裁縫
三題噺もどき―きゅうひゃくじゅうはち。
外からは元気なセミの声が聞こえてくる。
今日はでも比較的静かな方だろうか。
少し前までは窓に張り付いているんだろうか、と思うくらいに大音量で響いていた。
その声で起こされることがあるくらいの音量だ。
割と、小さな物音や気配で起きやすい私ではあるけれど、誰でもあの音量で毎朝鳴かれたら起きると思う。
「……」
今日はむしろ、扇風機の音の方が大きいような気がする。
まぁ、セミは短い人生(セミ生?)だから、徐々に減っていくモノなんだろう。
それに今日は、子供の声も全く聞こえない。
昨日はうるさいくらいに叫んでいて、耳を塞ぎたかったくらいなのに。
「……」
お盆の時期は、母や父の実家に連れて行かれるんだろう。
そこが都会なのか田舎なのかは人によるだろうけど。
この辺りは、その実家と呼ばれそうな家も多いが、この時期になると静かになる。
私的にはありがたい。夏休みに入ると、騒がしい子供の声ばかりが聞こえて嫌になるから。
「……」
私が中学生のころまでは、祖父母の家に行っていたけれど。
高校生になって、夏休みも当然のように学校があって、妹2人も部活があって……となっているうちに行かなくなった。行くとしたら年末くらいだろうか。それも今年は行かなかった。
今回のお盆は、行くも何もないので、毎日家で過ごすことになる。
「……」
まぁ、祖父母の家に行ったところで。
それで喜ぶのは小学生の低学年くらいまでなのに、好きでもないクッキーやらジュースやらを毎日大量に渡されるだけだし。
我が家だけなのか知らないが、同じ地域に住んでいる他の親戚の家を回ったりするので、それもそれで疲れるのだ。その度にお菓子を渡されるし、べたべたと触ってくるから。狭い田舎しか知らないジジババしかいない。
場所が場所で、スマホの電波も悪くて遊べないし。
まぁ、だから家でこうして快適に過ごせているお盆は、それなりに気に入っている。
「……」
今は、はたと思いだした制服のボタン付けをしている。
夏休み前くらいに、制服のボタンが取れかけていたのを思い出したのだ。
取れることなく、夏休みの登校中も着ていたので忘れていた。
「……」
取れかけたと言っても、少々緩んだかな程度なので、付けなおす必要もないかなとは思ったが、何かの拍子で取れても困る。
外れたら外れたで、あの子がつけてくれることもあるんだけど。女子だなぁと思うが、小さな裁縫セットを持っているのだ。上手につけてくれる。天才かと思う。
……まぁしかし、そんな人任せに頼ってはいけない。だから、思いだした今のうちに付け直しをしていると言うわけだ。
「……」
裁縫道具の入ったポーチを取り出して、机に向かって糸とにらめっこしながらボタンを縫い付ける。
どうも昔から糸を通すのが苦手で、後普通のボタンを付けるのが苦手だ。
どうつけるのが正解なのか分からなくなる。浮かせるとか言うが、そんな器用なことできない。が、そうしないとボタンが留められなくなるから苦戦している。
「……」
裁縫そのものは、割と好きな方ではあるのだけど。
玉止めは適当だし、一本取りは糸が抜けるから出来ない。基本的に二本取りをしている。何もかも自己流というか自分の好きにしているので、裁縫の先生には怒られそうである。
「……」
どうにかこうにか、糸をくるくると巻きながらどれくらいかと悩む。
まだついているボタンを見ながら、こんなもんかと再度縫い始める。
なんというか、不器用をこんな所で発揮しなくていいのに。
そういえば、家庭科の宿題が何か出ていた気がする……縫物だったらついでにしようかな。
「……」
でも、夏休みの家庭科の宿題って、弁当とか料理をさせがちだよな。
小学校の頃は、弁当を作ったし。中学は、縫物もあったけど、料理もした気がする。
あーでも、3年生だから家庭科の宿題はテキストだけみたいなことも言っていたような。
「……」
まぁ、後で確認するとしよう。
今日はとりあえず、ボタンを付けることを終わらせなくては。
今日は静かなこともあって、不思議とやる気があるのだ。
このまま宿題やら何やらを終わらせてしまったっていい。
「……」
むしろそうしないと、宿題はまだ半分ほど残っているので。
やる気がある時にやるのは、よくないと思うが、大抵そんなもんだろう。
お盆中はどうせ家にいるし、このやる気が続くことを祈って。
とりあえずは、ボタンを付けてしまうとしよう。
お題:ボタン・ポーチ・クッキー




