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プロローグ

 「何故、このわたくしがこのような扱いを受けなくてはならないの……っ」

 リューネ・クイント・ヒュッケバインは己を運ぶ馬車の中で自問自答した。

 リューネの両手と両足には罪人のように鎖が繋がれていた。

 いや、罪人のようにではない。罪人故に鎖が繋がれているのだ。


 「わたくしはヒュッケバイン伯爵家の長女ですのよ!」

 だがリューネ・クイント・ヒュッケバインは事実を見ようとせず、ただただ憤慨する。

 

 ヒュッケバイン伯爵家。

 ハウミリオン王国で最大の港街『テルタニア』を有する領を統治する貴族だ。

 王国の交易の中心たるテルタニアは王都を凌ぐ賑わいを見せており、またテルタニアに領館を置くヒュッケバイン家は伯爵でありながらその影響力は計り知れないものになっていた。


 ……そう、もはや一週間前の話である。


 『悪行暴かれヒュッケバイン家没落!』

 そんな見出しの号外記事が国中に配られたのは一週間前。

 長年に渡り非合法な交易を続けて来た事が公に晒され罪を糾弾されたのだ。

 これを受け王国はヒュッケバイン家を解体する事に決め、ヒュッケバイン家当主ガバナー・ロスジェル・ヒュッケバインは絞首刑、伯爵婦人は人里離れた修道院へそしてその娘、リューネ・クイント・ヒュッケバインは北方領のコネルサリアへ追放される事になった。

 事件発覚から軍によるガバナー・ロスジェル・ヒュッケバインの拘束、死刑決行までようした時間は三日と無く、軍は随分と前からガバナー・ロスジェル・ヒュッケバインを処刑する機会を待っていたのではないかと噂されているが、その真意はわからない。

 ただわかるのは、リューネ・クイント・ヒュッケバインは恐らく、これから貴族としてまともな生活は送れないだろうと言う事だ

 

 「どれもこれも、あの忌々しい平民の女のせいですわ……っ!!」

 リューネは鎖に繋がれた手を強く握り締めて呻いた。


 リューネ・クイント・ヒュッケバインはお家騒動に巻き込まれた可哀想な伯爵令嬢、と言う訳ではない。

 むしろ今回のお家騒動を引き起こした張本人と言えた。 


 

 リューネ・クイントヒュッケバインは魔法学院では主席ではないものの優秀な成績を納め、元々我が儘な性格も相まって彼女は増長しきっていた。

 能力+権力+我が儘=悪役令嬢の出来上がりだ。


 そんな彼女が転落人生を歩むのはとある少女との出会いからだった。


 メイ・サカモト。黒髪に黒い瞳の小柄な少女はその珍しい容姿や希少な光魔法の使い手であることもあり学院中の話題をかっさらって行った。

 彼女が目立つと、リューネは怒った。

 「どこの馬の骨ともわからない女がわたくしを差し置いて目立つなんて!」と言った具合だ。


 感情の赴くまま魔法による決闘を申し込んだリューネは実力差を機転で補ったメイ・サカモトに敗れてしまう。


 それから幾度となくメイ・サカモトへ嫌がらせをしていたリューネだが、密かに憧れていた第二王子とメイ・サカモト仲良くなっているのを見て怒髪天、ヒュッケバイン家子飼いの傭兵を使いメイ・サカモトを暗殺しようとした。

 が、稚拙な暗殺計画は第二王子により防がれ、リューネは罪を暴かれ退学、更には今まで密かに行っていたヒュッケバイン家の悪行まで暴かれ家は没落。

 己の感情のままに動いた結果が今の状況だ。

 そんな彼女を誰が同情できようか。


 しかし当の本人は悪行を犯したと言う自覚はなかった。人を殺そうとしておいて、だ。



 悪役令嬢、なんと彼女に似合う肩書きだろうか。

 俺は《・・》思わず笑ってしまった。


 「!? ……誰ですの?」


 漏れ出てしまった俺の笑い声を聞き、リューネ・クイント・ヒュッケバインは動揺を見せないように目だけで辺りを見回した。

 だが馬車の中には自分以外誰もいない。

 馬車の御者かと思ったがどうもそうは思えないでいた。


 『やあ、リューネ・クイント・ヒュッケバイン。初めまして』

 「……誰ですの?」

 何かの魔法で語りかけられているのだろうと思い込んだリューネが声を固くする。

 『そうだなー、異世界人の総一郎、とでも名乗ろうかな』

 「異世界人? ……それで、その異世界人がわたくしに何の用ですの?」

 

 警戒を強めたリューネが手に力を入れる。

 これはリューネが魔法を放つ時の癖だ。もっとも今は魔力封じの鎖をつけられ魔法が使えないが。


 『いや? 特に用事ってわけじゃないんが……まぁ、強いて言うなら挨拶かな』

 「挨拶?」

 『うん。理由はわからないけどリューネ、俺は君に取り憑いちゃったみたいなんだ』

 「……は?」

 呆れた様子のリューネ。まあそれもそうか、突然取り憑いたなんて言われて信じるわけがない。なので俺は最終手段を取ることにする。



 『ほいっと。……これで信じてくれる?』

 「なっ、ななっ、何ですの!?」

 

 自分の意図せず勝手に持ち上がった右手に、リューネが悲鳴を上げる。

 『理由はわからないけど、俺の意識は何故か君の身体の中にあるんだ』

 右手をグーパーと握ったり開いたりする。まるで手が話していかのように見える。

 『所謂多重人格みたいなもんだよ。正真正銘別人格だけど』

 「た、多重人格? ……も、もうわけがわかりませんわ」

 『はは、大丈夫。割と俺もわけがわかんないよ』

 「その割には冷静そうに見えますわね」

 グーパーと開いたり握ったりする手に視線を向けるリューネ。

 腕に取り憑いた悪霊と話しているみたいだ。 

 俺は悪霊ではないけど。


 『そうでもないよ。ただまあ、ある程度整理する時間があったから』

 「何を整理したんですの?」

 『俺の身の振り方、とか心とかかな。俺が君に取り憑いたのは君がこの馬車に乗った辺りから。それからずっと、君の中で色々考えてたんだ。君の今までの人生と、俺と君のこれからの人生』

 「まるで下手な愛の告白の仕方ですわね」

 『あはは、ある意味強制された結婚みたいなもんだね。汝誓いますか?健やかなる時も病める時も、ってね』

 「離れたくても離れられない、と言うわけですわね」

 『残念ながら』


 そこで互いに言葉を切ってしまう。

 俺が心の整理に時間を要したように、彼女もまた心の整理を行っているのだ。

 何故わかるかって?

 「わたくしと貴方が今、運命共同体だから、ですわね?」

 『言葉を取らないでくれよリューネ』

 違う人格ながら今俺とリューネの魂は同じ身体の中に存在する。

 うーん、わかりやすく言うと人格は違うけど内心・・は一纏めにされてる感じかな。隠し事はできそうにない。


 「……ふぅ。悩んでも仕方ないですわね。そもそも、今のわたくしには何もありませんわ……愚痴の相手ができただけでも良かったと思うべきですわね」

 『ああ、その事なんだけど……なぁリューネ、君、復讐したくない?』


 「…………」

 『ちょっと珍しい魔法が使えるからってちやほやされた坂本メイ、そして自分を振った第二王子に、復讐したくない?』


 「何を、考えて──」

 『解る筈だよ。だって今や俺達は一心同体、いや、二心同体だ』


 そう言うとリューネは少し目を瞑った。俺の考えてる事を知ろうとしているのだ。

 そして、理解した。




 「……随分と、上から物を考えてくれますわね、ソーイチ」

 お、やっと名前で呼んでくれた。

 『仕方ないだろ?君の性格がこのままじゃいつか俺まで危険な目に会いそうだ。そうなる前に──』

 「わたくしを更正させ、尚且つあの二人を見返え《・・・》させる……ですわね?」

 『また言葉を取られた。……ま、そう言う事。作戦名は【悪役令嬢更正作戦】なんてどうよ』

 「壊滅的なネーミングセンスですわね……ですが」


 そこでリューネは一度口を閉じた。

 そして少し考え、口を開いた。


 「……良いでしょう。付き合ってあげますわ、ソーイチ。このリューネ・クイント・ヒュッケバインに尽くしなさい」

 『あいよ、コンゴトモヨロシク、お嬢さん』


 



 

 息抜きにちょいと書いたものなので基本的になろうの肥やしになる模様

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