38-3・巨大紅葉の夢~崇の幻~喜田糾弾
-夜・紅葉のマンション-
自室のベッドで就寝中の紅葉が唸っている。
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夢の中の紅葉は、直接的には見ていない「富運寺の鬼討伐」に参加をしていた。だから「これは夢だ」と解った。
「ンォォォォォォォッッッッッッ!!!」
仏殿の屋根から上半身を出した紅葉が、地上でひしめいている手の平サイズの鬼達を次々と叩き潰す。
「御館様が、巨大小娘に!?・・・そんなバカな!?」
声は聞こえるのだが、紅葉は一切耳を傾けない。足元で懸命に名を呼ぶ伊原木鬼一先生に向かって、容赦無く手の平を振り降ろした。なんで夢に、何の思い入れも無い伊原木先生が出演しているのだろうか?特に恨みは無いんだけど、虫みたいに潰しちゃった。
「・・・どうやって、紅葉を倒す?」
「あの巨大紅葉ちゃんは、酒呑童子のメダルを依り代にして集まった闇の塊。
依り代を潰せば、巨大紅葉ちゃんは消滅する!」
眼前に残ったのは、EXザムシードとガルダのみ。手の平サイズの2人が、紅葉を見上げている。紅葉には、何故、ザムシード達が小さいのか解らない。いや、周りの建造物や木々を見る限りでは、ザムシード達が小さいのではなく自分が巨大なのだ。
「死力を尽くして、ここで巨大な化け物を倒す!」
ガルダは、巨大紅葉の正面に立ち、鳥銃を構えて光弾を連射する!全然痛くないんだけど、なんかムカ付くので追い回す巨大紅葉。
その間に、EXザムシードは巨大紅葉の真横に移動して、炎に包まれた妖刀を構えて突進をしてきた!
「ンォォォォォォォッッッッッッ!!!
嫌だぁぁっっっっ!!!なんで、燕真が、ァタシを攻撃すんのっっ!!」
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「んわぁぁっっっっっっっっっっっっ!!!」
跳び跳ねるようにして起き上がる紅葉。最悪の夢だ。
「なんで、燕真がァタシを攻撃すんの?」
夢とは、深層心理が見せるビジョン。燕真達と並んで、闇の巨人と戦う夢を見るなら納得できる。だけど、燕真と敵対する夢なんて有り得ない。もの凄く嫌な気分だ。 ちなみに、自分が巨大化していたことは、この際、どうでも良い。足元で叫んでいた伊原木先生を叩き潰した件は、燕真との敵対に比べれば些細な問題だ。
「燕真とァタシが戦うワケないぢゃん。」
これまでに、燕真が死んじゃう夢や、燕真がいなくなっちゃう夢や、燕真が女の子とラブラブな夢を見て、凄く嫌な気分になったことは何度かある。燕真と戦う夢は、それらと同じくらい嫌な夢だった。
-紅葉の部屋の隣・有紀の寝室-
有紀は、ベッドに腰を降ろして、窓の外を眺めていた。紅葉に「普通の人間ではないこと」を伝えるべき時期だというのは解っている。粉木からは「受け皿となる燕真が戸惑っているので、今は打ち明けるタイミングではない」と言われた。また、先日には「真実を知った燕真が、紅葉の受け皿になることを選ぶかは、強制はできない」とも言われている。
「母親として、責任を持って打ち明けて、受け皿になるべき?」
このまま、燕真や粉木任せにして良いのだろうか?母親としての責務から逃げているのではないか?不安で仕方が無い。
〈有紀。〉
聞き馴染みのある声が、悩む有紀に優しく語りかけた。
「崇さん?」
それは、紅葉の父・崇(酒呑童子)の声。有紀は崇を探すが、彼は何処にもいない。窓ガラスの中だけに崇の姿があり、穏やかな表情で有紀の隣に座っている。18年前に消滅をして魂だけになった彼にできる精一杯の接触だ。
〈君には心痛ばかりかけてスマナイね。
紅葉のことは、しばらく、僕に任せてくれないか?〉
「何をするつもりなの?」
〈彼女が、自分で自分を守れるように、自己防衛力を付けてもらう。
その後は、少々難易度が高そうだが、僕なりにやれるだけのことをやってみる。〉
「私は何を手伝えば・・・?」
〈君は、自分自身が動きやすい状況を守ってくれ。
君が動くべき時に何もできなくては、僕もお手上げになってしまうからね。〉
崇の諭すような口調のおかげで、有紀の焦りは幾分かは収まった。
「僕が想定していたよりも、紅葉の正念場が早くなってしまった。
だが、受け入れるしかあるまい。
そして、紅葉や、彼女が信頼する若者達を信じよう。
これも紅葉が越えるべき試練なのだろうからね。」
頷く有紀。窓ガラスの中だけに映っている崇は、穏やかに微笑んで消える。
「ありがとう、崇さん。覚悟は決まったわ。」
紅葉が、人間としての正念場を迎えようとしている。きっと辛いことも否応なく体験するだろう。紅葉に耐えられるのか?心配で仕方ないけど、手助けはしないし、口も挟まないと決めた。彼女の未来は、親が導くものではない。紅葉と、彼女を大切に思う若者達によって、紡がれていくと信じている。
-翌朝-
自転車を学校に置いて帰宅をしてしまった為、紅葉は燕真のバイクに乗せてもらって登校をする。いつもの燕真ならば、「徒歩かバスで行け」と断るのだが、紅葉が心配なので、素直に「学校まで送って」を受け入れた。
「ねぇねぇ、燕真?」
「ん?」
「もし、ァタシが巨大化をして、燕真を踏み潰したら、燕真ゎど~する?」
「・・・はぁ?どうするも何も、踏み潰された時点で死んでるから、何もできん。」
「言い方間違えた。大きなァタシが燕真を踏み潰そうとしたら、ど~する?」
唐突な話題に対して、燕真は巨大紅葉を想像する・・・が、想像できない。
「オマエ、巨大化できるの?」
「できないよぉ~。」
「不可能なifには答える意味がねーだろ。」
「もしもの話だってば。燕真ゎ大きなァタシをやっつける?」
燕真は、改めて巨大紅葉を想像する。
「逃げる・・・かな?
ただでさえ騒がしいオマエに巨大化なんてされたら、煩くて仕方がない。」
「んぇ~~~~・・・アニメとかの‘あるある’みたいに、
ギューってやって元に戻してくれないの?」
「オマエ、巨大化していて、俺を踏み潰そうとしてんだろ?
通常サイズの俺がどうやって抱きしめるんだよ?
抱きしめる前に踏み潰されてしまうぞ。」
「そっかぁ~・・・なら、巨大化なんてしない方がイイね。」
「そう言う質問は、巨大化できるようになってからにしてくれ。」
バイクは、文架大橋西詰め交差点を右折して、優麗高方面へ向かう。目的地が近付くにつれ、自転車や徒歩で登校をする優高生の数が増え、彼等は「バイクの後ろに乗って登校する優高のブレザー」を見て、「誰だろう?」と眺めた。
「ねぇねぇ、燕真?」
「ん?」
「いつまでも隠していないで、付き合ってること、みんなに言っちゃおうか?」
「・・・・・・・・・・・・・はぁ?」
燕真は、一瞬目眩がして、ハンドル操作を誤って対向車に突っ込みそうになった。
「付き合ってねーだろ。」
「あれ、そ~だっけ?」
「隠すつもりがあるなら、俺に送迎をさせるな。」
「んっ!ワカッタ。隠すのやめる。」
「いやいや、そうじゃなくて、送迎させるのをやめろ。」
「ん!ワカッタ。送迎させないようにガンバル。」
やがて、優麗高の正門前に到着。タンデムから降りた紅葉は、被っていたヘルメットを燕真に渡して、何度も振り返って手を振りながら校庭を駆けていく。
見送った燕真は、自分の腹に手を宛て、先程まで廻されていた紅葉の腕の感触を意識する。いつの頃からか、紅葉が燕真の腰をシッカリと掴むのが当たり前になっていたが、今日は、いつも以上に力が込められていたように思える。
「アイツが巨大化したら・・・か。」
突拍子のない質問に対して、燕真は曖昧な回答しかしていない。だが、彼女には伝えなかった明確な答えはある。紅葉が巨大化をして、燕真を踏み潰そうとしても、燕真は戦えない。武器を捨てて、必死になって言葉を投げかけ、紅葉を元に戻す手段を探すだろう。
「でも・・・オマエ(紅葉)に、刃を向けたりはしない。
俺に、そんなことが・・・できるわけないだろ。」
校内で人気トップレベルの美少女を送った青年を、優高生達は「彼氏?」「兄貴?」と、珍獣扱いをして眺めている。もの凄く居心地の悪い燕真は、早々にバイクをスタートさせて、優麗高から離れていった。
・・・で、やや余談になるが、昨日、紅葉の自転車は、麻由が預かって学校の駐輪場に戻し、鍵はバイト合流時に紅葉に返した。受け取った紅葉は、帰宅後に自室の机の上に鍵を置いて、そのまま忘れてきた。
その為、本日は自転車で帰ることができず、燕真に連絡を入れて迎えに来てもらうことになる。
「・・・たくっ!どこが『迎させないようにガンバル』だよ!?」
-東京都・怪士対策陰陽道組織(退治屋)本社-
最上階の会議室で幹部達に囲まれた前CEOの喜田は、目を丸くして驚く。喜田は、本部に呼ばれて、解雇通知を受けるのだと観念をして出社した。だが、想定と違った。
「バカな?俺を疑っているのか?」
幹部クラスしか入室できない保管庫から、闇の生命(酒呑童子)を封印したメダルが喪失した。防犯カメラに、立ち入る者は映っていない。だが、保管庫への入室に使われたコードが、喜田の所有するコードだった。
「前CEOしか知らないはずのコードを他者に漏らすのは職務規程違反。
前CEO自身がメダルを持ち出したなら論外。
どちらに転んでも、貴方は終わりですね。」
「・・・くっ!」
喜田は、持ち出し厳禁の最重要メダルなど盗んでいない。だが、「コードを外部に漏らしてしまった可能性は無い」とは言い切れない。数日前まで、「俺に歯向かう者などいない」「何かあっても権力を行使して黙殺できる」とタカを括っていたので、身辺のセキュリティ自体が甘くなっていた。
「誰かが、俺を陥れる為に、俺に罪を被せようとしている!」
約4ヶ月前、保管庫から酒呑童子を封印した『酒』メダル3枚が盗難された時、喜田は、ロクに調査もせず、専用コードを使用した前CFO(最高財務責任者)の遠斉武実の罪と決めて、解任、及び、解雇をした。まさか、全く同じ状況が、今度は自分自身に降りかかるとは思ってもいなかった。
「前CEOを陥れることに、何のメリットがあると?」
「我々には、既に落ち目の貴方に構っている余裕など有りませんよ。」
「余計な仕事を増やさないでもらいたい。」
しばらくは黙って聞いていた大武COO(CEO兼務)が、「これではただの罵り合い」と感じて口を開いた。
「前CEOの仰る通り、何者かが罪を被せようとしている可能性はゼロではない。」
保管室の扉のコードが入力された時間帯に明確なアリバイがあるのは、幹部達と各秘書のうちの半分以下。大武は、コード入力の数秒前にトイレに入る姿が、廊下の防犯カメラに映っている。秘書の迫天音は、秘書室で業務を熟す姿が、廊下からCOO秘書室までをカバーする防犯カメラに映っている。数人の幹部は、廊下で雑談をしたり、エレベーターに乗る姿が記録されている。だが、他の幹部や秘書達は、室内に籠もっていたか、外出中で、犯行時刻のアリバイが無い。
「おぉ!信じてくれるのか、大武君!」
「館内全てを対象に、盗難メダルの捜索を行う!
もちろん、最初に捜査を入れるのは、提案者である俺の部屋(COO室)だ。」
大武の清廉な態度を前にして、反論する者はいなかった。自身が模範となる提案によって、大武は幹部達の掌握に成功する。
「そうと決まれば、早い方が良い。
早速、捜索班を編制して、我がCOO室から捜索に入ってくれ。」
本部所属の隊員で捜索をすると何らかの忖度が働く可能性がある為、捜索班は同ビル内の東東京支部の隊員で編成されることが決まった。




