35-1・茨城復活~佑芽の研修~麻由はギャラリーアテンダント
文架市内のビジネスホテルの一室で、夜野里夢が、プロジェクトの進捗状況を大魔会の総帥に報告する。
同僚・キュリアについては「退治屋との交戦で戦死した」と報告をしてある。その結果、総帥の指示で、里夢がプロジェクトリーダーに繰り上げられた。既に合流済みのカリナは短絡的、数日後に来日をする幹部は脳筋、どちらも、サーバントリーダーだったキュリアと比べれば、遥かに扱いやすい。
「フフフ・・・全てが思惑通り。」
念を増幅させてくれる駒(根古佑芽)を失ったが、特に焦りはない。協力者に対しては、意図的に連絡をせずに焦らしている‘あちら側’が、そろそろ痺れを切らして連絡をくれるだろう。
「喜田御弥司・・・貴方は、こちらの船に乗るしか無い。」
ブロントは粉木を恨んでおり、アポロは麻由を守りたかったので、偶発的に利害が一致して、文架の退治屋と敵対関係になった。リンクスは、敵対意志が無かったので、望み通りの結果に繋がらなかった。
だが、敗者となって遺恨を残した‘歴史上の英雄や豪傑の類い’ならば、攻撃的な戦力として期待できる。
「さて・・・依り代の人選は・・・。」
里夢が操作するパソコン画面の、複数の‘才能の高い依り代’候補の中に、紅葉の顔と名前が表示されている。
-怪士対策陰陽道組織・東京本部-
砂影滋子が大武COOのオフィスを訪れていた。砂影、大武共に、苦々しい表情をしている。
「まさか、CEOが・・・。
信頼に値する砂影さんの言葉ですが、直ぐには信じられませんね。」
親の立場ならば、息子を復活させたい気持ちは理解できる。だが、陰陽の外法に踏み込み、且つ、個人的理由で就学生(根古佑芽)に汚れ役を押し付けようとした者に、退治屋トップの資格は無い。
「でしょうね。それが普通の反応ちゃ。
私だって、何かの間違いであってほしいわ。」
決定的な証拠があれば、即座に喜田CEOへの勧告をできるのだが、里夢の証言だけでは材料不足。しかし、放置もできないので、砂影は、文架市のリンクス事件の一連と、里夢の「全てが喜田CEOの指示」という証言を、組織のNo2・大武剛に報告していた。
「あとは俺に任せてください・・・とは言えませんが、
こちらでも調査をしてみましょう。」
部外者(里夢)の証言よりも、喜田CEOを信用したい。しかし、文架市の事件が、喜田の指示と仮定すると、全ての矛盾が解消されてしまう。
「頼んだわよ、大武副社長。」
「砂影さんも・・・新たに何らかの情報を得たら、教えてくださいね。」
退席をする砂影と、見送る大武。砂影がCOO室から出て遠ざかるのを確認してから、秘書の迫天音が室内に入ってきた。
「話は聞いていたな?」
「はい。」
「なかなか良い風が背中を押してくれるじゃないか。
砂影さんや幹部連中、そして文架支部やが気付きやすいように、
CEOを追い落とすネタを集めて、バラ蒔いてくれ。」
「こうなるように仕向けたのに、まるで、運良く追い風になったような言い方ね。」
「おいおい、今の俺の立場は、退治屋のCOOだ。
ボンボンの追い落としなど、決して望んではいない。
組織を円滑に廻す為に、涙を飲んで、
現CEOを辞任勧告に追い込む材料を集めねばならぬのだよ。
他の者が聞いたら勘違いをするような物言いはやめてくれないか?」
「勘違い?・・・まぁ、そういうことにしておきましょう。・・・ふふふっ」
大武剛と迫天音は、砂影の前では決して見せなかった不気味な笑みを浮かべる。
-数日後・CEO室-
文架市で発生した事件は、「喜田CEOが画策した」と尾ヒレを付けて本部内で噂になり、巡り巡って喜田本人の耳にも入っていた。
「くそっ!どうなっているんだ!?」
自分自身を蚊帳の外に置く為に、直属の部下ではなく、いつでも切り捨てられる就学生を「姉の名誉回復」で釣って派遣したのに離反をしてしまった。しかも、彼女を庇護しているのは、喜田が目の仇にしている文架支部だ。
「ジジイめ!」
閑職に追い込み、権力を奪ったはずの粉木勘平のが、喜田CEOの足元を崩そうとしている。
「あの女は、何をやっているのだ!?」
活動を黙認すれば夜野里夢が死者の復活を為してくれる約束のはずだが、彼女からの連絡は無い。スマホを握り締め、現状報告を得る為に里夢に連絡を入れる。
-文架市の東・須弥山-
茨城童子が座禅を組んで瞑想をしていた。市街地付近では、退治屋のセンサーで感知されてしまうので、遠く離れた山中を修行場にしている。自然と一体になって、ゆっくりと呼吸をした後、手応えを感じて眼を開けた。
「ふむ・・・癒えたか。」
この3ヶ月間、茨城童子は人間のフリをして息を潜め、戦いで失われた妖力を回復させた。
大嶽丸は、「酒呑童子の復活に失敗をした理由は魂が別の者に転生した為」と言っていた。
「それならば、転生した者の命を摘んで、御館様の魂を取り戻す!
我が忠誠に、一片の変化も無し!」
酒呑童子が何に転生をしたのか解らなければ、妖怪騒ぎを発生させて炙り出すのみ。
人間態・伊原木鬼一に姿を変え、愛車の青いドゥカティ・パニガーレV4(バイク)に跨がり、文架市街へと帰る。
-文架市東のスーパーの駐車場-
妖怪事件発生。燕真と紅葉はホンダ・NC750Xに、雅仁はヤマハ・MT-10に、根古佑芽はホンダ・VFR1200Fに乗って到着をする。人々が逃げて無人になった駐車場で、一本足の生えた傘が跳び跳ねていた。
「いたっ!カラカサコゾーだねっ!」
「幻装っ!」×3
燕真&雅仁&佑芽が、Yメダルをベルトのバックルに装填して、妖幻ファイターザムシード&ガルダ&リンクス登場!それぞれが、武器を装備して、カラカサ小僧に向かって行く!
「カッサッサァ~!」
カラカサ小僧が、胴(傘)を広げて一本足を軸に回転をすると、数本の親骨が飛んで来た!ガルダは妖槍を振るって弾き飛ばすが、ザムシードとリンクスには着弾!
「何をやっているんだ?君は、飛び道具の予測もできないのか!?」
「できねーよ!」
弾き飛ばされたザムシード達を尻目に見ながら、ガルダが突進をして妖槍を振るう!穂先がカラカサ小僧の小間を貫通!
「カッサッサァ~!」
カラカサ小僧は、胴(傘)を畳んで、自分自身を振り回して、ガルダの槍に応戦する!
「なにっ!?傘を剣のように振り回すだと!?奇抜なっ!」
妖槍の穂先と、カラカサ小僧の頭ろくろが激突!弾き飛ばされたカラカサ小僧は、一本足で着地をすると同時に、ガルダに頭ろくろを向けて跳び跳ねた!
「なにっ!?傘で刺突だとっ!?」
想定外の攻撃手段に動揺をするガルダ!カラカサ小僧の刺突がガルダに届く直前で、横から接近したザムシードが、妖刀でカラカサ小僧の胴を思いっ切りブッ叩いた!親骨、及び、中棒が折れて、地面に叩き付けられるカラカサ小僧!
「何をやっているんだ?
オマエは、傘を武器のように振り回すって予測もできないのか!?」
「振り回すなど、傘の使い方に反している!」
「傘ってのは、小学生には、そ~ゆ~使い方をされるんだよ!」
カラカサ小僧は大ダメージを受けて戦闘不能。ガルダに呼ばれたリンクスが、研修を兼ねて、へし折れて動くことも開くこともできないカラカサ小僧を浄化する。白メダルに『傘』の文字が浮かび上がり、封印が完了したのを確認して、変身を解除。
「さぁ、討伐完了。帰るぞ。・・・乗れ、紅葉。」
「・・・むぅ~~~。」
燕真の催促に応じてNC750Xのタンデムに乗る紅葉は、露骨に不満な表情をしている。
「どうした、紅葉?」
「ニャンニャン(佑芽)ばっかり変身してズルい。
ニャンニャン、正式なよーげんファイターぢゃないんでしょ?」
「まぁ・・・そうだけどさ。」
「新参者のクセにァタシより先に変身するとか、有り得なくね?」
「オマエは部外者。佑芽ちゃんは就学生。
少なくとも、オマエよりは変身する資格がある。」
「ァタシ、部外者ぢゃないもん!」
佑芽は、正式に妖幻システムを受領した立場ではないが、「姉の遺品のシステムを所持している」「私も役に立ちたい」という理由で、妖怪討伐に参加をしており、サポートをするガルダが、リンクスの師に近い状況になっていた。
「今度、護符の効果的な使い方や、銀塊の霊封も教えてください。」
「ああ、時間に余裕がある時に・・・な。」
「本部で就学している時よりも、良い勉強になりますね。
きっと、雅仁‘先生’の指導が上手なんですよ。」
「先生はよせ。」
リンクス(佑芽)は、戦闘経験値を積んだザムシード(燕真)やガルダ(雅仁)と比べて戦闘力が大幅に劣るが、下級~中級妖怪程度の討伐ならば、ザムシードとガルダと一緒ならばリンクスが危機に陥る可能性は低いので、「佑芽の実戦経験を積む」という意図を込めて粉木は黙認をしている。
・・・というか、完全部外者の紅葉が当たり前のように妖怪退治に同伴する状況で、「就学生の佑芽は危険だから行くな」とは言えない。つまり、紅葉は文句タラタラだが、佑芽の実戦参加を止められないのは、1周廻って紅葉の所為なのだ。
「それにさっ!なんでニャンニャンが、燕真が前に乗ってたバイクに乗ってんの?」
愚痴の内容が聞こえない雅仁と佑芽は、気にせずに乗ってきたバイクに跨がった。 佑芽は、粉木の許可を受けて、燕真のお下がりのホンダ・VFR1200Fを借りている。
「紅葉ちゃんが、佐波木さんに、なんか文句言ってますね。」
「いつものことだ。気にする必要はあるまい。」
燕真が紅葉に愚痴られるのは毎度のこと。ついでに、雅仁が、朴念仁で他人の機微を把握できないのも毎度のこと。
「フツーなら、燕真のお下がりゎ、ァタシがもらうのがパターンぢゃね?」
「そんなパターンは無い。
そもそも、オマエ、バイクの免許持ってねーだろ。」
「免許取るモン。」
「母親にダメって言われたんだろ?」
「・・・むぅ~~~。」
雅仁と佑芽がバイクをスタートさせたので、紅葉を乗せた燕真も少し遅れて後から続く。
-YOUKAIミュージアム-
高校生は春休み。燕真達の出動中は、麻由と粉木が店番をしている。粉木は、燕真が妖怪討伐に慣れていなかった頃は共に出動をしていたが、協力者が増えた最近では、「強敵出現」以外の時は燕真達に任せる機会が増えた。
「ただいまぁ~!」
「お疲れ様でした。」
「楽勝だったぞ!」
「ご苦労やったな。店が繁忙してるさかい、報告は後でええで。」
燕真は、いつも通りに2階に上がって、博物館の受付カウンターに収まる。紅葉と雅仁と佑芽はフロアスタッフの衣装に着替えて店内に立つ。入れ替わりで、粉木は事務室に引っ込んで、エプロンを外した麻由は2階に上がった。
すると、店内で食事を終えた数人の客が「待ってました」と言わんばかりに、博物館を見学する為に2階へと上がる。
「・・・むぅ~~~。」
紅葉は、先輩格の自分を差し置いて、麻由が燕真と一緒に2階を担当しているのが面白くない。
「あっ!紅葉ちゃん、また、2階に行っちゃうの?」
紅葉は、佑芽に呼び止められるが聞く耳を持たず、喫茶フロアが繁忙時間のことなどお構い無しで階段を上がってしまう。雅仁と佑芽は、溜息を付いて顔を見合わせた。
「まぁ・・・いつものことだ。」
「ホント、紅葉ちゃんって、佐波木さんにベッタリなんだね。」
「仕方が無い。喫茶フロアは、俺と君で維持をしよう。」
「は~いっ!2人で頑張ろうね、雅仁さんっ!」
「う・・・うむ(急に馴れ馴れしい口調?・・・女性の思考は解らん)。」
紅葉が2階に来ると、麻由が客達に展示物の説明をしていた。
「この刀は、11世紀前半に亜弥賀の地を治めていた武将が、
源氏の頭領から拝領した刀で、その後、妖怪退治に・・・」
紅葉は、受付カウンター内で麻由や客達を眺めている燕真に詰め寄った。
「燕真っ!ハトポッポを見て、エッチなこと考えてたでしょ?」
「はぁ?鳩を見てエッチ?なんだそりゃ?」
「麻由のことだよぉ~!鳩に似てるぢゃん!」
「似てるか?」
「ソックリだよ。ハトポッポとエッチなことしちゃダメだからね!」
「見学客がいるのに、できるわけがねーだろ!」
「んぇぇっっ?お客さんがいなかったら、するの!?」
「そーゆーつもりで言ったんじゃない!
ワケの解らんケチを付けるなって言ってんだよ!」
「でも、ハトポッポに誘惑されたら、するでしょ!?」
「誘惑なんてされねーよ。彼女の目当ては粉木ジジイだぞ。」
「だいたい、何で新参者のハトポッポが2階を担当してんの?」
「それは、葛城さんはオマエと違って、勉強好きで知識が豊富だから・・・」
麻由のYOUKAIミュージアム参加は、想定外の利益をもたらした。粉木の力になりたい麻由は、喫茶店が‘ついで’で、メインはあくまでも博物館と知り、妖怪のことを勉強した。その甲斐があって、博物館の展示物に文架市の歴史的背景を重ね合わせて説明できるようになり、ギャラリーアテンダントに就任した麻由の説明を聞きたい客達がリピーターになったのだ。粉木にその気は無いのだが、多分、入場料を倍にしても客は来る。
「ヨーカイバスターゎ、ニャンニャン(佑芽)の方が活躍してるし、
ミュージアムゎ、ハトポッポ(麻由)の方が活躍してるし、
ァタシが活躍するところが無いぢゃん!」
「そんなこと無いだろ。」
「それにさぁ・・・前回の事件はニャンニャンばっかり目立ってて、
その前の事件はハトポッポばっかり目立ってって、
ァタシ、この物語のヒロインなのに、スッゲー影が薄いぢゃん。」
「・・・そうかもしれないけど、メタ発言はやめれ。」
麻由のおかげで、2階もそれなりに繁盛をしているが、受付の燕真は、入場料を取る以外に仕事が無いので、相変わらず暇だ。




