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黒鎧の救世主  作者: 木嶋隆太
第三章 クリュ
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第四十六話 職


 図書館に入り、古文書の辺りをふらつく。パラさんがこの前いた場所だ。案の定そこには小さな白衣姿の女性がいた。

 

「パラさん、どうも」

「やぁ、また会ったね」


 智也の胸ほどに頭があるパラさんは本を手に持ちながら、見上げてくる。

 好意的な表情を見て、智也も心に余裕が生まれる。

 

「その少し、用事があるのですけど……いいですか?」

「ああ、私も構わないよ。ちょうど用事があったしね」

(……パラさんが俺に用事、何だ?)


 人の少ない場所に座る。パラさんは本を読まずにこちらに顔を向ける。


「キミからどうぞ」

「えっと、その俺は調査のスキルを持っているんですけど……それで、パラさんのステータスを見たんですよ」

「いやん」

「……それで、多くの魔法を持っていますよね? だから、俺たちのパーティーに入ってもらいたいなぁって」


 どうやって誘うのがいいのか分からず、後半尻すぼみしてしまう。

 「私の渾身のボケを無視するとは……」とパラさんが呟く。


「パーティーというのは冒険者として、迷宮に入れってことかい?」

「そう、ですね」

「私はあまり強くないから、怖いなぁ」

「パラさん、あんまり茶化さないでください」


 パラさんのレベルは19だ。冒険者の平均くらいの実力はある。


「そういえばレベルもばれていたか。とはいっても、学園の生徒の付き添いで入っただけだから戦いはそこまで得意じゃないんだ」

「俺はパラさんの持つ魔法に期待しているんです」


 パラさんはふむと顎に手を当てて、返答に困るように頭をかいた。


「なるほど、調査のスキルは本当に便利だな。といってもだ、私の魔法は武器や体に属性を付加させるだけなんだ。それに学園の仕事もあるから……いや、そうか。これならどうにかなりそうだな」

「どうしたんですか?」


 パラさんは何かに気づいたようで笑みを濃くする。子どもが悪戯でも考えたような笑い方だ。

 

「先ほど私も頼みたいことがあると言ったのを覚えてるかい?」

「はい、言っていましたね」

「頼みを話す前に少し整理するよ。私は学園で古代語の教師をやっている。そして、教師の仕事をするときに補佐する人間を用意しているんだ」


 地球の学校ではそんなことあっただろうか。不自由な人にはいたかもしれない。智也はそのまま返事をする。


「補佐する人間ですか?」

「古代語を読める人間は少なくてね。私も完璧に読めるわけではないので、補佐してくれる人間と二人で生徒の読みを手伝っていたのだが……その人間が病気で寝込んでしまったんだ」


 パラさんの目線は下がってしまう。補佐してくれる人はパラさんにとって大事な人なのだろう。


「それで、俺に手伝って欲しいってわけですか?」

「ああ。手伝ってくれれば、私はパーティーに参加はできないが、私の魔法を書き込んだ魔石をキミにあげよう。魔法を書き込むなら、時間もかからないし、私が入るよりかはマシだろう」

(それなら、街で買ったほうが攻略を優先するなら、いいんだろうな)


 だが、智也は異世界の学校とやらに少し興味を持っていた。

 最近迷宮に入ってばかりでもあったので、息抜きがてらに手伝いをするのはいいかもしれない――人脈は大事だと誰かが言っていた気もするし。


「分かりました。それでいいですよ」


 パラさんが微笑む。どこか子どもっぽい顔だが、大人のような柔らかな笑い方だ。


「そうかい。嬉しいよ。キミはこれから暇かい? 私が教えている学園に案内したいんだが……」

「大丈夫ですよ。パラさんはいいんですか?」


 智也はパラさんに会いに来ただけなので、パラさんが暇なら問題ない。


「ああ、大丈夫だよ。それじゃあ行こうか」


 席から立ち上がり、本を棚に戻して図書館を後にする。

 日が落ちた街を並んで歩く。


「ふむ、こうして歩いていると彼氏彼女に見えないこともないのかもしれないな」

「兄妹じゃないですか?」

「キミは、あれだ。意外と酷いことを言うんだね」

「……そんなに気に触りました?」

「ブロークンハート」


 軽い冗談のつもりだったが、パラさんからすれば、心にダメージがあったようだ。

 迷宮に近い西地区から南地区へと移動する。この辺りは人通りもそれほどなくて、智也ものびのびと歩いていける。

 しばらく歩くと大きな建物が見えてきた。

 何度か見たことはあったが、ここが騎士育成学園だとは知らなかった。


「中々大きいですね」

「そうだね。学園は休み明けでいいよ。入り口にいる騎士に、私の名前を伝えれば通してもらえるようにしておくから。氷の日、朝……八時くらいには来てほしいかな」


 氷、火、水、風、土、雷、光の一週間があり、光の日は休みだ。明日は光の日で、学園に向かうのは氷の日からのようだ。 


「その、俺ってあんまり学はないんですが、古代語って覚えてどうするんですか?」

「キミは私の存在を否定かい……?」

「あ、っと! その違いますっ」


 古代語を教えている人間にそんなことを聞くのはあまりよろしくないことだと今さら気づいた。

 パラさんは泣きそうな表情から一転、くつくつと口元を隠す。


「ふふん、冗談だよ。古代語を魔石に書き込めば、スキルとして魔法を持っていなくても使用することができるんだ。スキルとして魔法を覚えている人間は、魔法だけなら古代語を話せるってことさ」

「……そうなんですか」

 

 魔法についてはほとんど知らなかった智也は、そこからスピードも古代語なのだと推測する。

 

「それじゃあ、何か質問はあるかな?」

「服装は、なんでもいいんですか?」


 パラさんは白衣に身を包んでいる。もしかしたらそれを着なくてはいけないかもしれない。あまり着たくはないと智也の表情は険しい。

 だが、パラさんはにこりと笑って否定するように手を振る。


「何でもいいさ。よっぽどおかしな服装でなければ誰も文句は言わないよ」

「時間は何時ごろまでですか?」

「生徒は午前中勉強したら、午後は迷宮に行くことが多いからね。ほとんど午前で授業は終わりだよ」


 智也は他に疑問ないか考えたが、特に思いつかない。


「他に質問はないようだね。それじゃあね」


 パラさんは近くにいる騎士に話をしてから、中に入っていく。

 智也はパラさんの背中を見てから、宿に戻る。 

 宿に戻ると、クックさんが片手をあげる。


「トモヤ、リートが明日なら時間があるから案内してくれるってよ」


 家のことだろうと智也はすぐに思いだす。伝言を残しておいてあれだが、宿屋に家に関する話をしたことは少し気まずかった。


「そうですか。ありがとうございます」

「いいけどな。客が減るのは少し悲しいな」


 それでもクックさんは笑顔で言ってくれたので、智也も素直な言葉を吐いた。


「はは、料理おいしいので、またお世話になるときもありますよ」

「そうか。まあ、家を借りられるし、女も増えるしで順調みたいだな。……一人くらい紹介してくれないか?」

「バカ言ってないでさっさと働きなさい!」


 厨房から、奥さんが投げたおたまが飛んできてクックさんの脳天に直撃する。

 痛がりながらも、クックさんは笑顔でおたまを拾いなおして厨房に戻っていく。

 クリュたちもいたので、一緒に食事をとり風呂に入ってから、クリュとアリスに学園のことを話す。


「氷の日から俺はちょっと用事が出来たから、一緒に迷宮には入れない」

「どんな用事ですか?」


 ずいっと近寄るアリスに智也は頬を引きつらせる。


「学園の教師の補佐。実際に何をやるのかは知らないけどな」

「そうなんですか。じゃあ、クリュさん一緒ですね」


 食事に集中していたクリュが頬に食べ物を詰めたまま、瞳を釣りあげる。


「はぁ? ガキの面倒見るのなんて面倒なんだけど」

「私も、子どもの面倒見るのは好きじゃないんですけどね」

「あはは、いい度胸じゃない」

「そうですね、子どもさん」


 二人がでこをぶつけあって喧嘩を始めてしまったので、ため息混じりに二人を引き離す。

 首根っこを掴まえた状態でも二人はにらみ合いをやめない。


「とにかく、子ども二人は無茶するなよ」


 二人に対して言うと、同時に智也は睨まれる。何かを言われる前に早口にまくしたてる。


「迷宮に入ってもいいけど二十五層以上の階には行かないこと。後、午後の六時までには宿に戻ってきてくれ」

「トモヤさん、子どもは一人しかいませんよね?」

「どっちも子どもだろ」

「……酷いです」

「……あんたいい度胸ね」


 クリュが怒りの一撃とばかりに箸を一本投げる。智也は顔面に向かってきた箸を口で噛みとめる。


「こんな小さなことでムキになるなよ、二人とも」


 だが、クリュとアリスが仲良くしているのは智也にとっても喜ばしい。

 あれだけ恐怖の対象であったクリュが、すっかり人間らしい表情を見せるようになった。それだけで十分すぎる進歩だ。

 二人の襟首から手を離す。多少頭も冷えたようで、二人は黙々と食事を再開する。

 それから、部屋に戻り体を休める。


「そういえば、クックさんから話を聞いたけど、リートさんが明日なら家の案内もできるらしい」

「家ですかっ。あの、私、そんなにお金ないんで、あまり払えませんし……」

「一緒にパーティーを組んでくれるだけで十分だ。アリスがいるだけで段違いに効率があがるしな」


 智也はそう話を終わらせて、ベッドに入る。アリスとクリュもぐちぐちと智也のことを言っている。

 二人の共通の敵になって、二人が仲良くなるのなら自分のことは好き勝手に言ってくれと、智也は瞳を閉じた。

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