二・三日目 槍ヶ下光一は、ペシミストでヘタレ
布団の中で目が覚めたが、何やら疲れが取れてない。
もしかして、一日に複数回って、負担がかかるのだろうか?
窓の外は完全に日が落ちている。
時計を見ると、八時間きっちり過ぎているので、ゲーム内の時間とは全く関係がないようだ。
今回は特に何も持ち帰っていないので、あまり実感が無いが、多少の達成感は在る。
しかし、割と遠慮の無いゴア表現と、村の中がセーフティじゃなかったのには驚いた。
また、あの村で開始から二週間程度すると、同じように事件が起こるのだろうか?
天性の狩人であるネコ科の獣に、致死毒とかどういう事だ。
しかし、あの辺には居ない筈って云う情報が、少々気にかかるな。
気分を変えて、冷蔵庫の中を覗く。
買い物に行ってないので、物が少ない。
特に米を炊いてないのが致命的だな。
貰い物の素麺があるから、今日はそれで行くか……他はキュウリと玉ねぎに茄子か。
茄子と玉葱は、ざっと湯がいて、キュウリはスライサーで細切りにして、野菜をそうめんに乗っけて生姜に麺つゆ。
とりあえず、今日はこれで済まそう。
明日の朝も同じでいいか。
翌朝、そうめんの残りを食べて、買い物に出かける。
幾らあちらが面白くても、此方で喰えなきゃ死んでしまう。
それに、銅貨の価値が一枚当たり、約百円相当であっても、此方で換金できるわけでもない。
もしかすると、何か方法があるのかもしれないが、現状では持ち込みすると、一割の金額になってしまう。
今の所持金が、何千円のスパンなうちは、ほぼ意味が無いだろう。
それに続けてやると、ゲームの影響とか云う以前に、体に悪そうなので、基本的に夜寝る時だけにしよう。
銀行で金を下ろし、買い物に行く。
慣れてる商店街でも、威勢の良いおっちゃんの声には、まだ恐怖心が湧く。
途中、肉屋さんで鉄板焼きのホルモンが目についた。
学生時分は、オヤツ代わりによく食べていたのだが、最近食が細くなってからは、胸焼けしそうで食指が向かなかった。
それがゲーム内の夕食メニューで、モツ煮込みとか食べたせいだろうか?
妙に美味そうに見える。
「久しぶりに食べてみるか」
二百グラム包んで貰ったそれは、しつこい位の味噌ダレの味が、グイグイと引き込んでくる程に美味かった。
家に帰り着いてみると、田舎の両親から留守番電話。
毎月の仕送りが出来なくなったんで、退職金は丸々送っといたんだが、余計に心配させてしまったんだろうか?
一応、会社都合なので、最短待機で給付が出てるから、貯金も併せて当分問題はない。
その旨、母親にメールしておいた。
直接電話するのは、なんだかちょっと踏ん切りがつかなかった。
うだうだ考えていると、思わず昼飯飛ばして夕飯の時間になってしまい、慌てて肉じゃが作ったが浅かった。
なんとなく、今日はゲームに入る気分じゃなくなったので、普通に寝る。
朝起きて、何気に肉じゃがが良い感じに。
ただ、肉じゃが三連ちゃんは一寸辛いので、昼はカレー風味にしてみようと思う。
昼に外出、ハロワで在宅の仕事に応募しておく。
最近は出向かずに、履歴書送って面談の時だけ、顔合わせに為る所も多いようだ。
採用の率は良くないのかもしれないが、今の俺には正直助かる。
家に帰ると、母親からの留守電が入っていた。
中々時間が合わないというか、そんなに引き篭っていると思われているのだろうか?
仕方ないので、覚悟を決めて実家に電話をする。
とりあえず、心配するなとしか言えない。
仕事決まったらまた連絡するからといったら、決まらなくても連絡寄越せと怒られた。
久々に怒られて、何やら嬉しくなって含み笑いが噛み殺せずに、声に漏れたら又怒られた。
昼にカレー風味にした肉じゃがを食べる。
むう、作りすぎたか……まだ残っとる。
夕飯、開き直って和風カレーにするが、ちょっとゆるくなりすぎた!?
うどん投入、冷凍うどんは便利だ。
卵落として、かなり甘口だが、カレーうどんにした。
風呂入って、さっぱりした所で、カードを枕の裏にセット、布団に潜り込んだ。
夢の中で目を覚まし、ゲームの世界を認識する。
なぜか、開始場所が草原から、訓練施設に変わっていた。
もしかして、寝床判定されているのだろうか?
便利だからいいけど。
とりあえず、豚をメインで狩りをする。
時折、不意打ちに失敗して逃げまわることになるが、ドアに駆け込んで再度入ると状態がリセットされているのか、居なくなっているので割と安易にチャレンジしている。
さて、不意打ちの際、射撃を使えるのは初撃のみ、更に不意打ちの為の潜伏には、身を伏せるのが有効となれば、弓よりは弩が向いてるだろうと、武器を切り替えてみた。
スキルが取れるようになってからは、これが大当たりで狩りが随分安定した。
そのせいでルーチンワークとなり、効率厨の血が目覚めかけた所で、日が暮れる。
慌てて雑貨屋に肉と皮を持っていく。
「すいません、こんな時間で申し訳ないんですが、買取お願い出来ませんか」
「おや、最近珍しい、礼儀のなってる小僧さんだね。 どれ、みせとくれ」
豚の皮と肉を十匹分取り出す。
「うん、皮は一枚あたり銅貨十枚かね。
うちで捌ける数も多くないからね、安くなって申し訳ないんだけどね。
肉は、一匹分は銅貨五枚で引き取るがね、あとは無理だねえ。
なんだったら、宿屋に持ってくといいさね」
「ありがとうございます」
「ほれ、銀貨一枚と銅貨五枚だよ」
「おお、初めて銀貨見た」
「おやおや、ははははは」
おばさんに大笑いされた。
雑貨屋を出ると、残りの肉を売りに宿屋に向かう。
宿屋のオッサンに、肉の買取をお願いする。
「豚かい、銅貨八枚ってとこだが、纏めて銅貨七十、晩飯奢りでどうだい?
食ってくんだろう?」
「はい、それで、お願いします」
思った以上に儲かったので、初めて宿屋に泊まってみたが、ぶっちゃけた話、銅貨三十枚はぼったくりだと思った。
当分、訓練施設の雑魚寝でいいやと思う。
翌日も、豚をメインに狩る。
途中、昼に一旦休憩して、成果を市場で捌く。
皮革のなめしの職人に直接持ち込めたので、幾らか高く買い取ってもらえたが、昨日売った雑貨屋さんからも買い取ったとかで、これ以上はちょっと要らないそうだ。
ゲームのように買取上限が無いって事はないらしいな。
所詮は小さい村の事、需要を満たすと、後は安くなるか買い取れなく為るのか。
聞くと、半月に一回毎に商人がやってくるので、その時に職人さんが品物売って現金を得ないと、買い取る資金がないんだとか。
ウサギなんかは、村のおばさん方の内職にも使うので、それなりに捌けるが、大物は職人さんの手が空かないと、次の買取ができないんだとか。
だから、大物はある程度在庫を持ったら、半月は手が空かないんだそうだ。
仕方が無いので、兎と鳥をメインに時たま豚を狩る。
豚は肉だけ売って、皮は置いておくことにする。
それから二週間ほどして、商人がやって来た。
溜まってた豚皮を、資料見ながらなめした物を持ち込む。
幸い買取の上限は大きかったようで、職人さんの持ち込み分の後に買い取って貰えた。
流石に、出来は比べられると辛かったが。
その時、ちょっと気になったのだが、商人さんの馬車から、赤ん坊の泣き声が聞こえた、しかし荷物積んでるあたりから聞こえたような……。
あんまり聞き耳立てててるのもアレだと思ったんで、さっさと離れたのだが。
さて、明日は例のイベントの日だ。
揺れ幅はあるらしいが、序盤のうちは、早々のズレは無いだろう。
だから今晩は眠らずに、施設の前を見張ってみようと思う。
目の前の道で、何人か死んでたんだから、その場面を見ることも出来るだろう。
少なくとも、施設に飛び込める位置からなら、危険度は少ない筈。
夜が更けて、施設の前の通りにも、殆ど人通りがなくなった。
月明かりが、微かに影を、浮かび上がらせている。
目の前に、三人ほど駆けていく。
何かを探している様子で、見ると商人さんの一行だった。
一体、何事かと声をかけようとして、俺は道の傍に金色の光を見た。
二つの宝石が、夜闇の中から、証人さん達をねめつけている。
「あぶ」
ないと、俺が最後まで言葉を吐く前に、その獣は商人さんの一行を、その爪牙に掛けていた。
バタバタと倒れ伏し、一瞬後には崩れた皮膚から血を流す、死体の出来上がり。
あまりの呆気なさに、笑うように顔が引きつる。
しかし、手はスキルのおかげか、繰り返した狩の賜物か、弓に矢を番え、その獣に狙いを向けていた。
ふと、此方へ獣が視線を寄こしかけた時、道の傍から赤ん坊の声、いやよく聞けば猫の声だったのか。
獣はその声に注意を引かれ、俺はその隙を突いてしまった。
獣の首筋に吸い込まれるように鏃が埋まる。
ヒャンと一声上げて、バタリと倒れ伏す獣。
暫く、動けなかった俺を正気に返したのは、道の傍で泣く声だった。
そっと、道の傍を覗きこむ。
そこには茜色と茶の虎縞の毛玉。
もこもこしたそれが、ヨタつきながら、親を探して鳴く。
子猫の様子に呆然としつつ、事の繋がりが頭に浮かんだ。
となれば、この子猫も暫くすれば、人を容易く殺す獣に為る。
どうしたものかと、暫く悩んだが、所詮は生っちろい俺に、放置や処分はできなかった。
毛玉を抱き上げ、皮の外套で包み抱き上げる。
そのまま施設に連れ込んで、親を訓練所の草原に埋めた。
子猫が、乳離れしてるのか不安だったが、噛んで柔らかくした肉を与えると、旺盛に食ってくれたので、ホッとした。
それから暫くは、狩と子猫の世話を延々と続けた。
商人さんの死体に大騒ぎになったり、次の商人さんが決まるまでバタバタしたが、ほんの暫くで平常運転に戻る当たり、村の人達の逞しさに驚くばかりだった。
そんな生活をひと月ほど続け、子猫のビックリするくらいの成長速度に驚きつつ、訓練所で寝起きしていると、ゴロゴロと懐いてくる子猫に甘咬みされた。
その様子に、親を殺してしまった罪悪感が刺激されるのだが、その時はその余裕がなかった。
急に動悸が激しくなり、冷や汗がびっしりと顔を濡らし、舌がもつれる。
「まさか、ヘルプさんステータス異常か?」
『現在毒・病気の複合異常0レベル。
ダメージ発生はしませんが、行動にペナルティの状態です』
マジか!?
くそ、薬草の関連も知識を付けて、準備しておけば良かった。
リタイヤを考えたが、平静状態でないと、リタイヤは不可だそうだ。
流石に俺は死に戻りを覚悟した。
そして、一昼夜のた打ち回った後、アッサリと俺は回復した。
ダメージ発生がなかったので、延々としんどい目にあった訳だが、どうやら毒耐性と病気耐性がついたらしい。
確かに毒を食らって、耐性できるまで我慢というのは、ありがちな方法だが、二度とやりたいとは思えない。
心配気に此方を覗きこむ子猫は、いつの間にかスラリとしたスマートな猫になっていた。
成長の度合いで、毒が使えるようになったんだな。
流石に親ほどの大きさは無いのだが、もう狩りも出来るんじゃなかろうか?
次の日から、訓練施設の草原に、猫も連れて行って、一緒に狩りを行うことにした。
あちらこちらに居る動物達に怯えて、懐から出てこない猫に和みつつも、心を鬼にして草原への第一歩を歩ませる。
そしておっかなびっくり、兎を相手に狩りの真似事をする猫を横目で見つつ、俺も狩りをする。
それから更に暫く、猫が鳥を狩れるようになった頃、そろそろお別れかとリタイアを決めた。
「それじゃあな、元気でやれよ。 今度は人に捕まるんじゃないぞ」
「にゃう?」
村から離れた草原、別れの挨拶に、何やら不思議そうな顔で返す猫。
そんな顔をするなよ、別れが辛くなるじゃないか。
今度からは、ちゃんと商人さんからは開放してやるから、親と一緒に暮らせるさ。
お前さんの親を手にかけちまったのは、申し訳なかったが、俺に出来るだけのことはした。
どう考えても偽善でしか無いが、元気でやってくれ。
それじゃあな。
「ヘルプさん、リタイアだ」
今回は、随分と長い間の期間過ごしたが、なんだか達成感って感じじゃなかったな。
プレイヤー:コウイチ
初期の槍
初期の皮装備一式
初期の布の服上下
初期のナイフ
初期の革袋内:初期の弓と矢・初期の弩とボルト・銀貨8枚と銅貨76枚
LV:1 HP:10
STR:1+2
DEX:1
AGI:1
CON:1+1
武器スキル:弓2・弩2・槍2
一般スキル:解体2・なめし1
野外スキル:潜伏2(草原)
耐性スキル:毒1・病気1
特殊スキル:テイム1
ペット:?????
種:スカーレット・デアデビル
LV:1 HP:10
STR:1
DEX:1
AGI:3
CON:1
一般スキル:潜伏1
野外スキル:潜伏3(森・草原)
耐性スキル:毒1・病気1
特殊スキル:毒付与1・病気付与1
スカーレット・デアデビル
焦熱の悪魔の名を持つ、森の狩人。
その牙と爪にて、毒と病気を与える。
その威力は、耐性のない者なら、数秒で死に至らしめる。
命中してダメージが通った瞬間に、相手の耐性との対抗判定、毒1差で5ポイントの継続ダメージ、病気1差で、ステータス1ダウンと行動障害。
主人公は、成長前の0レベルの毒・病気を受けた為、ダメージは受けなかったが、状態異常の克服には、耐性1レベルが必要だった為、かなりの時間が必要だった。
また、毒を使うのは危急の際だけで、通常の狩りの場合は、病気のステータスダウンと行動障害のみを使う。
主人公の飼い慣らしている個体は、未だ成体に届かないため、STRが1であるが、成体になった際には、2まで伸びる。
また、草原での狩り及び、室内での飼い慣らしに拠って、通常は持たない筈の、人の住む一般環境においての潜伏1、草原にての潜伏3を持つ。
通常、この種を飼い慣らすのは、暗殺者のたぐいである。