◆二日目◆ 後編
「あー、俺は探し物に来たんだ」
多分だけど。
「そしたらうっかりその戦科とかいうやつに紛れ込んじゃったみたいで……すまんな」
「そんなので納得しろと!?」
「そうとしか言いようがないんだもん。……で、お前ら知らない?俺の探し物」
「どんなものかも知らないのに!?」
どんなもの。
俺も知らない。でも強いて言うなら……あれは、そう。
「丸くて、きらきらしてて、光ってて、こう、眩しい」
ーーー
ふと、疑問に思う。
ここが学校ならばなぜ今まで人を見かけないのか。声がちっとも聞こえないのか。人が歩く音すらしない。
「そういえばなんで人がこんなにいないんだ?」
「誰かさんが戦科試合に紛れ込みやがってくださったせいで、システムの安全面とか問題があるんじゃないか?ってことで今日は一日メンテだかなんだかで学校休みだよ」
恨みがましく振り返った平凡顏の天条少年は可笑しな日本語で誰かを罵る。
「メンテって……ゲームみたいだな。……んで?なんでそんな休日にお前らは学校に?」
「お前の世話と言うか情報引き出したりとか一任されたんだよ!」
「おぉう。それはお疲れ様とだけ言っておこうか……」
「お前のせいだよっ!」
おや、それは身に覚えがないなぁ。
ぺたんぺたんと足音を響かせながら先程の医務室に戻ろうとしている。なぜ教室に連れて行かれたのかは不明である。
半分くらい閉じた視界ではろくに前も見えていなかったらしい。
無言でいきなり立ち止まった金髪の背中に激突してしまった。
「……った。いきなり立ち止まるなよ、ていうか何があった?」
目をもう少し開いて金髪君の向こう側を見る。
そこには良くも悪くも特徴の少ないイケメン殿が睨み付けるようにこちらを見ていた。
金髪君も天条少年も険しい顔をしてその彼を見ている。
なんていうか、この状況は。所謂。修羅場?
ていうか、お友達?同んなじ制服着てるし、うん。
「……お友達?」
睨み合っていた双方が同時にこちらを見る。
「僕がこんなのと友達だって?巫山戯ないでくれるかな」
イケメン殿は口を開かれた。
「……お前は……この前のっ」
そしてこちらを認識、指を突きつけてきた。
「戦科試合邪魔してきたやつ!」
その言葉は何故だか俺に向けられているような気がした。
自分を指差し尋ねる。
「……え、俺?」
「そうだよ!……くそ、お前さえいなければそいつら全員叩き潰してやれたのに……!回線エラーとかで追い出されて……!」
彼は拳を握り怒っている。ように見える。
「挙句の果て学校は休みになったのに事情聴取だと!?巫山戯るなよ!」
「巫山戯てないよー」
「喧嘩売ってるのか!僕は被害者なのに!」
聞いちゃいねえ。
いつもこんな風なのか?と言う風な問いかけの意を込めてちらりと盾にしていた金髪の顔を仰ぐ。金髪は肩を竦めた。
同じ問いを顔に浮かべ平凡顏の天条少年を見る。彼も肩を竦めた。
誰一人答えてくれやしない。俺はこのイケメン殿の普通なんて知らないのに。
「どれもこれも全部お前のせいだ!よって、僕はお前に戦科試合を申し込む!」
ーーー
「どうすんだ?」
「どうすんだ?とは?」
巻き込まれて悲愴な顔をして俯いた天条少年を尻目に、同じく巻き込まれた金髪が俺に問いかけた。
「お前、戦科試合の経験は?」
「ゼロだな」
「だろうな。……正直、一方的に嬲られてお終いだと思う」
酷い言われようである。
「向こうは成績優秀者だからな。コー……いや、必殺技みたいなのがある。あれを使われたらお終いなんだよ」
「お前らにはないのか?」
「少なくともオレには、ないな」
何と無く含みを持たせた言い方が気に掛かりつつも、今は気にしない。
彼らにしか通じないであろう言葉をわかりやすい必殺技だなんて言葉に置き換えてくれたあたりに優しさも感じるから。
「相手のは、どんなんなんだ?」
「……難しいな。わかり易く言うと……そうだ、お前が急に現れた時の光の球はあいつのだ」
脳裏に浮かぶ、意識が戻った瞬間に視界を白く染め上げた、光の球。
よくよく思い出して見ればあれは何と無く探し物たる白い光る丸いやつに似ているような気がする。
「……俺は探し物をしてる、って言ったよな。もしかしたら、それが見つかるかもしれない」
「丸くて光ってて眩しいとかいうやつか?確かにそれっぽいようにも聞こえるが……取れるものでもないぞ、あれ」
確かに、そうだ。
ーーー
「ここで会ったが百年目ッ!今日こそお前らを倒してやる!」
今までお目にかかったこともないような、まるでゲームの中に出てくるような剣を突きつけて向こう側に立った彼は怒鳴りつけてきた。その剣の先にいるのは俺ではなく俺と少し離れた場所にいる天条少年と金髪。
どうやら俺に喧嘩を売ってきたのは建前でしかなく本当は彼らと戦いたかったらしい。
『試合開始ッ!』
誰かの知らない声が高らかに。
同じくして何か硬いものの勢い良く打ち合わせられる音。
微かに火花まで散っているような気がした。
けれどそれはどうしても少し遠くの出来事でしかなくて。
少し離れたところで甲高い音が鳴り響いて、その衝撃がここまで押し寄せたって、何故だか其処には安全だとわかりきった何かがある。
それだけの話のような気がした。
ふと、遠くに離れたイケメン殿が剣を振りかざし何かを叫ぶ。
光の球が生まれた。
それは飛来する。
……あぁ、確かにあれは反則レベルの必殺技だなぁ、なんて。
遠距離攻撃とかチート。
「何ぼーっと突っ立ってんだ」
後ろからどこか呆れたような声が聞こえる。
振り返ればさっきまで戦っていた筈の金髪が突っ立っている。
「いやぁ、未経験の俺が何かできるかなーって考えたところ何にもないことに気づいてだな。こうやって眺めるにとどまっているわけだ。……そういうお前は?良いの?一人に任せっきりで」
「……もう、オレにできることはないから、な」
少し自嘲気味に言った彼に疑問を覚える。強そうなのはこっちなのに。
「あれを見ろ」
彼は指を差す。
その先には目を疑うような光景が。
「あれが、心二だ」
そこには飛来する光の球と、そしてそれを弾き、切り裂き、そして進んでいく人影。
さっきまでのどこか抜けた顔に、笑顔を浮かべて。
幼い印象を受けたのに、それを塗り替えてあまる程の凶悪さを滲ませ。
何よりも鮮烈に、生きていることを見せつける。
その様はここが仮想世界で、その表情も全て作り物だということさえ忘れてしまいそうな程に。
そして、長く思えた一瞬はすぐに終わる。
天条少年の繰る剣がすとん、と。まるで簡単に唖然とした顔のイケメン殿の首を落とした。
飛び散る鮮血によく似たポリゴン片。
そして、激しく詰りたい。平凡顏に少しの共感を覚え、平凡であろうと少しの親近感を覚えたのに。
余程お前のほうがチートじゃねぇか!
ーーー
「……なぁ、おまえ、なんにも言わないのか?」
「なんにもってなんだ?俺が今夜泊まる場所とか?」
「ちげぇよ!……そうじゃなくて、さっき、その。見たろ?オレがあいつ倒すとこ」
少しばつが悪そうに彼は言った。
さっきの。
ああ、平凡最強説浮上したやつか。
「別に。強かったし、良いんじゃね?それに俺の探し物があれじゃないこともわかったし」
「おま、オレらが頑張ってる時にそんなこと考えてたのかよ。それはねぇって」
明らかにホッとした様子だった。
そんな風になられるとぎゃくに居心地が悪い。
「……それにしてもお前、変わってるな。言われないか?」
「この前言われたばっかりだ」
「だろうな。……普通、さっき見たいの見たやつは皆言うよ、向こうの方が優秀だってな」
それはそれは辛そうに。握り込んだ手を爪が傷つけないか心配になる程。
「別に、どうだって良いんじゃねぇの?お前のことなんて別に俺知らねぇし。だから強いのもお前で突っ込み上手もお前で、で良いんじゃねぇの?」
変なことを悩む奴だ。
そんな風に言う奴は無視して視界を遮断してしまえば良い。耳も塞げば良い。何もみえないし聞こえない。
それなのに、どうしてそんなことで明らかに嬉しそうな顔をするのだろうか。
彼はどこか嬉しそうな顔をして、背を向ける。
「そっか。……そうだ、どうせお前まだ探し物も見つかってないみたいだし、暫くはこの辺にいるんだろ?なら、今度友達を紹介するよ。見た目は美少女なのに中身はただの変態なんだ」
そして、唐突に俺は理解する。
なんてことはない。探し物なんてすぐそばにあった。
背を向けた彼とぶれて、淡くゆらゆらと零れるように輝く光の珠。
いつかみたものとは少し違うような気もするが、けれど間違いなくこれだと確信する。
手のひら大のそれは、ふわりと彼からずれてそっと差し伸べた手の中に落ちた。
「きっと、お前とも仲良くなれるよ」
あり得るはずの無いきっとを、楽しそうに彼は語る。
なんとなく、彼は振り返る。
そして、目を見開く。
「あー、えっと、すまんな。それはきっと素敵だが俺はもう帰らなきゃならないんだ。探し物も見つかったし。だから、その、なんだ」
ゆらゆらと、手の中からこぼれる光に合わせて視界もゆらゆら歪む。
「さよならだ、心二君」
それと、ありがとう。
きっと、言えなかったけれど。
もしも。同じ時間を生きていたなら、きっと友人になれただろうな、なんて。
ある筈のないもしもを思うなんて馬鹿みたいだけど。
だから、夢なら早く覚めればいい。
そんなこと思って、大切なアイマスクを下げて視界を閉じた。
名前:天嶺
作品提供: バ革命
不和世界に参加して、その他感想や一言:
『はじめまして!不和世界……いかがでしたでしようか?この度は作品提供として参加させていただきました。自分が作った世界観に第三者の方が本編とは異なるエピソードを紡いでくださるなんて……!ワクワクが隠せませんねぇ。投稿まで僕も確認できないのでとても楽しみです!尚、今回提供させていただいた「バ革命」は今現在も連載中でございます。お暇がございましたらぜひともご覧くださいませ。あ、それと個人的にではございますが、執筆していただいた左傘さんお疲れ様でした。仮面さん、今回の企画に参加させていただいてありがとうございました。そして読者の皆様、読んでいただいてありがとうございました。』




