#012 ゆえに世界の終り
「今、お前以上に私に近い存在はいない」
絶対神は言った。
「つまり、今僕が絶対神を倒せば、世界の崩壊を食い止められるってことで良いのかな」
「さすがは我が息子だな、まだ何も言っていないのに、ほとんど理解しているではないか。私が何のために、わざわざお前の眠りを覚まして、世界を渡らせたと思う?」
絶対神は問うた。
しかし返答は疑問形であった。
「待って待って、そう言えば僕は、飛行機に乗ったりベッド探しの旅inヨーロッパをした記憶とかがあるんだけど、これは一体――」
「偽りの記憶に決まっているだろう。ただ、流、お前の記憶はとある世界の無作為に抽出された人間の体験に基づいているので、お前の実体験としては偽りに過ぎないが、まるっきり存在しなかったというわけでもないのだぞ。いきなりバックボーンがゼロの状態で放り出されるのも都合が悪いと思ったのでな」
「それは、どういう――」
「つまりな。お前は、初めてこの世界に入ってきたときから、この世界に『存在している』のだ。それまでは私の中にあった一つの光珠にしか過ぎなかった」
そうだ、お母さん。
青年――流は、絶対神にそう呼びかけた。
「名前を、思い出したよ、お母さん。母さんの名前は、ラグネだ」
絶対神は、それに対して、そうか、と答えたきり、何の言葉も発さなかった。
「他に質問があるなら、答えるぞ。この世界が崩壊するまで、まだあと数分あるからな」
「それじゃあ、わざわざ僕に光珠をばらまかさせて、その上でもう一度回収させるなんて面倒なことをした理由は?」
「それは答えられないが、考えれば分かるはずだぞ」
(今は)答えられない、の括弧の中を意図的に省略して、絶対神は言った。
「ただ、まあ、ヒント代わりに少しだけ種明かしをしてやるとすれば――」
絶対神は、流の心臓辺りを指差した。
「お前が回収してきた光珠は、お前の手元に渡った時点で、微量ずつお前の中に蓄積されている、とだけ、な」
流が自分の胸元に視線を落とすと、ぼうっ、と、左胸が光を発した。
それは青年が今まで渡ってきた世界との、そしてその世界で出会った人たちとの、かけがえのない絆に他ならなかった。
流は、絶対神のその説明だけで、すべてを悟る。すなわち、絶対神は。
「さあ、我が息子よ! 私を殺して今ある世界を救うか! それとも私と一緒に、二人で新しい世界に行くか! 選べ!」
――元から、流に倒されることを想定していたのだろう。
流が世界の破壊を望むのもまた良し。
それを望まないのなら、青年に分け与えた光珠をバックアップとして、世界を修復させれば良い。
「僕は――」




