02
十数分……俺の足だから、数分かもしれない……歩いた頃、街に辿り着いた。
小さな街ながらに割と賑わっている。
霧が立ち込めているのは……いや、霧よりも温かくまとわりつく……湯気か。
街には湯気の他に藁葺き屋根の小屋などが立ち並ぶ。
簡単に温泉街をイメージしたのだろう。
確かに街の名前はレイオリア温泉街となっている。
「よし。では失礼させてもらうよ。」
「じゃあね!お兄ちゃん!」
お兄ちゃん?!
なんとクロウとサーラは兄妹だった。
今更ながらにビックリの事実だ。
俺が驚いている間に彼等はログアウトし、その場には俺とクロウだけになった。
「さて、クロウ。どうする?」
相変わらず口をパクパクさせて声が出ていない。
「と、取り敢えず……あの表札みたいなので行き先を決めようぜ。」
彼は数秒間の沈黙を経て、短く小さいが、俺によく聞こえる声でこう言った。
「はい……」
なんということか。
やはりコミュ障であった。
と、俺が表札に辿り着き行き先を見ると、後ろから不意に声がかけられた。
「君、一人かい?」
俺の少し後ろを歩いてたクロウが話しかけられている。
「え、いや、あの、ふ、二人です。」
俺の方を指差しながら言った。
確かに二人だが……パーティも何も組んでいない。
「じゃあ、二人とも来てくれるかい?パーティメンバーが足りないんだ。」
「あ、べ、べ、別に大丈夫ですけど」
「取り敢えず、暫定的にでいいからさ!」
「はい、わかりました。」
クロウの語尾が上がったのは聞いてなかったことにしよう。
取り敢えず、俺も頷き名前も知らぬ彼に着いて行くことにした。
数分の後に、彼は宿屋に入った。
続いて入ると彼は彼の仲間らしき者達と話しているのが見られた。
「リード、足りない二人は見つかったか?」
「後ろに着いて来ている奴らじゃないか?」
中々に曲者が揃う面子の様に見えた。
と、リードという名の男性プレイヤーは場を仕切った。
「はい!と言うことで、パーティメンバーを揃ったので自己紹介と言うことで!俺はリード!騎士だ。前衛は任せてくれ。」
橙の短髪に、いかにも初期装備の革鎧を鳴らしながらリードが自己紹介を済ませる。
その次に、こんな奴がMMOにいるのかと言う位に整った短髪、筋肉質の身体を持つ男が自己紹介を始める。
「俺はセカンドだ。リアルの方でセカンドやってるからセカンドだ。職業はリードに同じ騎士。タンクやるつもりだから、よろしく頼む。」
なるほど、球児だったか。
「ハラです。ジャイアンツファンです。程々に仲良くなれたらと思います。僧侶ですのでピンチになったら言って下さいね。」
「ラッキー。職業、魔法使い。よろしく。」
えらく簡潔な自己紹介をしたラッキーと野球好きをアピールするハラ。
と、みなさん俺をみて来ますが……あ、自己紹介がまだか。
「流です。職業は侍。よろしく。」
「く、クロウです。職業は、死霊使いです。よろしくお願いします。」
少しアクセント等々、変なところがあったがクロウも無事に自己紹介を終えた。
と、リードが手を叩き再び場を仕切る。
「よし、自己紹介も終わったことだし行くところを決めよう。」
数秒間の沈黙の後にリードが口を開いた。
「僕は小さな森に行くべきだと思う。」
「なるほどな。確かに他は難易度が高過ぎる。」
「デスペナルティは面倒臭いしね。」
恐らく彼等は他のゲームもやってたのだろう。少し聞いたことのある言葉もあるが……
「よし、決めた。小さな森に向かおう!」
「了解。」
「よし!アイテムの分配等々は――」
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小さな森に三種類のMobがPopするようだ。
バット、ラフレシア、キラービー。
それぞれ吸血、腐臭、毒針などスキル持ちだが最初の方なので効果は低いらしい。
気軽に行こうとリードは言っていた。
小さな森に入り、数分間歩くと早速エンカウントした。
「バット五匹だ!陣形は言った通りに!戦闘開始!!」
陣形は、リードとセカンドがタンク……主に敵のターゲットを取りまくる……をするからラッキーと俺が攻撃、ハラはサポート、クロウは遊撃と言う形になった。
「上手い。」
ラッキーという少女が話しかけて来た。
どうやら俺の刀捌きに対してのようだ。
「どうも!」
軽い返事を返し、再び敵にうちかかる。
このバットとやらは小さく攻撃は当てにくいが一発でも当てれば簡単に死ぬ程度のHPだった。それに、バットの攻撃自体、そんなに痛くない。
「ラスト一匹!」
最後の一匹を抜刀で伏せると戦闘は終わった。やはり、そんなに消耗はしてない。
「凄いな。攻撃力は中々に高いんじゃないか?」
「ああ、そりゃ侍だしな。」
樹の生い茂る道を進む。
と、なんとも表現のし難い色の花……の形をしたモンスターが出て来た。
それを俺は抜刀……技名は刹と言った……をしてしまった。
「ラフレシアは倒すなって……遅かったか!」
「あぁぁ〜すまん!」
「仕方が無いさ。そんな時は……血路を切り開いて……」
俺は再び刀を抜くと、リードとの技……いやあえて業と言おう……を見せた。
リードがしゃがんで斬ると、それを襲って来た花を彼を飛び越した俺が縦に斬り裂く。
再び斜めから来た花をリードが立ち様に斬る。さらに来た奴をしゃがんだまま、下部を斬り倒す。最後に二人は立って決め台詞を吐いた。
「押し通る!」
「罷り通るぜ!」
と、ノリノリで決めた二人。
自分でも中々にかっこよかったのではないかと思う。
「よっしゃあ!俺らも続くぜぇ!」
球児が叫ぶと鬨の声をあげてハラとクロウ、ラッキーが続く。
セカンドが負けじと前に来てタゲをとる。
それに従い、リードと俺、ラッキーがメインで攻撃、クロウも渾身の右ストレートを放っていた。
ハラはセカンドなど前衛の回復と、見事なチームワークで押し切った。
「ふぅ……」
「フロアに進もう。」
なんとかラフレシアを約二十体を倒すとフロアに進む。
「やばいぞ!モンスターハウスだ!」
セカンドが叫ぶと、この森に湧くモンスターが大量にPopした。
「退くぞ!って……」
渡って来た通路にもラフレシアが湧いていたのだ。
「くそぉ……」
「仕方ない!陣形を崩すな!!固まって動けば問題ないはずだ!」
多い。ラフレシア大量発生の時よりも多い。
何しろ他のもいるからだ。
「せいやぁっ!!」
最初に発動した全方位攻撃……水仙月といった……を再び使用。
バット三体、ラフレシア三体、キラービー四体の計十体を斬り伏せる。
「このまま!押し通るぞ!」
リードが声を張り上げる。
と、何か足りない気がした。
「クロウっ!!」
二連撃技、閃刹を繰り出しクロウを襲っていたモンスターの半分を始末する。
「大丈夫か?」
「はい!」
始めた聞いた普通の声。
「残りの奴らを始末するぜ!」
「行きましょう!」
意気揚々、行ったはいいものの数は減っており、俺とクロウは最後、同時にバットを斬り、殴り伏せただけだった。
「よっしゃあ!終わったぜ!」
セカンドがタワーシールドを高々と掲げ、叫んだ。
「あ、あの……その……な、流……あっ、あ、ありがとう。」
「気にすんな、クロウ。」
なんだか急に距離が縮まった気がした。
カミカミのお礼だったが、結構嬉しいものだ。と、彼の胸が少し光った気がした。
システム的なものではない、謎の光が。
「先に進もう!」
やっとこさ、この世界から出れるかもしれない希望が見えてきた。




