8本足の馬の嘆き
その馬には足が8本あった。
馬は常々こう思っていた。
「足、多すぎ」
悩んだあげく、足を減らしてもらうために魔女を訪れることにした。
出発の当日、馬が小屋を出たところへ馬主がやってきた。
「馬よ、どこへ行くのかね?」
「東の魔女のところへ行ってきます」
「ずいぶん遠いな。なんだってそんなところへ」
「足を4本にしてもらいます」
「なに。それはいかん。君はそのままのほうが美しい」
馬は唇を剥いて歯茎を見せた。
「勝手なことを言うなよトンチキ。おまえは私を自慢したいだけだろう」
図星をつかれた馬主は顔を赤くした。
「この恩知らずが! 貴様など、一生厩に閉じ込めてやる」
馬主は馬に躍りかかった。
馬は馬主の体当たりをかわした。
勢いあまって転んだ馬主に、馬は唇を剥いて歯茎を見せた。
「一生やってろマヌケ」
馬は走り出した。けれど8本の足ではうまく走れなかった。馬は足をもつれせて転んだ。
「しまった。マヌケは私だった」
起き上がろうとした馬の首に輪になったロープがかけられた。
ロープが引かれる。馬は顔を振り向かせた。縄を握った馬主が息を荒くしていた。
「観念して見世物になってろ」
馬主は近くの柵に馬をつなぎ止めた。
高笑いをしながら歩きさる馬主の背を見ながら、馬はいなないた。