陸話:終
「――という訳で、【参照】を手伝って頂けたら嬉しいのですが……」
リヴさん……リヴさまの前に立つと足がすくむ。エマさんのような頭のおくまで見透かされるようなそんな恐怖でもなく、ヒジリさんのように掌の上で玩ばれているような恐怖でもなく
ただ。
穏やかななまなざしで見られているだけなのに、感じる威圧感。
それは、この方が絶対的強者であるがゆえなのだろうか
「事情はわかった。だが、断るといったら?」
一種の茶目っ気のような、好奇心のようなソンナモノを感じさせる声音で、絶対者がフヒトに尋ねた
「仕方ありません。【自己参照】します」
フヒトが淡々と答えた
「……【自己参照】は危険だ」
「ソンナモノはぼくが一番知っています。だけど、アリスでは【参照】がまかせられないので」
やれやれ、というように首をふったリヴさまが「いいだろう」といって俺のそばに立つ
「ありがとうございます。では【参照】を」
わずか、数分後。リヴさまが目を開けた
「端的にいうなら、光珠はきみだよ。探索者……いや、天雲 流」
あまくも ながれ……?
それは何だ
それは俺
それを俺は知らない
それを俺は知っている
「どういうことなんだ?」
無邪気に有栖がフヒトに尋ねる
「光珠は、初めから探索者の中にあるという解釈で構わないと思うよ」
その言葉に、自分を否定されたような気がして、
“逃げたとしても地理が解るフヒトたちから何も知らない俺が逃れれるはずがない”のに。
その場から、逃げた
エマさんとヒジリさんとの会話が思い出される。
「異常に定着度が高い来訪者なのか」
「[史記]は、彼のように此処に来てすぐにこんなに定着度が高い来訪者を見た事はございません」
「そんなに遠まわしに言わなくとも、よい。異常なのだろう?」
「あくまで、ぼくが見たことがないだけです。もとより、来訪者はイレギュラーな存在。例が少なくてわからないので」
それと
絶対神との会話が脳裏に浮かぶ
「最適化という現象」
つまり、こういうことか
俺は、光珠があったからこのセカイで生きれた
異物を淘汰するこのセカイで生きられた
だけど、これは俺をある意味奪った
きっと、光珠が最適化してくれてなかったならば、俺は存在を定着させる事なんてできなくて消えていた
だけど。そのせいで俺は……俺は、俺がわからない
俺が今わかるのは、このセカイに最適化された存在である[探索者《俺》]
俺は、俺がわからない
「やぁーと、みいつけた。探したんだよ。[探索者]くん? 」
誰だ。いや、誰でもいいか。もう、俺は俺じゃあなくて別のモノで俺は消えてるんだから
「探すの苦労したんだよ? キミの定着度が早いから、わかりにくくてさぁー」
苛立ちをぶつけようとして、どうしたんだよ、と不機嫌に言おうとして顔を上げた瞬間。
立ってられないほどの恐怖を感じて、座り込む
例えるなら、凶器が服を着たようなそんな存在
「黙ってないで、何かイイなよ。来訪者。って、いーところなのに」
視界の端に、有栖とフヒトとリヴさまが見えたがどうでもよい
もういい、寝るか。と愛用のアイマスクをつけようとした瞬間
空間にノイズが走る
フヒトとリヴさまが透けて、目の前がヒビ割れに覆われた。光珠がソレを【ダイス】だと告げたが、何も出来ないともわかったから何もしなかった。
しばらくしてソレが収まると
あの『壁』の前に有栖と居た
「ここはそう! キミが初めに居た場所だよ。サクヤ」
悪趣味としか言いようがない。ここは、俺が消えた場所なんだから
「そうだね、ここはキミが淘汰された場所だよ。天雲 流。ほら、アリス! よおく見てよ。ここはキミのお仲間の天雲くんが消えた場所だよ」
両手を広げ笑いながら、周りを示す様子を見せられる。それを見たくなくてアイマスクを降ろそうと思ったのに、有栖と危険な奴がいるのにそんな事はできないと叫ぶナニカに従ってアイマスクをしないように握り締める
「ユ=イヲン……」
有栖の搾り出したような声に喜んだように「名前、覚えててくれたんだねぇ。気味が悪い」と侮蔑にみちた声音で笑う
「あァ、そんなに身構えなくて良いよ。今回用があるのはキミじゃあない。キミを連れて来たのは、フィーのそばにキミがいるのが不快だっただけ、だからさ」
嗤い顔をユ=イヲンが浮かべた
「サクヤがコワれるの、見てなよ。折角の特等席なんだから」
その言葉に、有栖が無鉄砲にユ=イヲンのほうに、飛び出していって、
そして、
俺は
俺は
「やめろ」
とユ=イヲンのほうに走る
[探索者]が天雲流に告げる。
ユ=イヲンは、俺なんて簡単にコワせる存在だと
だけど、
僅かな時間かもしれないけど一緒に過ごした有栖を、
俺のために無鉄砲な事をする有栖を
見捨てて逃げるなんて出来なくて
最適化された[探索者《俺》]の警告を無視して、有栖とユ=イヲンの間に飛び出した
ユ=イヲンが反射的に出した権限の一部を食らった様で、身体の感覚が薄い
「サクヤ?」
ぼんやりとしてきた俺を不思議そうに眺めるその目には、だんだん涙が溜まっていく。
テメェがしようとしたことも俺と同じ事な癖に。泣くなよ
「お前がやかましいから、寝れなかっただろうが。勘違いはするな、俺のためだ。睡眠時間を確保するためだからな」
「死にぞこない」
と、吐き捨てた。ユ=イヲンがゆっくりと迫ってきた
その瞬間
「やめろ、ユイ」
厳かな声が響きわたる
「早かったね。この頃腕が落ちたのかな。またリヴが予想より早く着てる。それとも――アレが大切なの? ねぇフィー」
「ユイ。ソレは帰るようだ。放っておけ」
「リヴ? 帰るって、『壁』の外に――嘘」
有栖に触れた、天雲流の身体が薄くなっていく
「コワれているわけじゃない。これは……?」
アリエナイとフヒトが呟いた
「アレの能力だろう」
リヴが指したその先には、有栖から天雲流に渡される光の塊があった
「ちょうど、天雲流が来たとき【ダイス】が起きていた。すまない、光珠はキミだと言ったが見間違いだったようだ」
「【ダイス】によって、アリスと一緒になりかけていた光珠の一部はここに運ばれて、キミと最適化したみたいだけど」
フヒトたちの声が遠くで聞こえる
「サクヤ?」
状況を飲み込めてなさそうなアリスに
「俺の名前は天雲 流っていうんだ。よろしくな」
と右手を差し出して、それが触れた途端
――――光の奔流に包まれた
名前:本宮 愁
作品提供:言葉の庭のAlife
不和世界に参加して、その他感想や一言:
言庭の舞台である『学都DiCe』は、「狭く深い世界を描きたい」という思いから『限られた空間にありったけの情報を詰め込んだ亜空間』としてデザインされました。私自身とても愛着がある世界です。たびたび難解とも評され、独自の法則性を持った特殊な土地――まして世界観の多くが明かされていない段階(※言庭の完結は舞台決定の3ヶ月後)で『学都DiCe』を選択することは、非常に敷居の高い挑戦だったことでしょう。正直、選ばれるとは思ってませんでした。
このような企画を発案し、特殊な世界観を快く受け入れてくださった運営の方々、および言庭を舞台に選んでくださったライターの瑠璃さんに深く感謝いたします。




