参話
「あぁ、もう! なんで僕に一任するんだよ……」
フヒトが心底イヤだというかのようにため息をついた
あの後、タイミングよく入ってきた“ヒジリ”さんによって、紅い少女――エマさんというらしい――と冷戦が勃発し、暫くしてやってきたリヴさんという方が場を納めた。フヒトが「またか……」と疲れた顔でため息をついていたからよくある事であるのかもしれないが、心臓に悪かった。平和ボケした××人が1m先で武器が振るわれているのを見るなんてありえないんだから、仕方ないという事にしたい。別に俺がビビりというわけじゃあなくて、銃刀法が無いこのセカイに俺がいるんだから仕方ないんだ。きっと
「なあ! フヒト。フヒトはコーシュって何か知ってる? コーシュって言うからにはさ、コーヒーかなんかが関わっているんじゃないかなと思うんだけどさ、フヒトはどう思う? なあ、フヒト?」
何かにおびえているような有栖が熱心にフヒトに話しかけるが、フヒトはそれに慣れているのか軽くスルーし、俺が尋ねたことについて淡々と説明を始めた
「さっきも聞いただろうけどね、きみは本来此処にいるべき存在じゃないんだよ。まぁ、きみはそこのアリスと違って[探索者]として定着してきているからこのままなら市井の民となりうるだろうけど。それでもね、きみが異質である事には変わりないと覚えておいて」
求められた真実を正確に与える、そのことがすべてである[史記]にとって、説明することは存在証明みたいなものなのかな、とそんな事をふと考えた
フヒトが説明を続けていくのと比例するように、有栖の表情は曇り話題を変えようとする声も大きくなる。それを、なぜか困惑したかのようにフヒトが見ていた。[史記]にとって、求められた真実を正確に与えることはすべてであるはずなのに。そんな事を気にするのは異常――いや、おかしいなんて事はな…………いやおかしいか。フヒトは[史記]なんだから
理由もなくアリスが恐れている事がなんとなくとはいえ理解できる
少し考えればわかる簡単な事だ
『フヒト』に自分を否定されたくないのだ。有栖は
俺と同じ来訪者
しかし、定着度の低い彼にとって、このセカイは異質
そして、このセカイを理解できないモノは消えるという理。それを有栖は理解しているのに受け入れられない。仕方ないとは、思う。平和に暮らしていたのにいきなり別の場所に落ちてきて、自分のすべてを否定されたのだから
「フヒト、すまないんだが……いきなりぜんぶ教えてもらっても忘れそうなんだ。だから、また訊いてもいいか?」
苦笑とともにそんな事を告げると有栖が目に見えて明るくなり、フヒトに外に行きたいとお願いを始める
「コーシュを捜さないといけないんだろ? 外行こうよ」
フヒトの髪や服をグイグイと引っ張るさまは、我侭とか自分勝手ともとれそうなのにそんな風には全く見えず、どこか無垢な子供が親の服のすそを引っ張るさま子を髣髴させる。何故だろうか。有栖から感じられるフヒトへの絶対の信頼ゆえか、それとも有栖の捨てられるのを恐れる小動物めいた瞳ゆえか、それともそのどちらも、であるのか
「……分かったから、髪を引っぱらない。何度言ったら分かるの。アリス」
「だって、フヒトさっきから俺の事無視するだろ」
すねたように顔を背けるさま子は、外見年齢に不相応。だけど、有栖だから仕方ないと思えるほど有栖に毒されてる。それが悪いわけじゃないのだけど感じる違和感は何故感じるんだろう。俺はフヒトのことを今さっき知っただけでなのも知らないのに。何故――――俺は今何を考えていたのだろうか。思い出せな……いやただぼんやりしてただけか




