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黒鎧の救世主  作者: 木嶋隆太
第三章 クリュ
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第六十八話 試験


「トモヤさん、この前は付き合ってくれて、ありがとうございましたわ」


 ヘレンは元気のない声のままぺこりと頭を下げた。

 隣にいるプラムはきつく目をつり上げている。言いたいことは分かっているが、相手にするのは後だ。

 智也がいるのはプラムの部屋。

 

 パラさんにヘレンに会いたい旨を伝えた結果、こうなった。

 プラムが智也に会いたいらしかった。


「今日はそのことなんだが……この前の話をしに来たんだ」

「この前……」


 ヘレンもすぐに予想がついたのか、表情が引き締まる。

 話を長引かせるつもりはないので、さっさと切り出すことにした。ポケットを漁り、部屋にあったネックレスを見せる。


「お前がつけてたネックレスと、同じものじゃないか?」


 クリュに渡されていたネックレスだ。返そうとは思っていたが、まだ違う可能性もあったので確認のため持ってきた。

 プラムが驚きに目を開き、ヘレンは食い入るように顔を近づけた。


「これは、たぶん、私のものと一緒、ですわ」


 これで、一応の確認はとれた。ネックレスをなくしてはいけないので、すぐにポケットにしまいなおす。


「あの人が、私の姉さんなんですわよね?」

「ああ、クリュも言っていた」


 ヘレンがどう思っているか、それを聞き出すだけだ。


「だけど、クリュはヘレンが自分を恨んでいると思っている。それを確認に来たんだ」

「恨んでいるわけないですわっ! むしろ、私のせいで、姉さんは一人になるしかなかったんじゃないかって」


 ……どちらも自分が悪いと思っているのか?

 智也は似ているなと苦笑する。


「会いたいんだよな?」

「会いたいに決まっていますわ! ずっと、ずっと探し続けましたものっ、私の大切なお姉ちゃんをっ!」


 涙交じりに言うヘレンに智也は微笑を浮かべる。これで、クリュを無理やりヘレンに合わせられる。クリュだって、会いたいのは分かっている。

 それでも、強がりで否定している。


 お互いが会いたいと思っているのなら、強引に割り込んでも大丈夫なはずだ。

 順調に話しが進んでいたが、プラムが邪魔するように机を叩く。

 大きな音をあげ、智也の視線はそちらにひきつけられる。


「ヘレン姉さん、少し外に出て」

「え?」

「大事な話をするから、ヘレン姉さんはここにいないほうがいい」

「で、でも」


 ヘレンはあせあせとこちらの表情を窺っている。智也も一番の問題はプラムになると思っているので、ヘレンに片手を振り、外に出るように促す。

 扉の閉まる音を聞き、二人きりになったのを確認してから、プラムが強く目を尖らせる。


「あなたは、何がしたいの? 無責任に助けて、どうするつもり?」

「無責任に助けるつもりはねえよ」

「二人が会っても、いいことなんて何もない」

「家族なんだから、会いたいのは当たり前なんじゃないか? いいこと、悪いことで決める内容じゃないだろ」


 智也の言い分にプラムは口を閉ざす。智也は、プラムに聞きたかったことを訊ねた。


「少し、話を聞かせてくれ」

「話? 二人のこと?」

「ああ、俺も、詳しいことは知らないんだ」

「……それを話せば、あなたはあきらめる?」


 あきらめるつもりは欠片もない。


「あきらめるかどうかは分からないが、それを聞いてから判断するよ」

「……分かった。もう、ここまで来たのだから、あなたにも話しておくべきね。クリュが会いたくないと言っているのなら、あなたはそれを優先するべき」


 そしてプラムは話だした。



 先祖が勇者の巫女であるブラスドール家にクリュとヘレンは双子として生まれた。高い才能を持つ二人は将来を期待されて育った。

 クリュたちの家では、毎年誕生日のときにステータスを見てもらっていた。

 事件は五歳の誕生日に起こる。


 クリュのステータスに、『殺し』のスキルが見え、ブラスドール家では大問題になった。犯罪者が『殺し』のスキルを所有していることが多く、『殺し』のスキルは呪いのスキルと言われている。

 勇者の巫女であるクリュにはふさわしくないスキル、やがてはブラスドール家の恥にさえもなり、密かに処分される計画を立てられた。


 だが、両親はそれに最後まで反対し、ある夜にクリュたちを連れて逃げ出した。毎日毎日、休むことも出来ずにどんどん北東へと逃げ、そこでようやく生活できる場所を見つけた。

 家族四人は貧しいながらも毎日笑顔で過ごしていた。だが、その生活も一ヶ月も経たずに終わり、追いかけてきた騎士に両親は殺された。

 クリュとヘレンは最後まで逃げたが、ヘレンはすぐに捕まり、クリュは消息不明。死んだと思われ捜索も打ち切られた。



 まとめると、クリュのスキルが原因で追われることになった。

 クリュはそれを罪だと感じ、ヘレンに会うことをためらっているのだ。


「そして、クリュは北の国に逃げ延びたってことか?」

「そう。私も会って、凄く驚いた」


 プラムはふうと息を吐き出し、


「ヘレンから聞いた話だから、細部は違うかもしれないけど、大体合っていると思う」


 最後にプラムはそう言って終わりにした。なんとも感想を言いにくい話に智也は顔を強張らせる。

 はっきり言えば、怒りが湧き上がっている。

 クリュが自分のせいだという理由も分かった。だが、それは間違っている。


「クリュが会いたくない理由もわかった? クリュの意見を尊重してあげて」

 

 クリュの発言を鵜呑みになんて出来ない。あいつは正直者じゃないと智也は長い付き合いで分かっている。


「あいつは嘘をついてたぞ。俺に言ったとき、視線がぶれてた。会いたいけど、自分に会う資格がないと思ってるだけだ」


 プラムは珍しく表情を怒らせて、椅子を倒すように立ち上がる。


「あなたは、本当に何がしたいの? 二人を合わせて、潰したいの? 今、二人は満足に生活できているのに、それを壊したいの?」

「満足? どこがだよ。二人とも苦しんでいる。第一、そんなつもりはない。プラムは、そもそも二人を甘く見すぎだ。俺はクリュとヘレンを見て、二人なら問題ないと思ったから二人を会わせるんだ」


 お互いに視線がぶつかりあい、プラムが先にそらした。智也はもう話すこともない。


「俺は、二人を会わせるからな。俺はつらそうなクリュを見ていたくない」

「……会っても、その表情は変わらないかもしれない」

「足踏みするのはもう嫌だ。前だろうが後ろだろうが、俺は進みたい。じゃあな、時間作ってくれてありがと」


 智也はこれ以上プラムと話すことはないと決め付けて、席を立った。部屋の外に出ると、ヘレンがいた。


「ヘレン、今度俺の家に案内するよ。いつでも会話できるように放課後は時間をあけててくれ」

「本当に、本当にお姉ちゃんに会えますの? 私のことは嫌っていませんの?」

「大丈夫だ。あいつは、お前に会いたがってる」

(ただ、まだ迷ってる。だから、俺が……)

「分かりましたわ、トモヤさん、お願いしますわ」


 智也は自分の作戦を実行する前に、すぐに寮から外に出る。

 

 何とかなりそうだ。クリュも、ヘレンも。これでクリュの暗い顔と付き合うのもおさらばだ。

 自分がやるべきことは、クリュの説得だ。これについてはすでに手段は考えている。

 と、前へと進み始めた事態を邪魔するように智也は自分を追ってくる存在に気づいた。


(誰だ……?)


 背後を誰かに追跡されている気がする。智也は気づいていない振りをしながら、人の少ない道を選んでいく。

 敵が襲い掛かってくるのなら返り討ちにするまでだ。そんじょそこらの敵に負けるつもりはない。

 これでも、北の国で鍛えられていたのでそれなりの察知能力はついている。


 敵が仕掛けてきたのは、智也が敵を認知できない曲がった瞬間だった。赤の炎が襲いかかる。

 魔法。火の魔法が自分へ向かってくるが、スピードを使って回避する。的を外した火の球は地面にぶつかる前に消滅した。


 智也は思わず声をあげそうになるが、自分の居場所を伝えるだけになる。耳をすまし、敵の位置を見つけ出すことに力を入れる。


 敵の足音は着々と近づき、すぐに狙いをつけられるように拳銃を構える。他にも気配をいくつか感じる。油断しないまま、敵へ意識を向ける。


「今の攻撃を避けるとは、やはり強いですね」


 曲がり角から姿を見せたのは、穏やかに笑うオジムーンさんだ。

 なぜ彼が……と思ったが、すぐに理由は分かった。


(……プラム、か)


 余計なことをしやがってと、次プラムにあったら覚悟しろよと舌打ちする。

 プラムはクリュとヘレンを会わせるのを望んでいない。だから、その障害となる自分を邪魔しに来たのだろう。

 おおよその理由は分かったが、拳銃をオジムーンさんの頭に向けて、質問する。


「どういうつもりですか、オジムーンさん」

「クリュ・ブラスドール。呪われた人間、彼女はこの世界に生きていてはいけません。だから、殺しに来ました」

「生きてはいけない。スキルで、呪いとか決め付けるなよ……!」


 クリュを何だと思っているんだ、この国の人間は。怒りが増幅する。

 あいつのことは貴重な仲間だと思っている。それは塔迷宮で役に立つからという理由だけではなくなっている。


 オジムーンさんは余裕の笑みを浮かべたまま、魔法陣を生み出す。

 天才魔法使い――ちらと学園でのオジムーンさんの様子がちらつく。

 その名にふさわしく、魔法陣は何枚も生まれ、魔法が放たれる。


 火、風、土、水。基本四属性がお互いを支えるように智也の逃げ道を塞ぐ。

 攻撃は当たらない。


 覚醒強化、スピード。スキルを使えば、この程度、当たることはないだろう。この二つを使えば、同じ人間ならば負けることはない。

 だが、覚醒強化はともかく、巫女に近しいオジムーンさんに勇者の力を見せるのをためらう。


 初の実戦での使用は不安が残るが、ここは魔法吸収のスキルを使用する。


 オジムーンさんはさらに魔法陣を生み出す。雷が、真っ直ぐに伸び、光の矢が襲う。

 数多の魔法が降り注ぎ、混ざり襲い掛かる。智也がスキルを発動すると、体にぶつかった魔法は衝撃もろとも消え去る。智也に被弾しなかった魔法は、頬に風を残し、背後の壁にひびを入れる。

 智也は自分のステータスを見て、MPを確認する。


 最初に使ったスピード分のMPが回復している。魔法吸収は、MPもろとも奪い取るようだ。


 眼前に迫った光の矢を剣で吸収し、そのままオジムーンさんに近づく。オジムーンさんも剣を抜き、二度三度の打ち合い。

 だが、年には勝てないようでオジムーンさんの動きは美麗であるが力強さはない。オジムーンさんの剣技を習得し、力で押す。

 決着はすぐについた。

 スピード、パワーは圧倒的に智也のほうが速い。智也は最速の一撃で、オジムーンさんの剣を跳ね上げ、首元につきつけた。


「これ以上やるのなら、殺しますよ」

「……お手上げです」


 智也はその目を見て、嘘を言っているようには思えなかった。

 いつの間にか周囲の気配は消えてなくなり、智也は剣を突きつけたままだが、話し合いに移行した。


「何が、目的ですか?」

「それは、もう少ししたら来るプラムさんに聞いてください」


 なんでさっきあったヤツにまた会わなくちゃならないんだ。

 智也はそう思ったが、オジムーンさんが座り込んだので警戒したまま足音に集中する。


「トモヤ、あなた強くなった」


 すぐに、智也が通った道を追うようにして、プラムがやってきた。

 

「さっきの今で……またあったな。これは、なんなんだよ」

 

 智也は多少苛立ちながら、声を出す。劇か何かか。やるのなら、自分を巻き込まないでくれ。

 プラムは鋭い目をこちらに向ける。


「あなたが、力もないのに、二人を守ろうとするのなら殺していた。何も出来ないのに、無意味だってわからせるために」

「試験ってところか?」

「そう。あなたを止める術はこの国にはない」

「スキル一つで……くだらない」


 智也はそうは思いながらも、プラムが認めてくれたことに僅かな安堵を得る。

 プラムが味方でいるなら、心強い。


「だから、何があってもクリュを守って」


 智也は迷うことなく、真っ直ぐに見つめて頷いた。


「もしも、クリュの存在が知れれば、何が起こるか分からない。何もおきないかもしれないし、ブラスドール家の兵がクリュの命を狙いに行くかもしれない」

「……本当に、クリュは邪魔者なんだな」


 北の国で生きていたせいで、多少はおかしくなっているが、悪いヤツではない。

 そもそも、北の国に行かせることになったブラスドール家がすべて悪い。プラムも表情に嫌悪を出す。

 そう思うと、過去にクリュに行った出来事をすべて潰してやりたいとも思った。


 過去に戻る力を自在に扱えるのなら、それも可能だが、今の智也には出来なかった。


「だから、ステータスは嫌い。私はステータスばかりに目がいくあの家が大嫌い。それでも、そういう世界に生まれてしまった。だから、何が起こっても、クリュを守り抜いてあげて、トモヤ」

「……ああ、分かってる」

「それと……あなた自身のことで、少し話がある」

「俺のこと……なんだ?」

「いえ、それはまだいい。あなたもこれから用事があるんでしょ?」

「……ああ」

「頑張って」


 プラムが一言そう言って、智也はこくりと頷く。それから今度こそ家に戻った。

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