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目醒めよ、シャアム!!

〈装ひは寒の戻りを待つてゐる 涙次〉



【ⅰ】


カンテラ一味の「友」、異星人・石田玉道の地球上での假の姿は、獸醫師である。職業柄、テオとは特に仲が良かつたやうだ。今回はそんな石田についての悲報をお届けしなくてはならない。



【ⅱ】


石田の星では、彼は「貴族」* シャアム族の一員である。シャアムは、イステ・コラ(行政・立法担当のAI)、イステ(生産に纏はる事全てを切り盛りするロボット)、フラーイ・アテ(シャアムの使用人、そして「魔の花」フラーイの栽培者)の上にどつかと胡坐を掻き、フラーイの花の香を嗅ぎながら(詰まりトリップしながら)、非生産的な每日を送つてゐた。いよいよ明日に迫つた総選挙投票日、選挙など石田にとつてはほんのゲームに過ぎず、** 一味が苦慮してゐる様は、彼の前では莫迦げた人間逹の習慣に從つてゐるに過ぎないやうに、見えた。



* 前シリーズ第141話參照。

** 當該シリーズ第46話參照。



【ⅲ】


* 宿願のx星人(一味と石田の共通の敵)退治も終へた、彼と一味との接點と云へば、**「猫nekoふれ愛ハウス」に石田が卸してゐる、猫用の蚤取り首輪ぐらゐしかない。大體に於いて、地球上に蔓延つてゐる*** フラーイ禍の大元は、この人(?)だつたし、それでも一味が石田との付き合ひを已めないのは、全て地球上の事はゲーム感覺でこなしてしまふ、彼の樂天的性格に依るところが大だつた。



* 前シリーズ第96話參照。

** 當該シリーズ第32話參照。

*** 當該シリーズ第15話參照。



【ⅳ】


そもそも石田が地球に派遣されたのは、人工知能イステ・コラの判断に拠るものだつた。石田の星では当然の如く、イステ・コラの裁定は萬能であり、石田もその靈妙な知惠働きに、深く依存してゐるのだつた。もしも、それに狂ひが生じたら- 最惡の事態になつてしまふ。その「最惡の事態」が、一味と石田の仲を裂くのは、運命の皮肉だつたのか...



【ⅴ】


イステ・コラは長年の酷使が祟つたのか、壊れてしまつた。石田に(一味の代理と云ふ名目で)【魔】との和議を結ぶやう、命じて來たのだ。よせばいゝのに、石田は屈辱外交とも云へる、一味に不利な条件を呑み、勝手に【魔】との講和条約を締結してしまつた。【魔】の、悦美・君繪を差し出すと云ふ注文を、石田、例のゲーム感覺とやらで、鵜呑みにする失態を犯した。これには、一味の代表者であるカンテラ、怒つた。



※※※※


〈立春と云へどなる文叛故にして全身がこれ暖かさ哉 平手みき〉



【ⅵ】


石田を斬る- カンテラの提示には、当然の事ながら、異議の聲が(長きに亘る石田との交流が不意になる、として)上がつたが、カンテラ、それを無視し、石田を斬つた。「石田先生、最早これ迄だ。折角築き上げた友情を割つたのは、あんたの責任だ。しええええええいつ!!」



【ⅶ】


かうして、魔界との停戰の屈辱的和議は、立ち消えになつたのだが、テオの心には痼が殘つた。テオには分かつてゐたのだ。本來、石田の屬するシャアム族は、イステ・コラの奴隷に過ぎない事が。それでも、はいさうですか、と受け流す事が出來ない。「この儘ではいかんな」とじろさん。カンテラはテオに、暫くの休養を摂るやう、云ひ渡した。



【ⅷ】


さらば、石田玉道!! テオが何の氣もない、普通の狀態に戻るには、大分時間が掛かつたけれども、幾らなんでも悦美・君繪の首が掛かつてゐる事なのだ。テオは結局、石田の「思つた」(「考へた」と云ふには余りにも淺墓だ)和睦と云ふのは、單に繪空事に過ぎぬと認め、職務に復帰した。



【ⅸ】


君繪は無駄とは分かつてゐながら、何億光年を隔てた石田の星に、テレパシーを飛ばした。(目醒めよ、シャアム!!)-畸蹟は起きなかつた...



【ⅹ】


石田の書齋には、時空の歪みを利用した、彼の星への通用口があつたが、それは一味の手に依り封印された。石田の遺骸は地球のやり方で荼毘に附され、彼の獸醫師としての財産は、「魔界健全育成プロジェクト」が強権を發動し、差し押さえた(仲本堯佳=ルシフェルの差し金で、その内何割かはカンテラ一味の取り分となつた)、と云ふ。石田には身寄りはなかつた。もし、石田が地球の女を妻とし、子を儲けてゐたなら、事態はまた別のものとなつてゐただらう。お仕舞ひ。



※※※※


〈紋黄蝶早飛ぶ夢想現實に 涙次〉



PS: 昨日温暖かと思へば、今日北風が吹き、寒い。初春の氣候は信用出來ないね。俳句・短歌は昨日のものを採用したので、時期を逸した感がある。その點、讀者には陳謝せねばなるまい。永田。


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