながら、私はラナにお茶のお代わりを要求した。

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