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早坂さんの昼食

作者: 変汁

早坂朱莉(はやさかあかり)こと私は最近、クラスの男子から


「お前を俺の彼女にしてやってもいいぜ?」


と告られたので給食当番だった私は、


「好き嫌いなく給食を残さず全部食べたら彼女になってあげてもいいよ」


と答えち。


その男子は体格が大きい割に好き嫌いが多く、毎日給食を残しては、直ぐにお腹が空いたと迷惑極まりない言葉を吐くような男子だった。


名前は木村順太(きむらじゅんた)といい、今よりまだ小さい頃、大きな病気をして2年も入院していたようで、年齢は私達より2つも上だった。

それが木村順太をクラスで威張らす要因になっているのは、口には出さないが皆んなわかっていた。


だからクラスで嫌われている1人に入っていたが、それを面と向かっていう人は1人もいなかった。女子も男子も陰口で止めておいた。


どうしてかと言えば、今年の最初にクラスの男子が1人、自殺したからだ。その子は木村順太と似たようなタイプだったのだけど、あるホームルームが終わった後、全員から囲まれて虐められたのだ。幸いな事にその時、木村順太は定期検診とやらで、5日間、入院していた為、イジメの事や自殺した事を知る事はなかった。


退院して戻って来た時、机の上の花瓶を見て、

「何これ?」


と聞いて来たが、誰一人木村順太の質問に答える生徒はいなかった。理由は単純明確で木村順太がその自殺した生徒をいじめていたと、私が別なクラスの生徒へ、〇〇君が言ってたんだけどと、言いふらしたからだ。その生徒の中には口が軽い生徒が数名いて、先生にチクったようだった。勿論、そうなる事を想定していたのは私としては上出来だった。


だから木村順太が退院した日の夕方、担任から呼び出された事はクラス全員が喜んだ。


木村順太にしてみれば言いがかりもいい所だけど、そこは2年も歳上のバカな先輩だけあって、先生から聞いた話を殆ど理解出来なかったようだ。ナイーブな問題だから先生もハッキリと木村順太がイジメたから、その生徒が自殺したんだとは言える筈もなく、おまけに遺書もなかった事で、私達が加害者だとバレる事はなかった。


木村順太自身、その生徒が自殺したというのはわかり机の上の花の意味も理解した。けれどそこまでだった。自分のせいにされた事までは理解出来ていなかったようだ。


こんな時、バカって強いなと思う。だけど私は死んでも木村順太のようなバカは真っ平ごめんだ。


そんなバカからの告白に私は人生最大の汚点が9歳で来てしまった事に死にたい気持ちになりかけた。でも私は機転が効く女子だからあのような提案を持ちかけたのだった。


私は給食係が着る服を来て帽子を被りマスクをした。ポケットには授業中に集めた消しゴムのカスと鉛筆を削った鰹節のようなものと画鋲にチョークをカッターナイフで削ったカスを服のポケットに忍ばせた。木村順太の番が来るとポケットの中からそれらを取り出し木村順太から容器を受け取ると豚汁をオタマで掬い中へ入れた。手渡す前に大盛りにしてあげようか?と囁いた。木村順太は私の顔を見ながら何度も頷いた。その会話の際には既に豚汁のお椀の中には隠し持っていた全てが入れられていた。それを覆うように豚汁を追加する。


木村順太は自分だけ特別にされた事で嬉しそうに席へと戻って言った。


全員に行き届くと私達は一旦、給食の寸胴などを下げに行った。戻った時には何故か私達を待つ事もなく先生を含めた全員が食べ始めていた。


自分の席につき、愛菜ちゃんに聞いたら木村順太が豚汁が冷めるから先に食べようと言い出したらしい。それを許す先生も先生だ。木村順太の一口目から見ることが出来なくなったじゃない。

不満はあったけれど、それを出す訳にはいかなかった。次回があればの話だけど、その時は最初の一口目から観察したい。私が豚汁を半分程、食べた頃木村順太がクラス中に聞こえるほど大きな嗚咽を吐いた。その後、机の上の給食へ向かって食べた物を全て吐き出した。


私は直ぐに立ち上がり掃除用具を取りに行った。

箒と塵取り、バケツを持って木村順太の席に向かった。机を挟んだ形で私は泣きながら吐き続ける木村順太の前に立ち、箒を使ってお盆ごとバケツの中へ落とした。


私は側に来た先生が手伝おうとするのを制止した。


「大丈夫です。給食係として私が勝手に大盛りにしてあげたのがいけなかったんです。先生、ごめんなさい。皆んなもごめんなさい。せっかくの給食の時間が、木村順太君のゲロのせいで食欲がなくなりますよね。臭いもくさいし、早く片付けるから食事を続けてください」


言ってバケツに目をやると画鋲と鉛筆を削ったカスが目についた。それを隠すようにわざとバケツを蹴ってその位置をずらした。


「大丈夫?」


背中を摩ってあげながら、耳元で呟いた。


「せっかくのチャンスだったのに残念。私の彼氏にはなれないね。それと木村君が波木君を、自殺に追い込んだ事、皆んな知ってるよ。木村君てこの吐いたゲロ以上に汚いヤツだね」


私は箒と塵取りはそのままにバケツを持って教室を出た。トイレで洗い流し証拠になる画鋲とカスの処分も忘れなかった。


教室に戻ると木村順太の姿はなく先生が保健室へ連れていったようだった。


先生、ありがとうございます。でも1日の中で楽しみな給食なのにその給食を好き嫌いがあるからってゲロするような人は私は嫌いだし、私達のクラスにはいて欲しくないです。


後の事はよろしくお願いします。



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