壱話
『「受け入れられない」世界』
作者…夜月瑠璃
原作…『言葉の庭のAlife』
原作者…本宮愁
「ここは、どこだ……」
何がどうなっている。わからない
だが、さっきの神殿みたいなところから飛ばされてきたということは理解できないがなぜかわかる
それにしても、ここはどこなのだろう。見渡す限りに立つ建物は、どこか見覚えのあるもの。懐かしいというより似通った物を知っているために“さっきの遺跡みたいなのが夢”だったと思いたくなる
しかし、そんな僅かな希望を否定するかのように『なにもない』のに行く手を阻む“モノ”
心なしか白く曇ったソレは―――――
「……『壁』」
触ると何も抵抗なく、俺の腕を飲み込む。……ちがう。俺の腕を『受け入れた』
水のような素材なのか、よく見ると流れがある
だけど、
なにも感じない。
抵抗も触感も温度も何一つ感じない
「これは、『壁』だ」と本能がそう囁いた。何をしても俺ごときが通り抜ける事など出来ない『壁』
分かっている
だけど、受け入れられない
力いっぱい体当たりしても、揺らぐ事の無い『壁』に何度俺はぶつかりにいったのか。3ケタを越したあたりで数えるのを止めた
「――ッ」
短い息を漏らし『壁』にぶつかりに行く
衝撃なんて欠片もなく俺を『受け止める』この『壁』が憎い
受け止められる感触は不快な物ではなく、むしろその逆であるのに……
形振り構わず、「俺を否定しろよ」と叫びたい
もし、この『壁』にぶつかったら激痛が走るとか、この『壁』が異常に硬いとかだったならば、俺は「諦めがついたのに」
弱者として、ヘラヘラ笑ってさぁ仕方ねえよなぁとか言って諦められたのに
なんで、なんで、なんで! こんなに、この『壁』は『優しい』んだよ
優しいという言葉は語弊がある
正確に言うならば『絶対的強者からの絶対的弱者への哀れみ』とかが近いんじゃないだろうか
コレを作った奴は絶対性格悪い。俺が諦めれねぇ無さまなさま子をグラスでも持って笑ってるんじゃねぇか、とそんな想像をしてしまう。嘲る価値もない絶対的弱者を暇つぶしに眺めて哀れんでくださるんだろうな
なぁんて、考えたときだった
「やめたら? 無駄だから」
緑青色の髪を首の後ろで房に分けて肩にかけ腰の後ろで纏めた髪型の男とふわふわとした金髪の男がいた
――――待て、今俺は何を考えた。『緑青色』? そんな洒落た色の名前、俺が知っているわけがない。俺は、俺はただの…………
俺は何だ
何一つ“俺”について思い出せない
「混乱してるところ、悪いんだけど僕に着いて来てくれるよね?」
断るなんて面倒な事は止めてくれ、というかのように緑青色の髪の男が言った
「フヒト、強引過ぎるとお――いたっ」
金髪の男の足をフヒトと呼ばれた男が何の躊躇もなく踏みつけた。お前がいると話がややこしくなるから黙って、と目が告げている
金髪の男がコクコクと首を縦に振るのを少しも信頼していない目でじとっと見ると足をのけた――と同時に勢いよく金髪の男が話し出す
「俺は有栖! 有栖來兎。で、こっちがフヒト! おにーさんの名前は?」
よく言えば、無邪気。悪く言うなら考え無しなんだろうな。だけど、今の俺にはソレがなぜかありがたい
「アリス……きみは言われた事もできないんだね」
怒りを押し殺したような笑みをみせるフヒトに俺は笑いかける
「俺は何所に着いて行ったら良いんだ?」
俺の言葉に自分の役割を思い出したのか、付いてきてと一言歩きだす
俺が目を背けていた方向に
――――――“学校”の方向に
すたすたと歩くフヒトを追いかけながら、有栖からの質問を聞き流す
答える余裕なんて俺には無い
何所に連れて行かれるのか。此処は何なのか。聞きたい事は山ほどある。だけど、俺には対価として与えられる物は何もなく、俺は『壁』が受け止めてくれるが、部外者なのだから。最悪不法侵入者として、グサリなんて想像が簡単に出来すぎる。
イヤだ。怖い。行きたくない
だけど、小市民な俺はもし逃げたら敵意があるとみなされて拷問されるんじゃないかとか不穏な事を考えて逃げれない。それに逃げたとしても地理が解るフヒトたちから何も知らない俺が逃れれるはずがない




