8th
「ふっほほほほ、鮮やかな動きと言い、我も久々に惚れ込んだぞ。さてお遊びはここまでじゃぞ?我が右腕にして四天王たるハードルフ・ルイ・エロメロスが貴公に勝負?」
「はぁ…はいはいエロね?…で?なんか言った?」
「ぬううぅう?エロメロスだ!ええい。あの減らず口の小生意気な少年を今直ぐギャフンと言わせるのです。行け、ハードルフ!もう泣いてあやまっ?」
「やだよ。勝負とか面倒くせェ〜し」
俺達を含む自称怪盗サクラちゃん一味が興味津々なリナちゃんを加え、お宝ゲット作戦に乗り出すさなか、最下層にてちょび髭おっさんの脇でこの無双劇を眺めていた大男。
エロ?とか言っていたな。
かなり腕に自信があるのか、ラクサス兵士とは明らかに違い、レスラー然とした筋肉質の両肩をコキリと鳴らし太い首とスキンヘッド。
良く映画やアニメに例えれば見かけ倒しな咬ませ犬。
うん。中ボス的なモブ夫くんと名付けようか。
分厚そうな動物的な顔面を不気味に引きつらせニヤリと微笑む。その体格にお似合いそうな自慢の湾刀を背中からシャラリと抜いてはペロリと一舐めする。
それが合図となり、ゾロリとラクサス兵の背後に待機中だったロングランスを掲げる隊列。
その前方に隊を崩すことなく深紅を主張とした衣装を纏い、明らかに違いを見せる30名規模の小隊に別れる。
ラクサスとは事実上同盟国にもなる赤をシンボルにする国家。クラスリアか。俺の嫌な予想が的中しなければ良いが――
ケイジくんとモブ夫くんを取り囲み完全な輪形陣を組み上げる。
「さあ舞台は整えたぞ。少年。もう君の選択権はこの距離から串刺しになるか」「それともエロメロスと勝負に従うかだな」と別の意味で盛り上がり始め。
勝ち誇った表情を向け中継役にもなるおっさんが人差し指で自慢のちょび髭を伸ばしご機嫌の様子が伺える。
「その刀…テブテジュだな。極めて原始的な湾刀の剣身に鮫の歯をワイヤーで括り、たしかテムリス連邦公国海軍が肉食海棲爬虫類を駆除するのに」
「ふはははは!フレックイン学園の生徒にしては勉強熱心だな小僧!文字通り正解だ。さあこっから先はこのワシ自ら実技試験だ。安心しろ、あの親方さまはガキは殺しはしねェじきぶかい方だ。だが少しで気が変われば上に居る仲間も人質のようなもんだ。ま、お前のその細い刀をたたっ切ればワシの勝ち。どうだ、やる気になったか小僧!」
「はぁ…人質とか面倒くせェ事するなアンタ。そうか、ならここに居る全員倒しちゃえば」
「んだと!!クソガキ!」
「そっちの方が好都合だな」
「我慢の限界だ。構わねェ!やちまえ!」
「うわちゃぁ…逆くにあの連中挑発してどうすんのよバカケイジ」
「もう手遅れだわ…ったく」と、取り囲む輩を余計坂だてし。まるで一騎当千劇の如く本気な乱戦に突入し始めた惨状に片手で額を抑えながら膨大なため息を零す。
方向的にケイジくんはサクラちゃんが見ている以上は絶対に相手を殺しとかは不可。しかし、その相手を余計坂だてる行為イコールなぶり殺しに掛かるのは目に見える。
まぁ。群がるザコ兵とは違い飛び抜けた戦闘センスを持つケイジくんなら真剣同士でも峰打ちで余裕で凌げるとは思うが。例外で相手を傷つけてしまうかもしれない。
そんな流血自体にもなればかなり重大なトラウマを抱えるサクラちゃんは当然。
サクラちゃんやケイジくんを気遣う彼女の苦悩を他所に最下層ではインスタントながらコロシアムかつバトリング的なステージを演出しているようにも見えるのだが。
「ったく、ケイジはあの連中挑発して戦争なんか始めてんのよ、それにさぁ!ちょっとリナ?ねえ、あーもぅ壁の口車に乗って勝手な事を!私はもうどーなっても知らないからね!」
かなりヒステリー気味にブチ切れ始めるフェリアちゃん。その彼女の機嫌に油を注ぐかのように下方のバトリング騒ぎに乗じ、複数の部下。ようはザコを引き連れ下方からワラワラと登って来たちょび髭おやじは両手の平をすり合わせしてはしめしめとおっさんなりな完璧なる作戦なのだろう。
多分下側での対決でケイジくんを釘付け状態にした隙を伺いお宝とドラゴンをゲットする。
事の重大さに当然の如く気付く所か、半分切れかかりな彼女の爆弾を起爆させるには充分すぎる惨状が待ち受けている事も知らず。
「とうのケイジが言ってた壁を逃がし、それに乗じて撤収する作戦はあのバカが逆に熱くなり失敗。それに肝心なカエルや流もリナを巻き混んでお宝ゲットに乗り出す。しかもなにあのムカつく髭おやじまで登って来て、これも全部流がグズグズしてるせいよ!」
「いや、なんで俺ェ?」
うわわっ!腹いせとばかりにお、俺の足元に次々に着弾って、や、ヤバイ。今度はクルリと両手で起用にリフトバックしながはライフルじゃなく2丁拳銃に持ち替え、無差別射撃しそうな勢いみたいだ。
ていうか冷静にっつてももう既に遅いか。
下側から登って来たあの残念すぎるちょび髭おっさんに今度は和かに笑顔を向ける。多分彼女の怒りの矛先があのおっさんに向いてくれたのは幸いというべきなのか。
フェリアちゃんは中間付近。高台からワンステップを踏み出し20フィート上方から階段を踏み台にし更にダイブする。
下階から群がる集団に急降下する形で某アクションヒロインの如く螺旋状にバレル斉射をかます。
薬局が気持ち良い音色を奏でながら石段に次々と跳ね返り。凡そにして五六人の兵士が軽く吹き飛ばされる。
特種な魔弾を使用しているのだろうか。硬い石畳を粉砕させては砂煙が宙を舞い。シルエットを捉える隙も無く取り囲む兵士に向け片足を軸にクルリと両手を広げながら鮮やかに撃ち込む。
更に追い打ちをかける輩に向け「甘いよ?」と、両手を交互に向け、前方から群がる輩に火力で制圧。いわゆるマケドニアシューティングで如く吹き飛ばし悲惨な叫びを奏で複数の兵士が落下。
「むむ?こんな死角にガキ共の仲間が隠れていたとは?あの小娘?今さら我に」
「お、親方さまぁ!あ、あれを」
「「「げェ!」」」
「そ、そこのガキ共!我のお宝に手を出すんじゃありませんんん!」
ブチ切れ気味なフェリアちゃんに圧倒されながら自慢のちょび髭をピンと張り詰めらせ慌てふためく素振りで単身乗り出すおっさん。
そのおっさんに続け様にゾロリと部下も続く。更にその後方から2丁拳銃を構えながら「逃がさないわよ!」と追撃。
この追撃劇プラス。サクラちゃん達と作戦会議中組を巻き混んで眠れるドラゴンのお宝争奪劇が切って落とされる。
まぁカオスな事はカオスだけどね!




