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傭兵探偵の事件簿

作者: クシナダ

「夫と別れたいんです」

 滑らかな金髪と、白磁のような肌を持つ美しいエルフが、苦悶に満ちた表情を浮かべながら言葉を絞り出した。

 昼下がり、不意に事務所を訪れたのは、シアと名乗ったエルフの女性だった。


 俺の名前はカイン。この街でしがない探偵事務所を開いている。

 以前は幾つもの戦場を渡り歩く傭兵だったが、とある事件により傭兵を引退した。

 その後は探偵稼業で糊口をしのいでいるが、どうにも生活は不安定だ。


 エルフの外見は二十歳を過ぎてからまだ大して時間が経過していないように見えるが、エルフの見た目の年齢と、賭けポーカーで借金癖のある鍛冶屋のドノファンの「明日には金を返すから」という言葉は、同じくらい眉唾ものだ。

「別れたいんなら、役所に離婚届を出せばいいだろうに」

 無愛想にそう言った俺の腰を、後ろから手が伸びて小突く。

 いや、小突いた本人は軽く突っついたつもりなのだろうが、その勢いは殴ると表現しても何ら誇張表現ではないのが、たまらない。

 苛立たしげに振り向いた俺の視線の先には、むくれた表情の少女の姿がある。

 もう十代の後半に差し掛かっていると言うのに、成熟した大人の女の気配が微塵も感じられないのは、他人ごとながら気の毒でしょうがない。短く切りそろえた栗色の髪に、利発そうで意思の強さを感じさせるエメラルド色の瞳が特徴的だ。

 こいつは俺の助手のリリ。人間とドワーフのハーフだ。

 紆余曲折の上、半年ほど前から俺の事務所で助手として働いている。

 人間の母親の血が濃く出たのか、リリの外見は人間にしか見えない。だが、父親のドワーフの血も確かに入っていることを、時折イヤでも(主に怪力で)思い知らされる。

 ドワーフは器用な種族で知られるが、どういう訳かリリにはまるで器用さが無い。

 怪力だけ受け継いでもバランスが悪すぎるぞという俺のボヤキなぞ、どこ吹く風だ。

(仕事を選り好みしている状況じゃないでしょ!)

 リリが小声で俺をたしなめる。

 確かに事務所の家賃の支払いも毎月厳しいのは事実だ。

 過去に三回ほど滞納してしまったこともあり、大家の信用は無いに等しい。また滞納すると、今度こそ追い出されかねない。

「で、役所に離婚届けを出せない事情でもあるのか?」

 俺に話を促されたシアは、伏し目がちに事情を語り始めた。



 街の外れにある古びた倉庫が、シアの夫が指定した待ち合わせ場所だった。倉庫の中へ足を踏み入れると、年季の入った農耕具類が所狭しと置かれていた。

「誰なんだ、お前は?」

 シアの夫・タンガロイは、俺を見て警戒心を剥き出しにした。

 まぁ、妻の代わりに俺のような無粋な輩が現れたら、そういう反応になるのは自然な話だ。

「あんたの妻から依頼を受けた探偵だ。連れ出した娘さんを渡してもらえないか?」

「シアからどんな話を聞いているのかは知らんが、他人の家庭の事情に余計な首を突っ込まないでもらおうか」

 タンガロイは、がっしりとした体格をしている。暴れられでもしたら面倒なことになりそうだ。

「呑んだくれて仕事もせずに家族に暴力を振るうあんたが、離婚に応じず困ってるって話を聞いてるよ。おまけに一人娘も家から連れ出してるってな。このままじゃ警備隊に通報せにゃならんところを、俺のようなしがない探偵に頼んで、なんとか穏便に済ませたいというのが、奥さんの希望だ」

 タンガロイの瞳に、より一層の警戒の色が浮かぶ。

「とにかく、離婚するかどうかの前に、夫婦で冷静に話し合ったらどうだ? 近頃の警備隊は、新しい国王がフェミニストを気取っているせいか、やたら女の言い分ばかり鵜呑みにして早合点な動きをするって噂も聞く。最悪、いきなりとっ捕まって投獄される可能性もあるぞ」

 倉庫の奥で、ガタリと鍬が床に倒れる音がした。

 十歳に満たないほどの少女が怯えた瞳で物影からこちらを見ていた。

「ルーファ! 出てくるんじゃない!」

 タンガロイが怒鳴り声を上げると、ルーファと呼ばれた少女は慌てて物影へ隠れた。

 やはり娘と一緒に行動していたか。どこかに監禁でもしていたら、厄介なところだった。

「すっかり怯えてるじゃないか。娘だけでも先に解放してやったらどうだ?」

「お前に娘は渡せん! 帰れ!」 

 そう叫んだタンガロイの体が、一瞬で火球に包み込まれた。

 あまりの唐突さに俺の反応が一瞬遅れた。

 火球は十秒ほどタンガロイの体をたっぷりと舐め尽くすと、出現したときと同じ唐突さで一気に消滅した。

「おい、しっかりしろ!」

 俺は地面に倒れ伏したタンガロイの側にしゃがみ込む。

 周囲には、肉が焼け焦げる異臭が立ち込めている。 

 タンガロイは息も絶え絶えだった。

 肺まで焼かれたのか、呼吸すらままならないようだった。

 タンガロイが、苦しげに口を動かして、何か言葉を発しようとしていた。

 俺は耳をタンガロイの口まで近づけると、微かな声が確かに聞こえた。

「は……反対、だ……」

「どういう意味だ? おい!」

 タンガロイの体が脱力するのが分かった。

 俺は舌打ちをしながら周囲を見回すと、倉庫の入り口近くの林に、月明かりに照らされた人影が浮かび上がっていた。

 すぐに倉庫の外へ飛び出して人影を探しまわったが、既に消えていた。

 次にルーファの姿を探して倉庫の奥に進んだが、どこにも姿がなかった。

 こいつは大失態もいいところだ。腹立たしい気持ちが抑えきれずに廃材を蹴り飛ばすと、人気の無くなった倉庫に騒音が虚しく響き渡った。



「……以上が、あんたの旦那が死んだ経緯だ。警備隊にも同じ報告をしてある」

「この度は本当にご迷惑をおかけしました。夫は借金などで色々な人から恨みを買っていましたので、今回の件も身から出た錆かと思っています」

 憂いに満ちた様子で、シアはそう言った。

 タンガロイと倉庫で会った翌日の昼過ぎ、シアは再び事務所を訪れていた。

 明け方まで、何者かに殺されたタンガロイに関して警備隊の取り調べを受けていた俺は、アクビを噛み殺しながらシアに事情を説明していた。

「タンガロイは、火の魔法で殺された。恨みを買ってそうな人間の中で、火の魔法の使い手に心当たりはあるかい?」

「……直接の心当たりはありませんが、借金相手に一人ぐらいいても不思議ではないですね」

「なるほどな。あぁ、それと一応聞かせてくれ。失礼に思うかもしれないが、あんたはどの系統の魔法を使えるんだ?」

「――わたしは、水の魔法を使えます。それでは、娘の捜索状況を警備隊に聞きに行きますので」

 シアはそう言って一礼し、事務所から出ていった。



 その日の夜、俺とリリは路地裏で息を潜めていた。

「ガセネタじゃないだろうな? ガセだったらお前の今月の給料は大幅に下がることになるぞ」

「確かな筋からの情報だってば! あのシアってエルフの同僚から聞いた話なんだから!」

 リリには別行動をとらせ、シアの人間関係を調査させていた。

 リリの情報網にかかったネタによれば、シアが夜な夜な密かに出入りしている施設がこの近くにあるとのことだった。

「あのエルフの人妻が不倫ねぇ。意外だとは言わないが、相手は誰なんだ?」

「このあたりの娼館を取り仕切る男みたいよ。一年ぐらい前から、変装して娼館を訪れるシアの姿を見た人がいるのよ。シアと昼間に食堂で一緒にバイトをしている主婦なんだけどね」

「やれやれ、変装しても同僚にバレてるんじゃあ、意味がないな。おっと、お喋りは終わりだ」

 身を潜めている路地裏からは、例の娼館の裏口が見える。

 シアらしき人物が、辺りを警戒する仕草を見せてから、裏口から中へ消えていった。

「よし、潜入するぞ」

 緊張した面持ちのリリが、ゆっくりと頷いた。



 裏口から潜入した娼館の中は、豪奢な内装になっていた。外観は古びてはいたが、その印象は完全に覆された。

「こんなに内装も豪華にするお金があるんなら、なんで外観も綺麗にしないのかな?」

「この手の商売は、大っぴらには出来ないもんなのさ。法律上ではアウトだが、警備隊は存在を知っていても、取り締まることはない。昔から、社会のグレーゾーンに位置する商売だ。もっとも、ある程度の賄賂を警備隊に握らせているからなんだろうが」

 俺とリリは、娼館の中を慎重に進みながら、声を潜めて会話をする。

 細長い廊下から、広間に出た。壁に備え付けられた燭台の蝋燭が、薄暗くあたりを照らしている。

 その時、か細い声が聞こえた。幼い少女の声のようだった。二階の部屋からだ。

 俺とリリは顔を見合わせ、足音を極力殺しながら二階への階段を駆け上がる。

 二階の廊下の奥の扉は外側から南京錠で施錠されていた。俺はショートソードの切っ先を使い、南京錠を破壊した。

 扉を慎重に開けると、部屋の中心にベッドだけが置かれていた。この娼館には、似たような部屋が幾つもあるのだろう。ベッドには、シアの娘のルーファが不安げな表情で腰掛けていた。

「――大丈夫か?」

 俺の顔に見覚えがあったのだろう。ルーファは駆け寄ってきた。

 リリがルーファを抱きしめてその頭を優しく撫でてやると、泣き始めた。

 数分後、落ち着きを取り戻し始めたルーファから事情を聞くと、タンガロイが殺された倉庫から何者かに拉致されて、この部屋に監禁されていたらしい。

 とにかく、まずはルーファをここから連れて脱出することが最優先だ。

 二階から一階の広間へ降りて、先ほどの裏口を目指そうとして俺たちの前に、立ちはだかる人影があった。

「探偵さん、わたしの娘を連れてどこに行くんですか?」

 人影は、昼間に事務所で会ったときとは打って変わり、妖艶な雰囲気を身に纏ったシアだった。

「娼館で監禁されている子供を見つけたら、誰だって外へ連れ出してやりたくなるさ」「娘は聞き分けがないから、お灸を据えているんです。ご心配なさらないで」 

「あんたが旦那を見限ってどこの誰と密会しようと、俺には関係ないがな。だが、乗りかかった船だ。目覚めが悪いから、この子だけは連れていくぞ」

「別に構わないと言いたいところだけど、それも出来ない事情があるの」

 シアが静かに両手を組み合わせる。

「昼間に話した通り、わたしが使えるのは水の魔法よ」

 その刹那、シアの両手が発光し、水流が虚空で渦巻き出す。水流は複雑な動きで形状を変化させながら、俺の体目掛けて弓矢のように飛んできた。

 横に跳躍してかわすと、水の矢は床板を派手にぶち抜く。

 俺は腰の鞘からショートソードを抜き放つ。

 シアは体術に秀でているようには見えない。接近して殴りつけて終わりにしたいところだが、この魔法の威力だとそうもいかない。最悪、両手を切り落とせば、魔法の詠唱は出来なくなる。

「せめて事情ってやつを話してもらえないと、ここで死んでも成仏出来そうにないんだがな」

 シアは、水流を体に纏わりつかせながら、見下したような表情を浮かべて口を開く。

「ろくでなしの夫を持った妻が、幼い子どもを育てるために娼館で働き始めた。そのうち、娼館の主の情婦になる……どこにでもあるような陳腐な話でしょ?」

「娘を監禁したのは何故だ?」

 シアは俺の問いには答えず、両手を違った形に組み直す。

 水流が瞬く間に消えると、今度は火炎が渦巻き始めた。

「――なんで!? 水と火は正反対の属性だから、両方使える人なんていないはずなのに! いくらエルフだって例外はないはず……」

 リリが驚愕した。無論、俺も同じだ。

 今度は火の矢が俺を襲う。ギリギリでかわしたが、壁にぶち当たった火の矢は、一気に壁を燃え上がらせ天井にまで広がっていく。

「おい! お前も含めて全員が焼け死ぬぞ!」

 シアは冷酷な微笑を浮かべると、裏口の方へ走り去った。

 俺たちも、その後を追いかける。

 炎上する娼館の裏口から路地裏に出ると、五十メートルほど先でシアが待ち構えていた。

 シアは既に詠唱を始めている。簡易的な詠唱ではないのが、両手を次々と別の形に組み直している様子から伺い知れた。詠唱の長さは魔法の威力に比例する。先ほどとは比較にならないほどの威力の魔法を放つ気なのだろう。

 この狭い路地裏に、左右への逃げ場はない。詠唱が完了する前に、シアの両手を切り落とすしかない。

 俺はショートソードを強く握りしめながら疾走し、一気にシアへ肉薄する。

 シアが手の平を前に突き出す。眩い光と共に、無数の火の矢が出現して俺に殺到する。

 火の矢が俺に到達する寸前、ショートソードで路地裏に放置されていた樽を叩き切る。

 樽の中身の液体が、俺の体と火の矢にぶち撒けられる。このすえた臭い――液体は腐った葡萄酒だろう。ただの水なら理想的だったが、この際贅沢は言ってられない。

 葡萄酒により勢いを削がれた火の矢は、俺の体に多少の火傷を作ったが、致命傷には至らない。

 俺はさらに間合いを詰め、再び詠唱を始めようとしていたシアの右手を切り落とす。

「もう止めろ。次は左手が無くなるぞ」

 激しく出血する右の手首を左手で抑え込んだシアが、苦しげに喘ぎながら地面に片膝を着く。

「……あなた、七〇一部隊の生き残りなんでしょう?」

 思わぬ言葉に虚を突かれた俺は、シアの行動に対する反応が遅れた。

 シアの左手から水の矢が放たれる。今度はもろに喰らってしまい、俺は石畳の上へ無様に吹き飛ばされた。

「彼から聞いているわ。同胞殺しのカイン。あなたの命を狙う輩は、十指に収まりきれないほどいるんですってね」

 苦痛に耐えながら、シアは言葉を紡ぐ。

 俺は痛む肋骨に難儀しながら、体勢を立て直す。ショートソードを両手で構えながら、シアに油断なく近寄っていく。

「あんたの男ってのは、俺の古い知り合いか? さっきの水と火の魔法の妙な使い方も気になるな。男から妙な贈り物でもされたんじゃないのか?」

 シアは、左手で胸に付けたペンダントを隠すような仕草を見せた。

「そいつにカラクリがありそうだな。黙って渡せば、左手まで無くすことはない」

 シアは再び左手を突き出す。今度は水の槍とでも呼べそうな形状で、水流が強烈な勢いで放たれた。

 シアの左手に、不意に飛んできた石が当たって水の槍の軌道が俺から逸れる。

 リリがご自慢の怪力を存分に発揮し、道端の石を投げつけたのだ。怪力で加速した石の威力は、シンプルながらバカにならない。

 俺はショートソードでシアの左手を容赦無く切り裂いた。

 痛みで気絶したシアの瞼から、一粒の涙が滴り落ちていた。痛みのせいなのか、もう戻れない家族で過ごした日々への思いなのか、俺には伺い知ることは出来なかった。

 シアの両手首に止血処理を施しながら、ペンダントを見やる。

 こいつは回収しておかないと厄介なことになる。

 ペンダントの鎖を引きちぎりながらシアの胸から剥ぎ取り、腰の道具入れに雑に押し込んだ。

 いつの間にか、夜明けの時間が来ていた。 



「七〇一部隊って何?」

「知らん。なんだそりゃあ」

 さっきから、しつこく同じ質問を繰り返すリリにうんざりした俺は、外出することにした。シアを警備隊に引き渡してからの数日は、色々と多忙でずっと睡眠不足だったのに、リリがこの調子じゃあ、事務所に居てもうるさくて昼寝も出来やしない。

「それと、あのペンダントは何なの? シアさんが、水と火の魔法が使えたことに関係あるの? 魔法原則を無視した力なんて、まるで奇跡じゃない!」

「さぁてな、どうなんだろうな。だが、奇跡ってのは、道具の力で起こすようなもんじゃない。自分の力で起こさないと、有り難みがないだろう?」


 事務所から出た俺は、鍛冶屋のドノファンの家を目指して歩いていく。

 あれから、シアを情婦にしていた男の行方を探したが、既に街から姿を消していた。

 七〇一部隊の名を知り、奇跡を起こす道具を持つ男。いずれ決着をつける必要があるが、まだ時間はかかりそうだ。

 タンガロイを火の魔法で殺したのはシアだった。

 水と火の系統の魔法を、両方使えることは有り得ないという魔法の基本原則が、シアが犯人と疑われる対象になることを阻んでいた。

 ルーファは、シアがタンガロイを焼き殺したことを知っていた。倉庫の物影から、シアがこっそりと火の魔法を放つ瞬間を目撃していたからだ。シアも決定的な瞬間を見られてしまったことに気づき、それ故に娘を娼館へ捕らえていたのだろう。

 タンガロイが呑んだくれて家族を蔑ろにしていたのは事実だった。生活に困窮したシアが娼館で働き出してから、家族の歯車は加速度的に狂い出していったが、その原因を作ったのはやはりタンガロイだ。

 タンガロイが娘を連れ出して何をしたかったのかは、よく分からないままだ。妻と決別して全てをやり直したかったのか、それとも娘を材料に妻を脅して金をせびりたかったのか。どちらであっても、ルーファが父を亡くし、母は投獄されて孤独になってしまったことだけは確かだ。

 結局ルーファは、鍛冶屋のドノファンの娘夫婦が引き取ることになった。子宝に恵まれず、養子を探していたそうで、渡りに船とのことだった。

 俺としては、いい加減なドノファンの娘がどんな人物なのか、大いに不安だった。

 今は事務所でリリがルーファの世話をしているが、いつまでも置いてはおけない。

 今日はルーファを引き渡す前の最後の確認にやって来たというわけだ。

 鍛冶屋に着くと、ドノファンがいつもの陽気な調子で俺に手を挙げた。

「おいドノファン、あんたの娘はルーファをしっかり育てられるんだろうな? 父親を見ていると最高に不安になって仕方がない」

「安心しろ。娘はかみさん似で、俺と違って生真面目な性格だ。あの子をしっかりと育てることを保証する」

「ったく、あんたと正反対の性格のかみさんか。そのかみさんとあんたの馴れ初めが、最高に気になってきたぜ。賭けポーカーの席で披露したら、ポーカーよりもよっぽど盛り上がるんじゃないのか?」

「バカを言うんじゃねえ。さぁ、酒場に行くぞ! 今夜こそ奇跡のロイヤルストレートフラッシュで、場を総取りしてやる。奇跡って言ったって、俺の実力で起こす奇跡なんだからな! お前は伝説が誕生する瞬間を活目して見てろ!」

 調子良くそう言ったドノファンは、俺の肩をムリヤリ引っ掴み、酒場の方角へ歩き出した。こりゃあ、今夜も散々な結果になりそうだが、泣きべそをかきながら俺に金を無心するドノファンを酒の肴にするのも悪くない。

俺は苦笑しながら、ドノファンに歩調を合わせた。

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