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黒鎧の救世主  作者: 木嶋隆太
第一章 北の国
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第一話 異世界で

 ずきりと頭が痛み、智也ともやは眠りから目覚めて、ゆっくりと体を起こす。

 何が起こったのだろうか。智也はゆっくりと記憶を思い出していく。


 暗闇に染まった街を歩いていた。コンビニでパンを買った帰りに突然めまいがして、近くの壁によりかかり、その先の記憶はなかった。

 あれからどれくらいの時間が経ったのだろう。何かないか、服を漁ってみたが、大した距離でもなかったので携帯や時計は持ち歩いていなかった。


 周囲を見た智也の目に飛び込んだ光景は、見慣れないものだ。遠くを見渡せる大地には木が茂っており、緑豊かなのがわかる。足場の雑草に手を伸ばして触ってみても、おかしなところは何もない。

 夜のはずだったが、昼なのではと錯覚するほどに明るい。空を見上げると、石が天井で明かりを放ち、あたりを照らしてくれているようだ。

 どこかの金持ちの庭か何かだろうか。明かりの石は見たこともないものだった。


(どこだよ、ここは)


 ゆっくりと立ち上がると、鼻に伝わる獣のような臭いは、つい呼吸をやめたくなるような気分になる。智也は周囲を見回すが、臭いの正体が分からない。気のせいならそれでいいのだがと、智也が一歩を踏み出し、


「ウササッ」

「うおっ?」


 足にタックルを受けて、智也は膝を曲げてよろけてしまう。背後からの攻撃にびくつきながら、そちらへ振り向く。白い毛皮に、長い耳がぺたりと乗っかったウサギに近い生物がぴょんぴょん跳ねていた――ウサギ? だが、デブだ。まんまると風船のような体をしていて、その生き物がウサギではないのだと教えられる。


 背中に葉のようなモノが付着していたので、取ってやろうと手を伸ばすが取れない。


「ウサァッ!」


 どうやら、このウサギから生えているものらしく、引っ張ると悲鳴をあげてしまう。葉の根っこの部分がウサギに繋がっている。不思議な生き物だ。

 謝罪としておそるおそる背中を数回撫でてやると、


「ウササァ~」


 ウサギは気持ちよさそうに目を細めて、声をあげた。なんだか心が温まる。

 ウサギを撫でながらここがどこなのか考える。


(こんな場所、俺の家の近所にあったっけ?)


 もう一度周囲を見てみるが、景色に見覚えはない。


(俺は何をしていたんだ、もう一度考えてみよう)


 両親が仕事で忙しく、夕飯を作れないということでコンビニにパンを買いに行った。

 そして、家に戻る最中に倒れそうになった。たぶん、そうだが、本当にそうだったのか分からない。

 そこから記憶があやふやなのだ。


(家まで戻ってきたんだっけ? いや、その前に倒れた……あれ?)


 戻っていたとすれば、夕食を食べゲームやパソコンで時間を潰してから寝ているだろう。


(ダメだ。わからないな)


 恐らくは、家に戻っていない。途中で誰かに誘拐されたのかもと思ったが、人の気配が一切ない場所に置いておくなんてありえない。監禁するにしても、広大な地に置いておくとは考えにくい。

 そもそも誘拐したはずなのに、誘拐犯がいないのはいったいどういうことなのか。


「あっ……俺のパン」


 智也は近くに転がっているビニール袋に手を伸ばす。ひとまずは、食料があってよかったと胸を撫で下ろす。

 もったビニール袋はやけに軽い。ビニール袋を片手に持ちながら、中身を漁りパンを取り出すが、器用に中身がなくなっている。

 犯人はすぐに予想でき、智也はそちらに顔を向ける。


「ウサッ」


 慌てたようにウサギは顔を逸らす。人間らしい仕草だ。


「お前、もしかして食べたか?」


 ウサギの口の周りにカレーのようなものが付着している。そして智也の買ったパンに、カレーパンがある。

 智也の声に反応するように、ウサギはその場を回りだした。どうにも人間味のある動きに智也は苦笑して、腰に手をあてる。


「まあ、いいけどさ。お前、ここがどこだか分かるか?」

(動物に話しかけるって、俺結構変なことしてるな)


 声をあげると、見えない何かに背中を撫でられるような気味の悪い不安も消えるので、智也は空元気でもいいから声を張り上げようと思った。

 ウサギについては今はあまり空腹ではないので、特にとがめはしない。空腹に襲われたときに食ってやるかもしれないが。

 動物に話しかけるのも何となく変ではあるが、他に頼るものもいない。


「ウサァ?」


 ウサギは首を傾げるように体を傾ける。そのままごろんと転がり、ばたばたと短い足をブラブラ振っている。可哀想なので、体を起こしてやる。

 再度見回すが、全くここがどこなのかわからない。

 改めてウサギを見る。丸っこいウサギ……。


(こんな生き物、地球にいたか? ……地球にいなかったら、ここはどこなんだよ)


 どんどん押し寄せてくる不安により冷や汗が出てくる。地球以外の惑星はあるかもしれないが、そんな場所に自分がいるとは考えられない。考えたくもない。だが、ゼロではない可能性もあり嫌な汗が脇をぬらしていく。


(落ち着こう。一度、落ち着いてそれから考えよう)


 何度か深呼吸をすると、最初に比べて落ち着きが生まれる。

 

「人がいる場所に案内してくれないか?」


 もう一度、智也は動揺を抑えきれずに、ウサギに話しかけていた。ウサギは不思議そうに首を傾げてからとてとてと短い四本足で歩き出した。

 言葉が分かっているとは考えにくいので、追うか迷う。


(ジッとしているほうがいいのか、いやでも、ジッとしているのは精神的にまずい)


 ここでずっと座っていれば嫌なことばかり考えてしまいそうだ。身体を動かしている間は、細かいことは考えられないだろう。

 あまり速く歩けないウサギについていく。ウサギは一生懸命に足を動かすが、それでも智也がゆっくり歩くのと同じくらいのペースだ。

 しばらく歩いても、景色は一向に変わらず、


「クォォォォウウ!」


 獣が叫んだような声が当たりに響き、体が震えるような感覚に襲われる。

 犬ではない。それを越える異常な生物。


「な、なんだ?」


 返事をするように声をあげるが、原因が分かるわけがない。ウサギは慌てたように逆方向に、歩き出してしまう。

 よくはわからないが、危険が迫っていると感じた智也も歩を進める。目に見えない不安が迫ってくる。いっそのこと分かっていたほうが気が楽だ。

 知らず内に歩く速度もあがり、智也の表情は強張っていく。


「ウサァッ」


 ウサギがブレーキをかけて、悲鳴をあげる。智也もつられるように、前を見て体を硬直させる。

 動物園でも見たことがない巨大な一匹の獣が道を塞いでいる。大きな体は地球で見たどの生物よりも大きい気がした。

 狼か、虎か。あるいはその両方を混ぜたような四足の獣。身体にいくつかの傷を負いながらも、獰猛な両目には体を縛り付けるような力がある。

 獲物を見つけた猛獣は、自分たちが食材といわんばかりに、だらだらと唾液をこぼしている。

 

「な、なんだよ……」


 頭の中で逃げろという声がするが、身体は動かない。恐怖に支配され、腰が抜けるように崩れ落ちてしまう。

 逃げなければ、その思いだけが手を動かし這うように下がっていく。恐怖が心と体を凍りつかせ、智也の自由を奪っていく。


「ウサァ!?」


 猛獣は智也が満足に動けないのを見破ったのか、自由に動き回るウサギを巨大な爪で切り裂く。速過ぎて、ウサギが切られて数秒してから自体を理解する。

 あっさりとウサギは腹部を切り開かれ、中に入っていた臓器をぶちまけ、その光景に智也は口元に手をやる。

 猛獣はフォークにでも刺すようにウサギを爪に引っかけて口に運ぶ。ごりごりと骨が砕ける音と肉が咀嚼されていく音が響き、耳を侵食していく。

 気持ち悪さに耳を塞ぎ、目の前から逃れるように顔を下に向ける。


(逃げなきゃ、俺も食われるぞ。殺される――嫌だ、嫌だっ、嫌だ!!)


 心の中の悲鳴が大きく膨らんでいく。それでも立ち上がることは出来ない。

 限界まで膨らんだ感情は智也の心だけでは抑えきれずに外へとあふれ出て――そこで智也は意識を失った。

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