異世界のあれこれ
女神イシュトゥールがこの世界を産み出したとき、女神は友人である竜神に力を貸してくれるよう頼んだ。
竜神が産まれたばかりのイシュスに降りると足元に大地が生まれ、手をかざすと空が生まれた。
イシュス誕生を祝った竜神が舞うと大地が隆起し山と窪地ができた。
そこにイシュス誕生を喜んだ女神の涙が降り注ぎ川が流れ海ができた。
ーー女神の涙が降り注いだ大地には緑が育ち『緑人』が生まれた。
ーー女神の涙が流れた先には泳ぐものが育ち『魚人』が生まれた。
ーー竜神が降り立った大地には獣が育ち『獣人』が生まれた。
ーー竜神がかざした空には翼を持つものが育ち『鳥人』が生まれた。
女神は言った。
『イシュスの憂いを払うため我が分身も置いておきましょう。』
ーーイシュスの憂いを払うために『人』が生まれた。
竜神は言った。
『ならばイシュスの健やかなる成長を守るため我が分身も置いてゆこう。』
ーーイシュスの健やかなる成長を守るため『竜人』が生まれた。
こうして生まれた六つの種族はそれぞれの王を頂き繁栄する。
創造主である女神イシュトゥールと竜神に感謝を捧げながら。
※
「以上がこの世界で広く知られる創世記でございます。
この世界は女神様とその友人である竜神様の御力添えによって創られましたのでどの種族も二柱を祀っております。但し主神様がどちらになるかはそれぞれの種族で異なりますね。例えば我々人は女神イシュトゥール様を主神様として祀っています。
ここまでで何かお知りになりたいことはございますか?」
今日は朝からセリファさんによる異世界講義を受けている。初日の今日はテーブルマナーを学びながら朝食を取り、今はこの世界の成り立ちから教わっている。
創世記って神話みたいなもんだよね。地球ならただの神話だけどこちらは神が降臨するのだからリアルなんだろうな。
さて、なんとこの世界、人以外の種族がいるんだって!!これぞ異世界だよね?
『緑人』とか聞き慣れない種族もいるけど『虫人』なんてものはいないようで良かった!万が一イニシャルGの虫人なんて存在したら某山のダウンヒルより全速力で逃げて某ハンター協会に駆除を依頼してしまうところだった。
御使いだなんだってのは正直困ってるけど、人以外の種族には興味をそそられてしまう。もふもふしたいしその他の種族も気になるところだ。あぁもふりたい。つるつるなでたい。
「はい先生!人以外の種族には会えますか?それとなぜ主神が種族によるのですか?」
「もちろん会えます。むしろ御使い様として全種族に会うことになるでしょう。
主神様が異なるのは種を生み出した神によるからでございます。人と緑人、魚人は女神様を、竜人と獣人、鳥人は竜神様をそれぞれの主神様としております。女神様を主神様とする種族は比較的穏やかで、竜神様を主神様とする種族は武に優れているという傾向もございますね。」
思わずノリノリで質問してしまったがセリファさんは優しく答えてくれる。
「なるほど。あと、わざわざ二柱が分身として置いた人と竜人は何か役割があるんですか?憂いを払うっていうのは託宣?にもあった気がするんですけど。」
「はい。二つの種族にはイシュスにおける重要な役割がございます。
まず、竜人ですがこの世界を守る役割がございますので全種族の中で最も強大な力を有しております。種族としての数は一番少なく滅多に姿を見せませんが、世界に影響を及ぼすような争いを起こすと竜人が来て鎮圧すると言われていますね。また天候を操ることもできるとされています。
次に我々人ですが、イシュスの憂いを払う役割がございます。イシュスに生きる生き物の妬みや嫉み恨みなどが溜まると気脈が乱れます。気脈が乱れるとさらにそういった負の感情が溜まりやすくなり魔物を生み出し辺りが荒れてしまいます。そこでその溜まった憂いを払って気脈を浄化するのです。
この力は人にだけ備わっていますが世代を重ねるにつれ多くの人は力が弱くなっています。そこで優れた力を持つ者は神殿に巫女として務め憂いを払っております。
そして、女神様から直接加護を受けている鍵の守り人である王族の姫は特別強い力を持っています。しかし現在では憂いが払いきれておらず強い浄化が必要になっていますが王族の強い力を持つ姫も少なく状況は厳しくあります。ですから守護姫様であり過去最大級の力を持つとされたシルヴィア殿下の娘であるユーリア様が遣わされたのはその憂いを払うためではないかと。」
「気脈を浄化する?そんなのやったことないんですけど素人ができるんですか?てゆうか過去最大級なんてそんなに凄い力持ってるんならママがやった方が・・・」
「大丈夫でございますよ。守護姫様であるユーリア姫様からは強大な力が感じられますのですぐ出来るようになるはずです。
そして残念ながらシルヴィア殿下は既に巫女としての力を失っておられます。憂いを払い浄化を行う力は婚姻を結び男児を産んでも失われませんが、女児を産んだ時点で失われますので。」
「げっそうなんですね。うぅじゃあその力は娘にしか継承しないんですか?一人にしか伝わらないから力を持つ姫が減っちゃったんだ。」
「いえ、巫女として憂いを払う力は最初の女児を産んだ時点で失いますが、女児ならば幾人産んでも力を継承している可能性がございますね。また男児は力を直接継承しませんが力を持った母親から産まれた者は自分の娘に力を継承させる場合がございます。
王族の姫が少ないのはいろいろ事情もございますから・・・」
「原因はいろいろあるようね〜。」
「シルヴィア殿下。」
振り返るとママがサーラさんを伴いやって来ていた。
「お邪魔するわね〜セリファ。ユーリアちゃんがちゃんとやってるか覗きに来たわ。」
「ちゃんと聞いてるよ!もう授業参観じゃないんだからね!」
授業参観の度に美人すぎる母親の登場に、あれ誰の親!?えっ・・・鈴木の親?となった過去を思い出す。皆のどんまいって言いたげな視線は辛かったなー。
まぁこの場合は、せっかく来たならママにも教えて貰おう。
「ねぇママ、何で王族の姫が少ないの?ママが地球に来ちゃったから?」




