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黒鎧の救世主  作者: 木嶋隆太
第三章 クリュ
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第五十四話 書き込み

 家に戻ると、運よくアリスとクリュがいた。クリュについてはいてもいなくてもよかったが、魔石の効果を知りたかったので、アリスがいてくれたことは嬉しい。


「トモヤさん今日は早いですね。お昼ご飯は食べましたか?」


 昼食を食べ終えたところのようで、食器を洗っている。変に気を遣わせるのも面倒なので、智也は頷いておく。


「二人とも午後は暇か? 少し塔迷宮で試したいことがあるんだけど」

「あたしは、暇すぎて死にそうだわ」

「私も大丈夫です」


 二人とも乗り気なようだ。

 アリスが蛇口を捻って水を止める。食器洗いも終わったようで、戦闘準備を整えて塔迷宮に向かう。一層に入ってから、智也は三十六階層に跳んでもらうようにアリスへ頼む。 

 アリスは不安そうに瞳を揺らしていたが、すぐにジャンプを使ってくれる。


 前回は苦戦を強いられたこの階層だが、だからこそ魔石の効果を試せる。アリスにはいつでも逃げられるようにジャンプの用意をしてもらいながら、智也とクリュで魔物を探す。


 ビッグゴリーラが二体現れ、相変わらずの大きさに智也は顔を引きつらせる。接近する前にフレイムオーラの魔石を取り出し、クリュに一応弱点を訪ねておく。


「右のが、火、剣、頭。左のは、火、剣右膝ね。あたしは右のやるわよ」

「ちょっと待ってくれ」


 魔法の使い方は知っている。パラさんの魔法が込められたフレイムオーラの魔石に、智也はMPを流し込む。MPを流し込めと、足場に魔法陣が浮かび上がり、しっかりと発動してることに満足する。

 クリュは首を捻っているが、アリスはあっと声をあげる。


「魔石、魔法ですか?」

「ああ、そうだ。パラフレイムオーラ」


 魔法を発動するキーである言葉をクリュの手に向けて言う。智也の体から赤い光が生まれ、クリュの手に付けられている武器が赤くなる。魔法が途切れる前に足にもかけてやる。使用回数は一回減っただけで、手と足を強化することができた。


「ピンクじゃなくなったんだけど」

「こだわるな。効率よくするために必須なんだよ」

「まあ、赤もいいけど」 


 智也は両手に剣を生み出して、同じ魔法をかける。ビッグゴリーラが接近してきたので、智也とクリュは別れるように飛ぶ。

 剣を振るうと、あっさりと毛皮を切り裂き皮膚へと刃が届く。一撃を食らわせただけでビッグゴリーラは苦しそうに後方へ跳ぶ。

 態勢を整えさせるつもりはない。ビッグゴリーラ着地したところを踏み込み、剣を突き刺す。

 一本を右膝にねじ込み、通り抜けながら背中を切り上げる。


 ビッグゴリーラが前のめりに崩れる。その背中を足場に空中に飛び出して、巨大な長剣を生み出して重力に任せて体を地面に縫いつける。


 着地と同時にビッグゴリーラの体が消滅して、残った素材を回収する。

 クリュもほどなくして戦いを終えて、不満そうな顔でこちらに戻ってくる。


「なんか、いつもよりラクでつまらないんだけど」

「それに対して不満を言うヤツがいるとは思わなかったぞ」

「もっと血が滾るような限界の戦いがしたいんだけど」

「それをすることに何の意味があるんだよ」


 クリュが腰に手を当て、ニヤリと笑う。


「わからないの?」

「わからねーよ」

「追い詰められれば追い詰められるほど、体が、心が喜ぶのよ」

「むちゃくちゃすぎるね」


 智也が一言であしらうと、クリュは不満そうに腕を組む。


(それにしても、魔法の効果は凄いな)


 以前の戦闘に比べて、何倍もラクになった。剣は通りやすいし、相手が消滅するまでの時間も早い。これならまだまだ上の階層でも、狩りを行えそうだ。

 そんな智也の思考を中断するように、アリスがパンと手を鳴らす。


「なるほど。火魔法によって弱点をついたからいつもよりもラクそうですね。それで、私の出番はどこですか?」


 きょろきょろと周囲を見てから、首を傾げる。どうにも、自分が全く役に立てないことを悲しみ半分、怒り半分なようだ。

 アリスにも戦えるように智也も一応は考えているので、


「……もう少し待ってくれ。魔物は近くにいないか?」

「少し離れたところにいますね。むぅぅ、これだと私本当に荷物持ちと魔物の探知だけに使われて……トモヤさんにとって便利な女ですね!」

(最近、よくしゃべるな)


 少し怒ったように頬を膨らましている。智也はフレイムオーラのかかっている剣を消滅させて、もう一度作るが、今度はいつも通りの黒い剣だ。

 クリュの手と足はまだ、光を放っている。解除を命じない限りは結構持つようだ。


 智也はもう一度魔法を使って、今度は自分にかけてみる。手を見ると、ぼんやりと僅かに赤いオーラのようなものを纏っているのがわかる。

 剣を生み出すと、赤い光を放っている。ちゃんと効果は残っていそうだ。


(俺が使う場合はこっちのほうがよさそうだな)

「アリス、敵は近くにいるか?」

「この先に三体のビッグゴリーラがいます。ていうかトモヤさん少し光ってます?」

「じゃあ、敵に見つからない程度の距離まで案内してくれ。さっきの魔法を自分に使ったんだ。似合うか?」

「なんか、天井とかにくくりつけられていたら明るくて便利そうですね」

(笑顔で言わないでくれ、夢に見そうだ)


 アリスに先導を任せて、しばらく歩く。ビッグゴリーラ三体が胸を叩いて声をあげている。近くの木々で姿を隠すようにしゃがむ。


「少し試したいことがあるから、二人はここでみててくれ」

「一人で、楽しみを奪うつもり?」


 予想通りクリュが難色を示す。


「後で、一杯敵と戦わせてやるから今だけは待ってくれ」

「……ふぅん、わかったわよ。嘘ついたら潰すから」


 クリュが笑顔を見せてくれたのでホッと息をつく。智也は身長に木から姿を出して、両手に武器を生み出す。

 右手に生み出したのは――青服が使っていたワイヤーショットだ。天井へと向けてワイヤーショットを放つ。黒い線が真っ直ぐに伸びて、天井に刺さる。しっかり刺さっているか引っ張って確かめる。距離としては十メートルを越えたくらいだろうか。


 引き金から手を少し離すと、ワイヤーが巻かれて身体が空中に浮かぶ。ビッグゴリーラがこちらに気づいて駆けてくるが、すでに攻撃の届かないところに智也はいる。

 左手に生み出したマシンガンの銃口を、地上に向ける。引き金を引くと、赤と黒が混じった銃弾が飛び出し、反動でワイヤーが揺れるが、智也は上手く狙いをつけて敵を倒していく。

 銃弾は三十発のものを作り出したが、足りないので六十発の物を生み出す。全弾叩き込むまでもなく、ビッグゴリーラは全滅した。

 ワイヤーショットを調節して、地上に戻ってから解除する。クリュとアリスがこちらに駆けてくる。


「あんた、戦い方がせこいわよ。接近して戦わないなんて、戦いじゃないわよ」

「私の存在を否定しないでくださいっ。ていうか、空中でぷかぷかしてることを気にかけてください! さっきのなんですか、トモヤさん!」


 アリスに詰め寄られながらも、智也はワイヤーショットは使えないなと分析する。使いどころがないのだ。第一空中にいる間は無防備になるので、ワイヤーを魔法で切られればその瞬間お陀仏だ。


「この前、学園も青服兵に襲われたんだけどさ。そのときに敵が使ってたんだよ。試してみたけど、まあ、使い勝手は悪いかな」

「……そうですか。さっきのバババってヤツは私も使えますか?」

(バババ? ああ、マシンガンか)

「拳銃と基本は似てるから大丈夫だと思うよ。ただ、それなりに反動があるから、使うときは気をつけてね」


 肩から下げられるようにしたマシンガンを、アリスのサイズに合わせて作り出す。弾は六十発で、アリスには遠距離攻撃を任せたいのでこれでいいはずだ。

 アリスに案内を頼んで、ビッグゴリーラ、ヒューマンスライムの元へと案内される。智也が敵をひきつけて、アリスが脇から全弾を叩き込めばヒューマンスライムは消滅する。

 素材をアリスの持つリュックサックに入れて、

 

「試しに一人で戦ってみるか?」


 アリスが戦いたそうな表情をしていた。


「そうですね……多分大丈夫です」


 新たなマシンガンと、念のために拳銃をアリスに渡して、今度はビッグゴリーラ三体と戦う。アリスも速さだけならそれなりに問題ないようだ。リュックサックが少々邪魔なようだが、ビッグゴリーラの攻撃を避けてマシンガンを撃ち続けている。


 智也はさっさと倒して、戦いを眺めていたが問題はない。これで、護身はできるようになった。三十六階層で、レベル上げのために魔物を狩っていく。魔法を使うためには、MPが大量に必要だ。こればかりはレベルをあげるしかない。

 アリスの持つマッピングのスキルにより、三十六階層の地図も少しずつ埋まっていく。


「あっ、階段ありました」


 アリスが指差す方向には三十七階層への階段があった。上って踏み込んでから、智也はアリスの鞄の膨らみを確認する。

 大分溜まってきたし、そろそろ戻ったほうがよさそうだな。


「今日はここまでにしよう。時間も結構経ってるし、クリュもいいだろ?」

「まあ、ちょっと物足りないけどいいわよ」

「それでは、一回層に跳びますね」


 アリスのジャンプで一回層に向かって、大きな扉をくぐり外に出る。星空は雲に隠れてみることはできない。オレンジに輝く街は相変わらず綺麗だなと心が緩む。ギルドについて、アリスの鞄を渡すと、結構な額になった。

 最近では自分たちも冒険者から優秀だと思われているのか、パーティーに誘われることもあるがすべて断っている。


 生意気だと思われているかもしれないが、無駄な人間と組むつもりはない。

 智也は近くの魔石屋に向かう。魔法の書き込みをしてみたくなったのだ。書き込み用の魔石をいくつか購入して、それから古文魔法書を探す。


 適当に本をめくっていき、よさそうな魔法がないか調べてみる。二冊ほど気になる本を見つけたので、購入する。


「トモヤさんは書き込みができるんですか?」

「やり方は学園で聞いたけど、できるかどうかは分からないな。食料とかは買わなくて大丈夫か?」

「はい、午前中に買いに行きましたのです」


 特に買うものもなくなったので、三人は家に帰る。夕飯の準備はアリスがしてくれるので、智也は部屋にこもって本を読む。


 なんとかできそうだ。

 智也はMPを消費して、魔法陣を生み出す。足場に生まれたそれを目の前の魔石へとまずは書き込みをする。

 古文書に書かれている文字の意味を理解しながら、一番簡単なファイアボールの書き込みを完成させる。


 実演は今度だ。次の魔石に他の魔法の書き込みを行う。いくつか本を見ながら魔法を書き込んでいると、似たような言葉があるのが分かる。

 古文書に書かれているのは詠唱文のようなものだ。つまり、詠唱の法則を理解していけば、オリジナル魔法の開発が可能というわけだ。


 ただ、そのレベルに行くまでには様々な魔法の書き込みをする必要があるはずだ。智也はそこまでいけなくても、魔法の書き込み自体が楽しそうだと頑張っていく。


 ひとまず、ファイアボール、アクアボール、ウィンドボール、アースボールの四つを五回使用で書き込むと、夕食の準備が終わったそうなので下に向かった。

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