表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ガラスの優等生

作者: finalphase

あたしの名前は上杉千尋。

誰からも好かれ、可愛い、優秀、順風満帆――

周囲はみんな、そんな“完璧な千尋”を信じて疑わなかった。


けれど実際のあたしは、強くなんかない。

人並みに悩むし、傷つくし、間違える。

それでもクラスメイトは、あたしを「優等生」という仮面をかぶったまま見続けた。


褒め言葉の裏に潜む小さな嫌悪。

教室の隅で聞こえる、刺すような声。


「いいよね、千尋は全部持ってて」


あたしは聞こえないふりをするしかなかった。


***


ある日、親友の彩が笑いながら言った。


「千尋って、何でもできるから羨ましいな」


だけど、その目はまったく笑っていなかった。

夜、自分のSNSを見ると、尾ひれのついた噂話が広まっている。

あたしの失敗や悪口が、親友のアカウントからリツイートされていた。


気づけば、陰の声が増えていた。


「千尋ってさ、大して可愛くなくない?」

「あんなのがテスト1位とかムカつく。ブスのくせに」


胸がしめつけられる。

でも、誰にも助けを求められなかった。


***


小さな攻撃は毎日続く。


女子はこっそりあたしの服を真似し、

「千尋のやつ、裏でとんでもないこと言ってるらしいよ」と噂を回す。


教師でさえ、表では褒めながら、

「クラスが荒れるのは千尋がリーダーシップを取らないから」と母に伝えていた。


家に帰れば、母はあたしの顔色だけを見て怒る。


「疲れた顔をするな。人に心配をかけるんじゃない」


暗い顔をしただけで平手打ち。

だから、あたしはいつも明るく振る舞うしかなかった。


完璧であることを、永遠に求められていた。


***


そんな時、二ノ宮悠真が近づいてきた。


最初の彼は優しかった。

困ったときには必ず声をかけ、誰よりも気遣ってくれた。


でも、距離を置こうとすると、

笑顔の裏に潜む冷たい気配に気づいてしまう。


ある日のこと。

教室であたしが小さなミスをしたとき、

二ノ宮は耳元で優しく囁いた。


「大丈夫。俺がいるから」


翌日には、クラス中にこう広まっていた。


「千尋が泣いて二ノ宮に頼ってたらしい」


事実じゃない。

でも誰も信じてくれない。


優しさを装いながら、

彼は確実にあたしを“孤立”させていた。


そしてあたしへのいじめは、密かに、しかし確実に激しさを増した。


助けを求めても「自分で対処しろ」。

人に話せば「優等生が何甘えてるの」と笑われる。


心は少しずつ摩耗していった。


***


いつしか、自傷が日常になった。

夜になると、SNSには悪質な書き込みが届く。


「優等生なんだからもっとしっかりしろよ」

「千尋は甘えすぎ」


そのたび、心が押しつぶされそうになる。

ブロックすると、翌日には学校で噂になった。


「あいつ、友達のアカウントブロックしたらしい」

「感じ悪いよな」


もう、どこにも逃げ場なんてなかった。


眠れない夜が続き、泣き続ける日々。

そんなある晩、SNSにこんなコメントが届いた。


「ブスで無能の千尋さん、調子に乗りすぎ。生きる価値ないよ。死ねば?」


正常な精神状態なら通報した。

でもこのときのあたしは、限界を越えていた。


だから思わず、こう返した。


「あたしより生きる価値ない人なんてたくさんいるでしょ。

 嫉妬していじめてくる奴らとか。

 あたしの悪口言ってる奴らとか。

 クラスのために頑張っても叩かれる気持ち、分かる?」


その投稿は“問題発言”として即座に学校に伝わった。


***


翌日、あたしは全員の前で教師に怒鳴られた。

相手が先に中傷してきたことを説明しても、誰も信じない。


泣きじゃくるあたしを、クラス全員が嘲笑った。


その瞬間、胸の奥で何かが決定的に切れた。


――殺してやる。


いけないことだと分かっている。

でも、なぜあたしだけがこんな目に遭う?


その怒りが、全身を支配していた。


***


翌日、あたしはナイフを持って学校へ向かった。


いじめてきた数人を狙って襲った。

何人かに怪我を負わせたが、死人は出なかった。


すぐに駆けつけた警察に、あたしは現行犯逮捕された。


ニュースは翌日大きく報じられ、

あたしはただの“加害者”になった。


裁判で、懲役8年の判決が下った。


あたしは「やりました」以外、何も言わなかった。

謝っても無駄。

真実を話しても、誰も信じない。


人間なんて、そんなもの。

あたしは静かに耐えることしかできない。


まるで、獲物に襲われた動物が、

無抵抗のまま食べられていくように。

最後までお読み頂きありがとうございました。

この作品が面白いと思われた方は、評価やブクマをしてくださると、大変励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ