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黒鎧の救世主  作者: 木嶋隆太
第一章 北の国
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第二十一話 呪い


 二人がかりならやれるかもしれない。そんな期待が浮かぶが、危険が残るのもわかっている。

 プラムは両手でしっかりと剣を握り、智也の横に並ぶ。


「トモヤ、逃げて。私が時間を稼ぐ」


 なんとも勇気のある女だ。智也とプラムに睨まれながらもナイジュルガの余裕ぶった様子は消えない。


「俺の仲間がやられた理由はプラムちゃんが優秀なだけじゃないよ」


 淡々と語ろうとするナイジュルガに智也は鎧を消して呼吸を整える。


「それはぜひ……聞きたいね」


 智也は決心を固めるために会話を長引かせる。


「おまえからしか伝わらなかったからな、敵意は。てっきりクリュに恋をしていて、俺を睨んでるのかと思ったよ。プラムちゃんのほうはあきらめているのが伝わってきたから、ね」


 やはりプラムは凄い。相手を欺く技は特に優れている。そこで智也は深く息を吐き出す。


「プラム、ここは俺がやる」

(目の前で誰かに死なれるより、俺が死んだほうがマシだ)


 死ぬのは怖い。だが、身近な誰かが死んで、二度と会えなくなれば自分は自分が死ぬよりも嫌だ。


「でも、あなたに敵う相手じゃない。それにあなたを死なせれば――」

「俺を信じろ」


 智也は声をあげ、プラムを睨む。それが偽りのはったりだとしても。プラムは何かを悟ったのか、


「クリュを置いたらすぐに戻る」


 プラムが去ったのを確認してから、智也はナイジュルガを見る。ナイジュルガは逃げるプラムを追うつもりはないのか、またはすぐに追いつけると考えているのか動かない。ただ立っているだけにもかかわらず、一切無駄がない。剣を握る仕草、ラクな態勢になろうと足を肩幅に開く動作さえも隙はないのだ。


 だが、エフルバーグに比べれば勝てる可能性はあるとわかる。エフルバーグの前にいると、底の見えない強さに心臓をわしづかみにされた気分になる。

 だが、ナイジュルガは強者であるがそれだけだ。エフルバーグに比べれば――いや、どうでもいいか。


「俺は男よりも女のほうがいいんだが。まあ、男もいけないことはない」


 ナイジュルガが顎に手をあてながら、智也を舐めるように見る。気味が悪いと智也は眉間に皺をよせる。


「そうか。俺は女じゃなきゃ無理だな」


 先手必勝。相手に譲っていては勝てないと考え、智也は黒い鎧を右腕に纏わせながら棒を生み出す。

 リーチの長さで勝負をしかけるが、力負けし、左腕を浅く切られる。

 ナイジュルガは両手剣を自分の腕の延長としてうまく扱っている。逆に智也は敵の生まれた隙に攻撃する、というのが出来ない。隙を作り出せない。


「どうした? 威勢のわりに防御ばかりか?」


 最初の攻撃を終えて、すぐに防戦一方になってしまう。棒でなんとか両手剣をさばき、反撃するが避けられる。

 腹を蹴られ、顔を殴り飛ばされる。追撃に振るわれた両手剣を、スピードを駆使して何とか回避する。


「くそっ」


 一度距離を開けて、血を拭う。棒では勝てない。だからといって、剣でもどうにもならない。


「勝てる、武器……」


 脳内には様々な武器が思い浮かぶ。槍、斧、ハンマー、弓。

 だが、そのどれを扱っても勝てる情景が浮かび上がらない。遠距離の弓ならばと思ったところで、同じ遠距離の武器であり、弓に比べれば攻撃速度の高そうな武器が思い浮かぶ。


(銃、なら……)


 そう考えた瞬間、脳がずきっと痛む。以前、エフルバーグに掴まれたときのような脳を揺さぶられる感覚。

 まるで、銃を作り出すのが答えだとでも言うように何度も痛みが広がる。


「どうした!」


 ナイジュルガが両手剣を振り下ろす。痛みに苦しみ、回避が間に合わない。残り少ないMPを活用して、スピードを発動。迫る両手剣を転がって回避して、そこでMPが切れた。


(くそ、最後の頼みがっ)

「それにしても、よく回避をするな」


 智也の動きをみて、感心した様子だ。


「何かの、魔法か。面白かったが、その表情じゃもう、限界みたいだな」


 表情から、読まれてしまった。智也はゆっくりと距離を空ける。


(どうする、どうすればいいんだ)


 敵の動きを観察しながら、どうやってこの状況を打破するのか考える。


(魔法はもう使えない。武器を作るにしても、何を作ればいいんだよ)


 その中で、さっきと同じ考えになる。


(銃を、作るのか? だが、作って失敗すればその隙に殺される)


 例え作れたとしてもちゃんと操れるかどうかもわからない。作れる確証はない。剣でさえ、作るのに苦労した。


(作れるのか? 違う。やるしかない。あきらめるのは全部やってからだ)


 だが、智也は勝つために決意を固める。

 弱気な考えは捨てる――成功することだけを考えろ。


(それ以外に方法がないのなら、やってやる)

「さあ、終わりにしようかっ」


 迫るナイジュルガを認めながら、智也は銃の作製に入る。

 脳内にある、自分の考える最強の銃。なぜか、銃を握った感触、それによって誰かを撃った情景が浮かび上がる。そんな経験は一度もないが、今はその謎の記憶を頼る。

 右手に黒い渦が集まり――右手の重みをどこか懐かしく感じながらトリガーを引く。


「むっ!?」


 近づくナイジュルガの両手剣に当たり、跳ね返す。拳銃の精製。この世界にはない物でも精製できることはわかった。

 ただ、こんな賭けのような真似は二度としたくない。

 改めて右手にある銃をちらと見る。やけに大きなリボルバー式拳銃だ。こんな拳銃を今まで一度も見たことがない。


(また、変な感覚だ)


 以前人を殺したときに、前にもやったことがあるような錯覚を味わった。拳銃を持ったのは初めてだったが、なぜか過去にも使ったような。


 その瞬間脳の中で一つの映像が流れる。エフルバーグが拳銃を用いて、誰かを撃ち抜く光景。


(……なんだこれ?)


 なぜか、拳銃の扱い方は自然と理解できた。両手で持ち、ナイジュルガに構える。ナイジュルガの表情は読めないと思っていたが、眉が僅かにあがっていて少しだが動揺しているのが分かる。


「なんだその武器は?」

「初めて見るか? 冥土の土産にはちょうどいいかもな」


 ためらいなんて見せない。引き金を引き、銃弾を発射する。


「ぐっ!? 弓矢の強化版っといったところか?」


 体に受けたが、一撃で倒せない。結構な反動であったが、すぐにもう一度狙い撃つ。二発目を受けて、ナイジュルガが膝をつく。それでもまだ、立ち上がる――異世界人は化け物かよ。


「やるなっ!」


 ナイジュルガが両手剣で体を隠すようにしながら走ってくる。智也は落ち着き、淡々と銃弾を剣にぶつける。

 威力は十分。相手は威力に耐えられず剣がずれて、身体ががらあきになる。僅かに見えた頭。


「……くたばれよ」


 トリガーを引き、銃弾が真っ直ぐに飛ぶ。ナイジュルガが両手剣を戻すよりも早く銃弾は彼の脳を貫く。

 ナイジュルガは一切の悲鳴を漏らさず、倒れる。


「俺……は幼……まだ……つな……っ」


 ナイジュルガは言葉を残すが、何が言いたかったのだろうか。智也は見下ろすようにして、まだ完全には死んでいないナイジュルガに銃弾をぶつける。

 やがて、身体には魔石が浮かび上がり、智也はそれを掴む。仲間がいたら厄介なので、すぐに建物の外に出ると、プラムとクリュが近くのわき道に隠れていた。


「トモヤ……」

 

 プラムはクリュに回復丸を飲ませているが、状態はあまりよくないようだ。横になっているクリュの近くで膝をつく。


「怪我はどうだ?」

「応急処置はした、けど回復丸だけじゃダメ」

「ダメージが深いのか?」

「わからない」


 ナイジュルガは呪いのスキルを持っていた。以前、本で見たモノとは違うのかもしれない。あれは、腹痛程度だったが、クリュを見る限り、ナイジュルガの持つ呪いの効果はある程度予想できる。


(与えた傷の治りを遅くする、ってところか? 回復丸とかじゃ回復できない、とかなのかもしれない)


 クリュのステータスを見ると名前の後に『呪い』と書かれている。既に意識はないのか、クリュは強がった笑いをあげずにただ苦しそうに呼吸している。


「呪いを解除できる人間を知らないか? クリュは呪われている」

「呪い……エフルバーグさんのところに初めてきたときのことは覚えてる? あなたに話しかけた生意気な子が回復魔法のスペシャリスト」


 生意気というか、親切だったイメージがある。


「今すぐにつれていけるか?」


 プラムは空を見上げる。


「たぶん、今の時間なら迷宮から戻ってくるところ」

「わかった。俺がクリュを担ぐ。案内頼む」


 プラムからクリュを受け取り、背中に担ぐ。柔らかい太股、背中に感じる僅かな膨らみが、クリュが女だったのだと智也は改めて思う。


(今は、そんなモノ気にしてる場合じゃないか)


 智也は黒い鎧を使ったばかりで疲労は残っていたが、もう一度発動する。多少は身体能力が強化される。


「こっち」

 

 プラムの道案内についていくと、四人ほどの子どもを見かける。相手も気づいたのか、先頭を歩く子どもが手をあげる。


「ああ、プラムじゃん、久しぶり。それと新入りだね……クリュと関わってるなんて物好きだねぇ」


 相手の男はプラムに出会ったことを嫌そうにしている。

 名前はバルン。調査のスキルを持ち、その他回復しそうな魔法が一杯ある。


「クリュの呪いを治してほしい」

「さすがに、人を殺したがる呪いはどうにも無理かな」


 バルンが肩を竦めて軽く笑うとプラムが目を吊り上げる。


「ふざけてないで」

「はいはい。だけど、タダでやるようなお人よしじゃないぜ? いくら知り合いだからってね」


 智也はすぐに先ほど入手した魔石を手に入れる。 

 

「この魔石をやる。ナイジュルガの魔石だ」


 途端にバルンの目が大きく見開かれる。


「ナイジュルガ!? あの有名な賞金首か。確かに金額としては申し分ないけど、さすがにプラムやキミじゃ勝てないでしょ」


 調査のスキルにより、ステータスを覗いたのだろう。

 ごもっともではあるが、早くクリュの治療をしてもらいたい。


「魔石を調べることはできないのか?」

「調べる能力を持ってるよ」


 バルンが後ろに控えている男に言うと、魔石に手を向ける。


「……」


 無口な男がこくりと頷くと、バルンは驚きながらも拍手をする。


「いやいや、凄いね。驚いた、どんな手品を使ったのか知らないけど金が払えるなら別だぜ」


 智也はクリュを地面に下ろす。変わるようにバルンがクリュの隣に立つ。


「あんたお人よしって言われたことあるだろ?」

「ないな」

「ふーん、お人よしすぎるね。ここで暮らすのは向いてないよ」

(勝手に連れてこられただけだ)


 そういいながらクリュに魔法をかける。バルンの足場に魔法陣が生まれる。詠唱も必要なのかぶつぶつ何かを呟き、クリュの身体が光に包まれる。

 ステータスを見ると、呪いと外傷がなくなった。クリュの荒かった息遣いも収まり穏やかに寝息をたてる。


「治療は完了。目を覚ませば完治だね」


 折れていた腕や足も元通りだ。内部が破損している様子もない。魔法は、回復丸に比べて発動に時間がかかるが、強力だ。

 バルンは手についた埃を払いながら、「おまけだよ」と智也にも治癒魔法をかけた。


「もう一度忠告。クリュに関わらないほうがいいよ? こっちがバカ見るだけだから」


 それはもう痛いほど分かっている。


「あんたお人よしって言われたことあるだろ?」

「はは、ないかな」


 バルンは片手をあげて、去っていった。

 そこで緊張の糸が切れて、智也はその場に寝転がるような状態で倒れた。 


「どうしたの?」


 プラムはクリュの状態を確認している。

 智也はため息とともに、


「……高額の魔石、あげちまった」

(あんなに苦労したのに)


 一体どれだけ高額かはわからないが、あれだけの強敵だ。バルンの驚きようからも結構な額だと理解できる。


「……そう」


 プラムから呆れたような視線が返ってきた。多少休養してから、クリュを担ぐ。

 プラムが代わろうかと申し出たが、智也は断った。


(今はこの感触を楽しむか……)


 散々苦労をかけられたのでこのくらいはいいだろうと、クリュの小さな小さな胸の感触を味わいながら家に戻る。

 すぐに、クリュを床に寝かせて布団をかける。

 プラムは用事があるようで、部屋を出て行く。


「ここは、どこよ?」


 クリュが目を覚ましたようだ。

 心配はあったが、わりと大丈夫そうだ。


「あいつらはどうなったの?」

(俺が倒したっていうとまた物騒なこと言われそうだよな)

「倒した、プラムがな」

「あいつが……一人で?」

「俺も多少は手伝った。それより、怪我は?」

「別に、痛くないわよ」

「ならよかった。明日の朝までゆっくり休め」


 智也も黒の鎧を使いすぎて眠い。横になり布団をかける。

 クリュは体を起こしてこちらの顔を覗き込んできた。


「感謝はしないわよ」

「別に感謝されるためにやったわけじゃない」

(死なれたら嫌なだけだったんだ、本当に。クリュのことよりも、自分を優先しただけだ)


 そんな考えをしてる自分が醜くてクリュから顔を背ける。


「感謝とか苦手な人間?」

「あまり、好きじゃないな」

「ふぅん。なら、ありがとう、助かったわ」


 いきなり感謝されわずかに戸惑う。


「急にどうしたんだよ」

「あんたの困る顔が見たいのよ。と思ったけど、案外平気そうね」


 クリュはもう本当に元気そうだ。


「苦手つっても困るほどじゃない」

「つまらない。もっと慌てればいいのに」

「もう本当に休め。傷は治ってても疲れてるだろ」

「……わかってるわよ」


 クリュは今度こそ横になり、静かな寝息をたてる。


「クリュ、危険に首を突っ込まないでくれ。こっちが心配するから」


 寝る間際に言ってやったが、クリュはすでに眠りについたようで返事はなかった。



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