肆話
「で、フヒト! コーシュって何なんだ?」
学園の中を歩いていると注目を浴びすぎてイヤだという理由で、『壁』の近くの人気のない場所を歩いている。『壁』の方向を見ると鬱々とした気分になるのは有栖も同じようで、『壁』のほうを見ずに有栖がフヒトにじゃれつく
「アリス、僕が知ってると思ってるの……?」
「だって、フヒトは何でも知ってるだろ」
コーシュ――光珠――についてフヒトが何か知っていると確信している有栖にフヒトがため息をついた
「光珠なんて僕は知らないよ」
「フヒトでも知らないこと、あるんだな! 意外だな。で、おにーさん! コーシュって何なんだ? ……ってああっ! 俺、おにーさんの名前訊いてなかった! おにーさんの名前、教えてくれ」
恐れている事を有栖に尋ねられた。俺の名前は何か。それは俺にもわからないのに
「俺の名……?」
俺はさしずめこのセカイでは[探索者]で、あってソレ以外ではないのに。名前なんて……と言いたいのに何故か言えなくて
「俺は朔夜だ」
そう適当に名乗った。『たん“さく”し“ゃ”』から『サクヤ』と適当に取った名前だが、胸にすっと染み渡る。それが俺の思い出す事のできない本来の名前であるかのように。だって光珠を捜すのに朔夜は好都合。明るいところで明るい物を捜すのは大変で、だけど暗いなら明るい物を捜すのは楽だろう
「サクヤ、改めてよろしくな!」
元気よく差し出された右手を拒否したいと思うナニカを感じながら、「おう、こちらこそよろしくな」と笑って右手を差し出した




