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黒鎧の救世主  作者: 木嶋隆太
第一章 北の国
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第五話 塔迷宮

 塔迷宮の扉付近には、一人の男が立っている。あの人はジャンプというスキルを持っていて、彼に頼むと、一定のお金と引き換えに、彼が行ったことがある階層まで行ける。スキル「ジャンプ」はMPを消費するが、便利なスキルだ。


 扉付近では露店もあり、各階層の地図も売っているようだが、今の智也にそんな金銭的な余裕はない。塔迷宮には、多くの冒険者が入っていき、それぞれが好きなように中を探索していくようだ。

 智也はふうと呼吸をして、塔迷宮の扉を睨みつける。中々一歩が踏み出せないでいると、


「一人か?」


 意識を扉に集中していたせいで、声をかけられたときに肩をびくつかせてしまう。


「え、ええ……ああそうだ」


 まずは、口調を強そうなものに、そして声音も低くする。相手は昨日に比べて見た目は怪しくない。

 だが、いつ利用されるかわからない。人間なんて外見ならどうにでもなる。こちらも動揺は見せずに、相手に舐められないように話をする。

 会話は苦手だが。


「そんな怖い顔をするな、ただ興味があって聞いただけだ。一人ってのは珍しいからな、じゃあな頑張れよ」


 冒険者というものは、気さくな人間が多い。様々な人間とパーティーを組む職業なのだから、そんな性格でなければやっていけないのだろう。


「ああ、あんたたちも、頑張れよ」


 一応は、短く話す程度ならなんとかなりそうだ。智也も後に続くようにして塔迷宮へと踏み込む。

 扉から離れ、周囲に人がいないことを確認してからスキルを発動する。

 武具精製。


 右手に黒く染まった棒が出現する。1mと少しほどの棒を手に持ち、軽く振ったり突いてみる。

 ある程度身体を動かして大丈夫だと感じてから、魔物を探しに行く。戦うのにためらいはあるが、金を稼がなければ生きていけない。

 魔物は死ぬときに素材や魔石を残す。それらを集めギルドで売れば金になる。


 一日最低千五百ナールを稼がなければ、宿を借りれなくなってしまう。周囲に注意を払い――リンゴに足が生えた気持ちの悪い生物を見つける。

 随分と荒々しい魔物のようで、こちらに気づくとすぐに向かってくる。


 人面リンゴ 

 

 調査を使うが、名前しか分からない。本に書いてあった通り、魔物にはステータスがない。魔物のレベルは階層=レベルなので調査の能力は必要ない。

 目と、裂けたような大きな口が特徴の魔物だ。飛びかかってきたのを棒で突く。リンゴの果汁のような液体がこちらに飛んできて、智也の服に付着するがすぐに乾く。塔迷宮内は不思議な空間だ。


 倒れたリンゴの身体へ棒を叩きつけ、さらに回転してもう一度叩きつける。どうにもダメージが通りにくいようだ。

 魔物ごとに効きやすい武器などもあるので、棒は相性が悪かったのかもしれない。他の武器も早く作れるようになりたい。


 リンゴの死体は数秒でなくなり、血のような果汁が地面をぬらしていたがそれもすぐになくなった。最後にはリンゴが置かれている。あまり大きくない、みかん程度のサイズだ。

 調査を使ってみるが、リンゴと表示される。


 なんか拍子抜けだ。もっと恐ろしい魔物――牙や爪が生え、見た者の体を縛り付けるような威圧感を持った

魔物があちこちにいるのを想像していたが、実際は全然可愛いものだった。

 

(これなら、大丈夫だ)


 魔物に攻撃しても、剣で斬ったりしなければ血は出てこないのか、それともただ単に人面リンゴの血が果汁だということなのか。


 猛獣にウサギが食べられたときのように残酷な物でなければ、大丈夫だ。


 次に現れたのは、人型をした魔物。

 名前はウキキ。サルのような姿をして、鋭い爪で切りかかってくる。避けて、叩く。顔を抑えるようにウキキは回転して痛みにキキー! と悲鳴をあげる。


 痛がりかたが人間のようであったが、ためらいを見せてはやられると何度も叩く。血は、出るようだ。棒で攻撃しているからか、酷い出血ではない。皮膚に青紫色の塊がいくつも出来上がっていく姿は、あまり見たいものでもない。


(慣れ、なくちゃな)


 落とした素材は、バナナ一本。これもあまり大きなものではない。

 

(バナナ……)


 なんというか、想像していた物と全然違う。気づけば血はなくなっている。迷宮内ではすぐに乾いてくれるようだ。


 この階に出てくる魔物はサルとリンゴだけだ。


 調子も上がってきたので、敵と戦い続ける。想像していたよりも随分と身体が動く。スキルを発動することもなく、淡々と処理していく。

 長時間の狩りをして、汗を拭い周りに敵がいないのを確認してから座り込む。


 ここまでの戦いで、塔迷宮を探索する上でいくつかの問題が見えてくる。

 まず素材をそれほどたくさんいれることはできない。冒険者のパーティーには一人荷物もちを入れることがあるらしいが、確かにほしくなる。


 袋は両腰につけているが、片方はリンゴが十五個ほど。もう一つはバナナを八本程度入れたところで、袋に限界がくる。

 魔物が落とした魔石はポケットに突っ込んだせいで、かなり動きにくくなってしまっている。いつパンツとともにずり落ちるかわからない。服の裾を押さえて歩くことで誤魔化しているが、魔物が出れば両手を外すことになるので――。


 問題はそれだけではない。

 迷宮内を歩くため、体力は減るし喉も渇く。さらに魔物がどこにいるのかも分からない。魔物を探していると時間がかかる。

 一度、戻る必要がある。最短距離で外に出ると、すでに太陽も高い位置になっている。町の高い場所に時計があり、時間を確認すると昼を回ったところだ。腕時計が欲しい。


 教会に行き、レベルを上げてもらう。

 魔物を倒した経験値は神によりその人間の力となる。経験値もステータスで見れるようにしてくれればラクなのだが、と智也は少々不満があった。


 レベルは2にあがった。リリムさんはいないようだが、今はまだ会う必要もない。ただ、知り合いに会って会話して落ち着きたいという意識があったが。


 大きな建物であるギルドを見て、長い階段に一歩足をかける。まずは素材をどれだけの値段で売れるのかを聞く。少しでも高く売れる場所を探す必要がある。

 クックさんの宿に持っていけば高く買ってくれると言っていたが、すべてを信用するわけにはいかない。初心者だと舐められ、安く買い叩かれる可能性もなくはない。

 警戒しすぎかもしれないが、まだ信用しきれない。


 だから、ギルドで公式の値段を聞く。それから、クックさんの所に持っていき値段を照らし合わせる。

 お金に余裕があるのなら、多少はひいきをしてもいいが、今は無理だ。

 問題があるとすれば一つ。


(こ、断れるか?)


 ギルドの人にやっぱり売らない、またはクックさんに別の場所で売るということ。


(断るのは苦手なんだよな……)


 自分によっぽど不利になること以外は引き受けてしまう性格である智也の一番の難関だ。

 階段を上り、踊り場のような場所で一呼吸する。中から多くの声が聞こえ、人が多いのが嫌でもわかる。

 

 扉を開けようと手を伸ばすと、自動で開いた。自動ドアではない。中から人が出てきたのだ。邪魔にならないように道の横にずれ、


「あぁ? お前まだまだガキじゃねえか、何を売りに来たんだよ」


 ギルドの入り口で男に絡まれた。どちらかといえば太り気味の男だ。興味本位なのか、それとも何か悪さでもするのか……あまり好きになれない笑みだ。

 以前自分を誘拐しようとした連中に似ている。真意はわからないが、どうしよう。


(見せる……断る、どっちのほうがいいのだろうか)


 見せてそのまま奪われそうな気がしないでもない。それだけ、目の前の男からは嫌な感じがする。まずはレベルを確かめる。

 

 Lv18 アッソ MP72 特殊技 なし

 腕力30 体力25 魔力15 速さ21 才能4

 スキル なし

 儀式スキル 片手剣Lv2


 智也でもすぐに追いつける程度のステータスだ。才能のあるなしでここまでステータスに差が生まれるのか。


「おい、早く見せてみろよ、ガキ」


 ここはギルドの中ではない。下手に絡まれれば、自分はどうにもできないかもしれない。


(強気だ、強気の態度を見せるんだ)


 舐められたくはない。二度と、あんな思いはごめんだ。


「特に見せるものはありません。どいてください」

「あぁ? 舐めた口聞いてるんじゃねえぞ!」

(敬語をやめたほうがいいか? いや、でも、下手に喧嘩でも起こすと面倒だよな。選択ミスったか?)


 アッソの中で生まれた怒りが、顔にぐつぐつと表れていく。

 沸点が異様に低いのか、ギルドでよくないことでもあったのか。八つ当たりされるこっちの身にもなってほしい。すみません、やっぱ見せますと舌の上まで来た言葉をぐっと抑える。


「入り口付近で邪魔だ、アッソ。さっさとどけ」


 ギルドに入ろうとした男が一度言うと、アッソは気に食わないとばかりに鼻をぶひぶひ鳴らす。


「チッ、ガキ、運がよかったな。覚えておけよっ、ザコがっ」


 アッソが逃げていくと、男はふうと息を吐き出す。男は獣人のようだ。本来人間が持つ耳がなく、頭の上に耳がある。女性だったら可愛いかもしれない。

 本で知っていたが、初めて人間以外の種族をみたことに少し緊張する。


「あいつは、よく新人に絡むからな。次からは無視してさっさとギルドの中に入ってしまったほうがいいぞ。実力はたいしたことはないからな。何かあっても、ギルド内なら味方してくれる人間もいるだろう」


 智也は遅れて頭を下げると、彼は気にするなと片手をあげて中に入っていく。はぁと疲労を吐き出すように息を漏らす。


(よ、よかったぁ……)


 強気な自分を演じることがどれだけ大変なのかわかった。これからは、信用できない相手と話すときはいつもこれでやらなければならないのか。そう思うだけでさらに疲れが溜まる。


 ギルドに入る。やはり中には様々な防具や武器に身を包んだ人間があちらこちらにいる。

 人が多く暑そうなものだが、中はそれなりに快適だ。クーラーに似た魔法でもあるのかもしれない。汗臭さは残っているが。


 ギルドは他の店に比べて豪華ではある。カウンターが横に並び、依頼の受注や素材の買取など様々に分かれている。

 武装した人や、似たような服に身を包んだ人間たちがあちこちにいる。

 素材の買取を行っているカウンターを見つけ、数人並んでいたのでその男たちの後ろにつく。売却の順番はすぐに回ってきた。


「素材を見せてください」


 知らない人とはいえ、指示を受ければある程度は話せる。


「食材なんですけど、大丈夫ですか?」

「はい、問題ありません」


 並べると、ギルド員はそれらを見て、


「Gランク魔石一つ十リアム。バナナ一つ十リアム。リンゴ一つ五リアムで、合わせて三百五十五リアムです」


 なんとも微妙な数字だ。

 一日に三回あれだけの魔物と戦わなければならないのだ。


「そうですか……では、魔石だけ売ろうと思います」

(何も言わないでくれよ。言ったら怒るぞ……心で)

「わかりました。魔石二十個で二百リアムです」


 バナナとリンゴを袋に戻して、ギルドを後にする。

 一つ気になったのは賞味期限とかはあるのかということだ。

 宿に戻るとお昼の時間を少し過ぎたからか、人も多くはない。忙しくないと判断してクックさんに声をかける。


「あの、クックさん」

「どうした?」

「バナナとリンゴを手に入れたんですけど……」

「そうか、それはデザートを作るのに必要なんだ。いくつある?」

「バナナが八で、リンゴが十五個あります」

「全部くれ、バナナは……十八リアム、リンゴは十リアムでどうだ?」


 ギルドで売るより高い。もちろん頷いた。


「ありがとな。これからも、時々でいいから頼む」


 年がら年中売るわけにもいかない。

 店としても予め買い付けてる場所もあるだろうし。

 週に一、二回程度売るぐらいでいいだろう。


(合計で約五百リアムか……)


 それも、元々は約三百五十リアムなのだ。

 すでに時間も大分過ぎている。残りの時間は図書館で知識をつけようと思っていた。


(このままじゃ、まずい)


 魔物と戦えると少々調子に乗っていたが、稼ぎがこれでは話にならない。

 元々の金額で考えると、五日頑張ってようやく一日分の稼ぎにしかならない。

 なにか手を打つべきだ。


(階層をあげるか?)


 そうすれば新たな魔物が出現するようになる。とはいえ劇的に上がるわけでもない。

 焦りながらも宿を出る。

 とりあえずもう一度迷宮に行き、残った時間で図書館に行く。図書館での勉強時間は少なくなるかもしれないが、金が大事だ。


 時間を無駄にはできないので、すぐに行動に移す。途中水魔石というものを見つけ、それと水筒を購入する。

 水魔石は魔石に水魔法を書き込んだものだ。魔石に水魔法を書き込んだものを、水魔石と呼んでいるようだ。

 水筒に設置し、それを利用すれば自動で水を入れてくれる。と店員から説明を受けた。


 あまり金を使いたくはなかったが、迷宮に長時間いると喉が渇くのはわかっている。腰のあたりに引っ掛ける。ズボンが落ちてきそうだ。

 水魔石はまた持ってきてくれれば魔法を書き込んでくれるらしい。多少の値段で。

 それから、ダンジョンに潜り二階層への階段を見つけた。

 が、時間もないので塔迷宮の攻略は中断する。外に出ると、すっかり暗くなり、見慣れた幻想的な街並みを楽しむ余裕もない状態で、ギルドに行く。

 素材を金に替えてから安い服を上下で購入する。余った時間を図書館に使う。

 

 帰ってきてからは、服を洗い専用の場所に干して、風呂に浸かる。今日も疲れたので、ベッドへぶっ倒れる。

 金はないのに、必要なものは増えていく。明日からどうしようか考えたかったが、疲労にまぶたが落ちて、智也はすぐに眠った。



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