【終話】
「そういえば自由の女神って、今直接行けなかったんですよね」
「え、そうなんですか?」
「同時多発テロがあったでしょ? その時に自由の女神もターゲットにされる恐れがあるからっていう理由で最近までは全面禁止だったんだけど、今は上陸しなければ見れるようにしたのよ」
「あ、そういえばありましたね」
ホテルでユーミンさんと一緒だった私は、クスノキさんと合流して三人で一緒に自由の女神へ向かうことにした。
その時にふとクスノキさんが漏らした言葉に反応すると、ユーミンさんが事情を説明してくれて、あの時の事のニュースを思い出した。
「ま、今の方が物騒だと思うけどね」
「確かに…」
「ははははは」
感傷に浸る間もなくあっさりと言われた言葉に私は乾いた笑いしか浮かべられない。
確かに。ウィキさんやソウゲツさん、異世界から来たゾークさんとマナツさん、そしてどこか不思議な雰囲気を持つ雲さん。
それぞれが交わらない筈なのに、チャットと言う手段で集まった。こんな偶然はないのだろう。
…この人達はどこかおかしいけど、まぁ。
あと、私の荷物の中に平然とした感じであのペンがある。たまに引っ付いてくるまでに落ち着いたのは、どういうことなんだろう?
そんな感じで車で走ること数時間。
私達は自由の女神が見える場所まで来ていた。
「おっはよー」
「あ、雲さん。早いですね」
「そりゃここで野宿してたらねー」
「え!?」
私が驚くと、雲さんはアイマスクを目につけながら「冗談だよ冗談」と笑い声を含ませていった。
今更だけど、雲さんの服装はどこか浮いている。
私達と似たような身体的特徴である彼は、その持前の飄々さを象徴するように正月に放送されていたら季語になった映画の主人公みたいな服装。
茶色い腹巻に白のシャツ。くたびれた茶色いコートを肩に羽織、茶色い帽子をかぶっている。ズボンも茶色で、裸足で草履をはいている。
一体どういう人なんだろうかと思っていると、ユーミンさんが彼の服装に何の感想も言わずに腕時計を見て「あと三十分ぐらいね」と集合時間までのリミットを告げる。
「あ、キャッドさんはいるから」
「はいー」
雲さんの言葉にキャッドさんは返事をする。昨日の猫の姿ではなく、普通に人間の姿で。
「あとはいつも通り騒がしい人たちと」
「ドラゴンさんだけですね」
「そういえばドラゴンさん、ウィキさんと一緒のはずですよね。でしたらきっと大丈――」
――夫ですね。そう言おうとしたところ、戦闘機の影が私達を通り過ぎた。それを追う様に何機か続く。
…………。
「今の、ロシア軍ね」
「ですね。追ってるようです」
「あー……って、ひょっとしたらウィキペディアさんとドラゴンさんじゃないんですか!?」
「その可能性はあるわね」
そういうとユーミンさんは携帯電話を取り出してどこかに電話を掛けたかと思うと、すぐさま仕舞ってから「これで無事に着陸できるわね」と空を見ながら言った。
どういう意味だろうと思っていると、追われていた戦闘機が近く――といっても数百メートル離れている――で着陸した。
そこから降りた人たちはこちらに向かい、だんだんと人影が明確になっていく。
片方はやつれた顔で。もう片方は以前と変わらぬ表情で。
その二人は私たちの所まで来ると、挨拶してくれた。
「ふむすまんな。領空侵犯みたいなことをしてしまって」
「というより……おかしいわよ…」
明らかにフラフラな女性――ドラゴンさんに、私は思わず心配した。
「あの、大丈夫ですか?」
「無理よ無理。ウィキのやつ、どうしてあの速度で耐えられるのよ…」
「慣れだ」
「水飲む?」
そういうと雲さんはペットボトルを差し出した。ユーミンさんはそれを受け取ってキャップを開け、一気に飲み干す。
「はぁ~生き返るわー」
「ところで、あと何人来ていないんだ?」
「三人ですよ」
水を一気に飲み干した彼女を無視しウィキさんが聞いてきたので、クスノキさんが来ていない人を答える。
その時、空間が歪んだと思ったら一組の男女がそこから現れた。
「まったく。あなたのせいで余計に魔力を使わなければならなかったじゃないですか」
「ふん。あれはお前が座標を間違えたからだろ」
「ゾークさんにマナツさん!」
今にも喧嘩しそうな雰囲気に慌てて私が声をかけると、二人は同時にこちらを向いて「おはようございます」「おはよう」と挨拶をしてくれた。
「これであとはソウゲツだけね」
「てめぇらは社会のクズだ!」
いきなりそんな罵声が聞こえたので驚いてそちらへ向くと、ソウゲツさんが立っていて、どこの誰か知らない人たちが正座して真剣な表情で彼の言葉を聞いていた。
「歯車にすらなれなかった役立たずどもだ! だけどそんなところで燻っていていいのか!? 否! お前達はお前達の出来ることがある!」
「…何してるのよ、あいつ」
「見た感じ洗脳してる気がするのは気のせい?」
ソウゲツさんの言葉を聞いてドラゴンさんが怪訝な顔をしてつぶやくと、雲さんは物騒なことをいう。
でもソウゲツさん一体何やってるんだろ……そんなことを考えていたら、白服の人たちがいきなり現れて話を聞いていた人たちを連れて行った。
……あれ?
「いやーマジで参った」
「いったい何勧誘してたのよあんた」
「あれが勧誘? はっ。あれは単に路頭に迷ってたやつらを仲間に引き入れたのさ。裏社会で落ちぶれていった奴らを」
「やはりか。道理で見たことのある顔ぶれだと思った」
……うん。聞かなかったことにしよう。私は何も聞いてない。
そう言い聞かせて私は「今回は特に何も起きなくてよかったですね」と両手を合わせて言った瞬間。
ウィキさんが乗ってきた戦闘機がいきなり爆発した。
「爆発したな」
「ってそんなのんきに言っていいの!? 交通手段が消えたのよ!?」
「別にかまわん」
そういうとウィキさんは小石を拾って自由の女神へ向けて投げた。
投げられた小石は加速度的に速さを増していき、自由の女神の肩に当たった。
「壊した奴はこれで死んだな」
「なんだ気付いてたのか」
ウィキさんの言葉にソウゲツさんが残念そうにつぶやいたのを聞いて、クスノキさんが言った。
「あそこからウィキさんの戦闘機を壊したようですね」
「ヒットマンの類かしら」
「おかしいわね…この周辺は陸海空と監視があるのに」
一方で、マナツさん達は眉をひそめていた。
「感じたか勇者よ」
「まだ鈍っていませんよ魔王……魔族のように変な魔力を感じました」
「でもこの気配…感じたことありますね」
その言葉に私も知らず緊張していると、雲さんがこんな状況でものんびりした声で「皆さんお集まりくださりありがとうございます」と礼を言った。
その言葉に自然と視線を向ける私たち。
それを受けて雲さんは、「もし世界が滅亡に向かっているといわれたら、皆さんは信じますか?」と質問してきた。
いったいどういう意味だろうかと考えようとしたら、自由の女神の後ろの水面から急に水柱が立った。
驚く私達。あ、でもウィキさんは泰然としていてソウゲツさんは興味深そうにしている。
そんな中でも、雲さんは話を続けていた。
「説明すると面倒なのでやめるけど、大雑把にいうならこの世界が滅亡に向かっているから力を回収しに来たよって感じ」
「力って何よ」
「なんかとっても不思議な道具とか平平凡凡や道具だったり……ともかく、『想い』のこもったものだね」
そんな話をしている間に水柱が収まり、自由の女神より上に浮いている何かが現れた。
それをどこから取り出したのかわからない双眼鏡で見たソウゲツさんが「あ」と声を漏らす。
「どうした」
「海底遺跡にあった棺桶だあれ」
「あー」
「ふむ。なるほど」
「あそこ崩れませんでした?」
「そういえば『世界が滅ぶぞー』とか言ってたわね、あの棺」
『無視するな!』
なぜだろう。今の会話で危機感が急速に失われてる。
近くに現れた棺なんてもはや誰も驚かず、私を除いてみんな雲さんの所に集まっていた。
「つぅかお前ゾーク達と同じ異世界から来たやつだろ? なんだって日本の人情映画に出てくる恰好なんだよ」
「あれを見てるのかソウゲツ」
「そりゃあれほど泣ける映画はほかにないだろ」
「ギャングがあの映画を見るなんてね…」
「え、ていうかそんな映画あるの? 僕前の世界で買った服装そのまま流用してるだけだけど」
「異世界にもそういうのがあるんですかね」
『話をきけぇぇぇ!!』
棺が雲さん達へ叫ぶ。だけどみんな一瞥しただけで何も言わない。
私も何とか混ざろうと移動し始めたら、棺が私に気付いた。
「……」
『……』
「……あ」
『あのペンを返せぇぇ!!』
「キャァァァ!」
どうやら私を覚えていたようで、棺は浮いていながらも高速で私を追いかけてきたから、たまらず私は走り出す。
怖い恐いこわい! 棺が追ってくるとか悪夢!!
そんな風に思いながら必死に逃げていたら「はいどーん」という気の抜けた声が近くでしたと思い振り返ったら、雲さんがその場に立っていた。
「棺なら蹴っ飛ばした衝撃で消し炭になったみたい。大丈夫?」
「あ、うん…けど」
そういうと私は座り込んで、笑いながら言った。
「立てないや」
そこから私達はみんなでニューヨークを観光した。クスノキさんがガイドしてくれるという驚きもあった。
襲撃はあれからなかった。棺が消し飛んだらテロ事件がなくなったという報告がユーミンさんにあったので、おそらくみんなそれに関連付けたのだろう。
雲さんは渡ってきた世界をしてくれた。ゾークサンやマナツさんがいた世界も行ったらしいけど、目的のものがなかったから普通に立ち去ったとか言ってた。
で、帰り際。
私達が空港の入り口で別れを惜しんでいると、急に私のバックが輝きだしたので、その原因を探していたら、海底遺跡から持ってきたペンだった。
それを見た雲さんが「あ、君が持ってたんだ。よかったらくれない?」と言ってきたので話を聞いていた私はそのまま彼に渡す。
すると、そのペンが球状になったかと思うと、いきなり矢となって飛んだ。
それを満足そうに見た彼は、「じゃ、僕は先に帰るよ。みんな元気でね!」と言って駆け出し、すぐさま消えた。
第二回目のオフ会もこのメンバーだからかとても不思議なものだったけど、とても刺激的で楽しかった。
そう考えたら自然と、私は言葉を漏らしていた。
「また、オフ会やりませんか?」
それを聞いたみんなはとてもいい笑顔でうなずいた。
名前:双月キシト
作品提供:交差するオフ会シリーズ
不和世界に参加して、その他感想や一言:ども、双月キシトさんです。最近忙しく中々来れなかったりしましたが、だいぶリアルが落ち着いてきたので、そろそろ執筆復帰しようと考えています。執筆している作品は「最強の勇者と最弱の勇者の物語!!」「交差する運命のオフ会シリーズ」となっています。作品は今停滞していたりしていますが、作者自身は完結させる気マンマンですので、長い目で見てくれると嬉しいです(/▽\)♪
今回、仮面さん主催のリレー小説でも双月さんが書くお話や双月さんの小説「オフ会シリーズ」が登場します。出来れば参加する作者さん方と楽しく物語を紡げればいいと思っています。
それでは話が長くなりましたが、私達の物語を楽しんでいってください♪
名前:末吉
不和世界に参加して、その他感想や一言:この企画に参加して思ったことは、私の基本はどこまで行っても会話文だということですかね。最近地の文が増えてきましたが、それでも会話となると熱の入り方が違うのがわかりました。あとは、原作キャラクタをいかに崩さないかに気を付けました。お疲れ様でした。