Ⅲ-1・紅葉の誕生日~有紀の退治屋就職と成長
※外伝は、本編に奥行きを持たせる目的のストーリーです。読み飛ばしても後の展開に影響はありません。
これは、富運寺での鬼討伐を終えた数日後の話。
-12月下旬・サンハイツ広院(源川家)-
その日は紅葉の17才の誕生日。母・有紀が、ソファーに座ってスマホで料理のレシピを眺めながら、夕食の献立を思案している。
「ママ!行ってきます!」
「あら、何処へ?」
「ヨーカイミュージアムっ!」
「何時頃帰るの?」
「燕真にお誕生日パーティーやらせるから、遅くなると思うっ!」
「彼氏?」
「燕真ゎカレシぢゃないっ!」
慌ただしく玄関から駆け出していく紅葉と、呆れ気味に見送る有紀。ケーキを買って、ご馳走を作り、母娘で誕生日を祝うつもりだったが、無用な計画だった。
女手一つで育てた紅葉が、自分以外と誕生日を祝うのは少し寂しい。だけど同時に、紅葉が人並みに恋をしていることを嬉しく感じる。
「崇さん・・・今年の誕生日は、好きな男の子にお祝いしてもらうみたいね。」
リビングに戻った有紀は、サイドボードに立て掛けられた写真立てを眺める。生まれた直後の紅葉と、寄り添う有紀の写真。同じ写真立ての隅に、若い頃の有紀が、カジュアルな服を着た若い男性と並んで写るプリクラが差し込んである。
-二十数年前・文架市-
粉木勘平が、文架市陽快町に移り住んで数ヶ月が経過をした頃・・・。
ピーピーピー
「ん?妖怪出現か?」
市街地にセットした妖気センサーが感知をして、粉木邸の警報音を鳴らす。
「場所は・・・鎮守の森公園か?」
当時の鎮守の森公園は、整備をされておらず、鬱蒼としており、昼間でもあまりひとけが無い。
文架市は龍脈と龍穴が整っている。大きな龍穴の一つが鎮守の森公園に有り、妖気が溜まりやすい日は、霊感の強い者が無意識に寄ってしまい、且つ、妖怪が発生しやすいのだ。
「午後7時・・・全く、迷惑な話やのう。
こんな危ない日に、公園をウロチョロするなんて、いったい、何処の何奴や?」
公園に駆け付けた粉木は、女子高生を襲う妖怪・笑地蔵を発見。異獣サマナーアデスに変身をして戦い、陰陽道を駆使して浄化する。
「怪我は無いな?こない物騒なとこ、サッサと離れい。」
「・・・は、はい。」
妖怪討伐を終え、女子高生に2~3言葉を掛けて落ち着かせ、粉木は現場から去って行く。
-3週間後-
粉木が帰宅した直後の妖怪博物館に、押し掛けてきた少女がいた。笑地蔵事件で救出した女子高生だ。粉木は、内心で動揺をしたが、そんな素振りは見せずに対応をする。
「お嬢ちゃん?お客さんか?
こない博物館、お嬢ちゃんが見て楽しいところではないで。」
「駅前の商店街で見付けて、尾行してきました!」
「何や、ワシになんか用か?一目惚れでもしよったんなら諦めや。
ワシはりょうさんモテるよって、お嬢ちゃん1人の物にはならへんで。」
「この前、動くお地蔵さんをやっつけた変な鎧の人・・・おじさんですよね?」
普通ならば、妖怪に襲われた怖い記憶など早く忘れたいので、望んで退治屋に接触してくる一般人などいない。
何よりも、ただでさえ鬱蒼とした公園に、日が暮れてから近付く物好きな一般人などいない。あの日、あの時間帯に、龍穴に引き寄せられるのは、強い霊力の持ち主だ。
「ワシは粉木勘平。嬢ちゃん・・・名は?」
「源川有紀です。」
「何で、此処に来た?」
「おじさんのやっていることに興味があるからです。
私、子供の頃から、人ではない物が見えるんですが、
それを退治できる人がいることを初めて知りました。」
高校生を退治屋の業務に就かせるのは、退治屋が現体制になってからは前例が無い。本来ならば、退治屋は専門の就学をして正社員になった者以外は受け付けない。だが、彼女の才能の高さを評価した粉木は「まだ幼くて心が純粋なうちに、モラルから学んでもらうべき」と考える。
「有紀ちゃん、ワシの弟子になる気はあるか?」
「はい。妖怪から友達を守る力が欲しいです。」
偶然から始まった師弟関係が構築される。最初の数年は、高校生活~短大との掛け持ちになる。無論、本来ならば有り得ない手段なので、本部には改竄した履歴書を報告をした。この事実は、改竄依頼を渋々手伝った砂影しか知らない。
「先ずは、銀塊への霊力封入や。手本見したるさかいやってみぃ。」
「はい!」
教育は、霊力封入&護符作り、そして何処にでも存在する妖気を‘意識的に見る’ことから始まった。
「あの人・・・人間ですよね?」
「人間や。妖気は、物や場所だけでなく、人の念にも憑くんや。」
有紀は、人の邪な心や弱い心が妖怪の餌になることを知る。妖気に憑かれた他人を見ることで、その人間が何に執着をしているのかを予測する。それは、妖怪討伐だけを前提にした本部では教えない、粉木独自の教育方針だった。
「妖怪は、悪しき心を好物にする。
強い霊力を持つ者に憑きやすい。
それは、有紀ちゃんやワシでも例外にはならん。」
「退治屋でも、妖怪に憑かれるってことですか?」
「人を救う力を、邪な思いで扱えばな。」
退治屋は妖怪と身近ゆえに、一般人よりも妖怪に憑かれる危険が高い。だが、才能と強靱な心で、妖怪に隙を与えない。
「有紀ちゃんは下がって見とれ!」
「はいっ!」
文架市は、人口密度と比較して妖怪の発生率が高い地域。定期的に発生する妖怪との戦いでは、粉木(異獣サマナーアデス)の戦いと浄化を、有紀に何度も見せた。
「有紀ちゃん!浄化してみい!」
「・・・で、でも。」
「大丈夫や。失敗したら、ワシがフォローする。教えた通りにやってみい。」
妖怪の存在に慣れてきたら、弱り切った妖怪に護符を使った浄化を実戦させる。浄化に慣れてきたら、まだ余力のある妖怪に対して、銀塊で霊力を増幅させた上で、護符による浄化を試させた。
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退治屋としての一通りの心構えを教えた後、粉木は有紀を伴って文架市西にある羽里野山に登った。
「お氷・・・いるんやろ、顔見せい!」
勘平が呼び掛けた途端、冷たい妖気が場を支配して、吹雪が吹き荒れ、白い着物を着て、青髪で白い肌の妖怪が出現をする。
「妖怪!雪女!?」
「氷柱女のお氷や。人害はあれへんさかい安心せんかい。」
有紀は驚いたが、粉木の言葉を信じて、直ぐに構えを解いた。粉木は、有紀の一連の仕草を見逃さない。この対面で、粉木は有紀を試していた。彼女は、氷柱女に対して攻撃的に接した過去の弟子とは違うようだ。
「この妖怪・・・粉木さんの恋人ですか?」
「ちゃうわ、ボケ!」
「なんだ、この小娘は?オマエ(粉木)のツガイか?」
「ちゃうわ、ボケ!・・・揃って、発想が下世話やの!」
有紀を眺めて、微笑を浮かべる氷柱女。この発想の一致が、後の有紀の発展に繋がることになる。
「この様な小娘を育てているのか?」
「小娘やけど、才能はあるで。」
「そんな物、見れば解る。
私は、小娘を見下しているではなく、オマエをバカにしているのだ。」
「・・・はぁ?ワシを?」
「オマエのような粗忽な男に、小娘の教育ができるとは思えない。
私は、この小娘が気に入った。
未だに‘やおも’のオマエが、間違いを起こして、
汚れを知らぬ生娘が傷物になっては困る。」
「・・・はぁ、オマン、ワシを何だと思って・・・?」
「私が娘の後見をしてやる。」
「・・・はぁ?何を勝手に?」
その日から、家主の意思に関係無く氷柱女が粉木邸に居候をして、有紀の修業の補佐をする。
「冷房とやらを入れてくれ。」
「エアコンを使うような気候やないで。」
「暑くて敵わん。体が融けてしまう。」
「・・・だったら山に帰れや。」
体が氷でできている氷柱女は、とても‘暑がり’だった。通常時はエアコンの温度を最低まで下げられ、冬は暖房を入れることを拒否される。
「妖怪を生かす為に、ワシが凍え死んでしまう。」
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粉木は有紀に、サポートの一連と退治屋の心構え、そして、自身の失敗を経験値にして、過去の弟子には伝えられなかった「人として踏み越えては成らない領域」を教えた。出世競争をする同僚が存在しない影響もあり、有紀は成長を焦ること無く、粉木の下で素直に成長をする。
そんな某日、有紀は妖怪博物館の事務室に呼び出された。
「有紀ちゃん、前線に出てみるか?」
「えっ?ついに私も異獣サマナーデビューですか?」
「ちゃう。サマナーシステムは人間の技術ではあらへん。
以前教えたやろ。妖幻ファイターや。」
有紀は過去の弟子とは違い、優しい心を持って育った。才能は過去の弟子と同等。
粉木の手元には、「粉木用」として、提供されたまま未使用の妖幻システム・Yケータイが一つある。
「そやけど、大問題が1つある。」
通常の妖幻システムは、妖怪の能力を封印した状態で支給される。だが、粉木が持つYケータイには、何も込められていない。
「今まで倒したうちの、どれか好みの妖怪を選ぶんや。」
「倒した妖怪以外でも良いんですか?」
「これから倒すとでも?アテはあるんか?」
「いえ、倒した妖怪ではなく、友人の手を借りたいんです。」
「なんやて?」
粉木には‘一体’しか思い浮かばない。有紀が合図をすると、窓から事務所内に雪混じりの冷たい風が吹き込んできて、しばらく吹雪が吹き荒れ、気が付くと、ソファーの有紀の隣に氷柱女が座っていた。
「やはりオマン(氷柱女)か。」
妖怪のままでは、妖幻ファイターと同一個体にはなれない。封印用のメダルに収まった状態で、本部で錬成を施さなければならないのだ。
「お氷・・・頼めるか?」
「娘のことは気に入っている。協力してやろう。」
氷柱女は、妖幻システムの媒体となることを受け入れてくれた。粉木は、内々で、かつての上司・砂影滋子に、氷柱女の戦力化を依頼する。
「ワシとオマンの仲やろ。頼む!」
〈面倒ごとを頼む時ばっかり‘腐れ縁’を持ち出すなんて、えらい都合が良いわね。
条件ちゃ、アンタの弟子が、妖怪を封印したメダルを直接持ってくること!
自慢の愛弟子とやらを、一度くらい私の会わせなさい!〉
「解った解った。」
〈念の為に言うとくけど、アンタちゃ来んで良いさかいね!〉
「寂しいこと言わんといてや。まぁ、行く気もあれへんけどな。」
砂影は、古い友人の頼みを半ば呆れながら承諾をする。
有紀は、砂影の抜き打ち面接を受けて合格をもらい、後日、氷柱女を封印したYメダルが送られてきた。
「本来なら本部の辞令込みで、主任の役職になるんだがな。
有紀ちゃんはパート扱いのままや。ワシに権力が無くてスマンな。」
「気にしないでください。
私は、生活費がもらえて、文架市の平和が守れれば、それで充分です。」
後に伝説となる【妖幻ファイターハーゲン】が誕生をする。
-数年経過(18年前)-
本部は10階建ての新社屋を建て、【大規模な火災】からの復興を遂げた。
退治屋文架支部は一定以上の実績を作り続けたが、中枢の機能麻痺と砂影の隠蔽のおかげで、上層部の耳に入りにくく、有紀は醜い権力争いに巻き込まれずに済んだ。
有紀は、退治屋のパート、兼、妖怪博物館の係員として生計を立てている。もし、中枢が満足に機能した状態だったら、有紀は、高校卒業と同時に、上層部の子飼いとして「本部勤務」に呼び寄せられていただろう。
優秀な才能が、地方に留まり続けたことが幸運なのか不幸なのか、そのifの先の未来は誰にも解らない。
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退治屋が、酒呑童子と鬼族の所在地を突き止めた。直ぐに、鬼退治専門の名門・狗塚に伝えられ、協力要請を受けた退治屋では特殊部隊が編制される。
命を糧にして大いなる力を得た妖幻ファイターガルダ(狗塚宗仁)が、特攻の末に、酒呑童子に致命傷を与える!強大な妖力を持つ酒呑童子は、4つの封印メダルに吸収されても倒れず、体を崩壊させながら逃走をした!
-文架市・妖怪博物館-
鬼族との死闘など、文架支部には関係無い。粉木と有紀は、平穏そのものの日常を送っていた。粉木は事務室のソファーに踏ん反り返って雑誌を読み、有紀は誰も客の居ない博物館受付に座って暇を持て余していた。
ピーピーピー
事務室で妖怪発生の警報音が鳴り、聞きつけた有紀が顔を出す。
「出動しますね。」
「発生場所は鎮守の森公園付近。妖気は薄い。
大物ではなさそうやけど、気をつけや。」
有紀は博物館から飛び出して、気配を探る。確かに公園方面に妖気を感じる。愛車のホンダ・CBR900RRに跨がって出動をした。
-鎮守の森公園上空-
酒呑童子が、体を崩壊させながら上空を移動する。
「まさか、俺が、此処まで追い詰められるとは。」
自慢の副首領と四天王、そして鬼軍団。まともにぶつかれば、退治屋を迎撃できる自信はあった。だが、何処かからアジトの情報が漏洩して、戦力が整う前に奇襲を受けた。
「誰が、隠れ里の情報を退治屋に伝えた!?やはり・・・ヤツか!?」
酒呑童子は、同じ地獄界(冥界)に住む宿敵を想像して、悔しそうに表情を歪めた。
この世界には、人々が住む人間界と、妖怪が闊歩する地獄界が存在する。
鬼の頭領・酒呑童子は、空の見えない地獄界を不満に感じ、空を求めて1000年以上もの長い間、幾度となく人間界へ侵攻を画策し、人間達の絆の強さに負けて撤退をした。若き頃は首だけになって命からがら逃げ帰ったこともあった。
地獄界に‘異形’が発生した。輝く闇が人間界に繋がるひずみの上に浮かんでいた。闇はくすむ物であって、輝く物ではない。矛盾する描写になるが、その闇は輝いていた。何かの前触れなのか?今まで、地獄界に住む誰もが、この様な奇異を見たことが無い。
噂を聞いた酒呑童子は人間界から冥界に戻り、奇異と対面する。輝く闇は人間界に行くことを望んでいた。これまで何度も討伐をされて、力の限界を感じていた酒呑童子は、奇異を吸収して新たな力を得ようと考えた。
「輝く闇を食ってなければ・・・
俺は、狗塚の当主によって、完全に砕かれたいただろう。」
狗塚の決死の一撃を喰らった時、酒呑童子の腹の中にあった輝く闇が微力を発した。妖力の大半を失ったが、僅かに残せたのは、輝く闇に守られたからだ。




