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22-1・雅仁滞在~紅葉の不満~燕真就業の謎

 同時投稿の『妖幻ファイター』ではカットされたストーリーです。

 燕真と雅仁は、妖気反応発生の警報を受けて、文架市の西区に向かってバイクを走らせていた。文架大橋を通過して市街地を抜け、西地区の田園地帯に到着すると、田んぼから上半身を出した老人のような妖怪がいた。


「泥田坊だな・・・幻装!」


 雅仁の体が光に包まれ、妖幻ファイターガルダ登場!


「幻装!」


 燕真の体が光に包まれ、妖幻ファイターザムシード登場!妖刀を装備して先行するガルダを追うようにして妖怪に向かっていく!

 しかし、今朝の雨で田んぼが泥濘んでいて走りにくい。ザムシードが足下を気にしていると、妖怪が泥団子を投げてきて全身に炸裂!弾き飛ばされて田面を転がる!そんなに痛くはないが、泥だらけにされてムカ付く!


「くそっ!」


 ここ数日、走行中の車に石の仕込まれた泥の塊が投げられて、フロントガラスやサイドガラスが割られるという事件が多発していてる。近所の小学校や中学校や高校に「車に物を投げてはいけない」と指導が出ていると紅葉から聞いたが、「子供の悪ふざけ」は濡れ衣らしい。真犯人は、この妖怪だろう。


「地形を確かめてから動け!」


 ガルダは低空飛行をして、田面には接触せずに移動をしている。そして、妖怪に近付いて発砲をして泥田坊にダメージを与え、弱ったところでギガシュートを放ってトドメを刺し、アッサリと戦闘終了。


「・・・俺はアンタと違って、飛ぶ機能が無いんだよ!」

「飛べないなりの戦い方が有るはずだ!」

「戦い方を考える前に戦いが終わったんだよ!」


 些細な皮肉を聞き流しながら、自分の姿を確認するザムシード。何処からどう見ても、良く見慣れたザムシードだ。


「・・・どうした?確認するまでもなく、君には羽なんて生えてないぞ!」

「あぁ・・・うん、解ってるけどさ!

 何であの時だけ、別の形になれたのかな?ってな。」


 鬼の討伐時の‘変化をした強いザムシード’は何だったのか?


「意識的にフォームチェンジをしたのではなかったのか?」

「う、うん・・・なんで、違う形になったのか、俺にも説明できないんだよな。」

「調べてみる価値はありそうだな。

 まぁ、調べるにしても、YOUKAIミュージアムに戻ってからだ。」

「うん、そうだな!」


 変身を解除してバイクに跨がり、YOUKAIミュージアムに向かって走り出す。


「エクストラを与えたくても、アレじゃどうにもならんな。」

「我等が入り込む為の受け皿ができたのは、あの時1回限りか。」


 燕真には見えない2人組が、路肩に立って、去って行く燕真の背を見送る。それは、ザムシードがEXザムシードに変化をした時に出現して力を貸した2人だ。




 鬼の討伐から、1ヶ月が経過していた。最近は大騒ぎするほどの妖怪事件は起こっていない。この1ヶ月で発生した妖怪は3件のみ。

 しかも、未熟なザムシードが単独で戦っていた頃とは違い、戦闘経験値の高いガルダが参戦する為、妖怪に逃げられることなく事件は早期解決をする。


 鬼退治の専門家が、1つの地域に滞在を続けることは珍しい。本部での訓練を終えて以降、狗塚雅仁が、これほどの期間を1ヶ所で過ごすのは初めてだ。鬼の首領と幹部達が退治された為に、鬼を追って全国を回る必要が無くなったのだ。


「良い機会なので、少し休息を取りたい。」


 雅仁は粉木に申し出て、しばらくは粉木邸に居候をすることを選んだ。燕真のことは「未熟」と言いながらも人間性と根性を認め、「初めてできた仲間」と認識するようになっていた。紅葉のことは相変わらず「高い才能」と評価している。

 最近では、出会った頃の‘何かが憑いたような表情’に比べて、幾分かは穏やかな表情を見せるようになっていた。


「変わったヤツやな。この状況のどの辺に居心地の良さを感じるんや?」


 紅葉との口論(・・・というか、紅葉が一方的に喧嘩をふっかけている)は日常茶飯事。先日も、雅仁が「紅葉ちゃんの箸の握り方は幼稚園児みたいだな」と言ったことをキッカケにして大喧嘩が勃発した。そのたびに、止めに入る燕真が、何故かいつも損をしている。


「次回は、どんな下らない理由で喧嘩をすることやら。

 2人とも少しは大人になってくれ。」


 燕真は、文架大橋西詰めの信号機で停車をして、横目で優麗高がある御領町の方向を見る。今の時刻は午前10時30分。紅葉はまだ授業を受けている時間帯だ。決して優秀とは言えない紅葉のことだから、きっと、やる気無さそうに大欠伸をしながら授業を聞いているんだろう。


「アイツのことだから、自分も行きたかったと文句を垂れるんだろうな。」


 雅仁の滞在以降、紅葉が学校に行っている間に妖怪事件が解決して、彼女は事件に全く絡めない為に、かなりイライラしている。だからこそ、チョットしたキッカケで雅仁に突っ掛かる。

 彼女に「文架市に平和をもたらす為に退治屋を手伝っている」という前提があれば、そんな理由でカッカすることは無いだろう。頼もしい仲間の存在を歓迎するはずだ。現に燕真は「退治屋の稼ぎが激減するのは辛いが、妖怪事件が早期解決をして、平和が守られているならば良い」と考えている(茶店のバイトで稼げてるし)。


  『お嬢の行動理念は、人助けや慈善事業やない!興味と欲求や!

   純粋がゆえに、今はまだ透明色やけど、

   白色か黒色かで言うたら、黒に近い透明なんやで!!』


 以前(第12話)、粉木が紅葉を評した言葉が少し気になる。だが、紅葉が‘黒’に染まる姿など想像できないので、直ぐに脳内から消し去った。


「紅葉に限って、それは無い!」


 信号が青に変わり、前にいた雅仁がバイクのバイクが走り出し、燕真も続けてバイクを発進させた。




-夕方・YOUKAIミュージアム-


「え~~~~~~~~っっっっ!!!!もぅ、妖怪ゃっつけちゃったのぉ~~!!

 ズルィズルィ!ァタシが学校から帰ってくるまで残してぉぃてょぉ~~~~!!」


 案の定、下校した直後の紅葉が、燕真に噛み付く勢いで文句を垂れる。


「お嬢・・・それは無茶な要求やで。」

「手を抜いて妖怪を見逃せってか?・・・被害が拡大すんぞ!」

「だったら、ァタシが学校に行ってぃなぃ時間に出現するょうにぉ願ぃしてょ~~!

 ぁと、寝てる時間も門限ょり遅ぃ時間も出現禁止~~~!」

「お嬢・・・それは無茶な要求やで。」

「妖怪討伐に行って、4時過ぎに出直してくれって頼むのか!?

 誰がそんな要求を受け入れるんだよ!?」

「ならなら、ァタシの学校に出現を・・・」

「お嬢・・・それは無茶な要求やで。」

「妖怪に地図を渡して、此処では戦いたくないから学校に行けって頼めってか!?

 あのさ、紅葉・・・もう少し考えてから喋ってくれよ!」

「ぶぅ~~ぶぅ~~~!

 ァタシ、最近、全然活躍してなぃぢゃ~~~~~~~ん!!!」


 妖怪事件が早期解決をして、平和が守られていることより、自分が事件に首を突っ込むことが重要らしい。


「紅葉ちゃん、退治屋になりたいのなら、

 高校卒業後に粉木さんの推薦を受けたらどうだ?

 本部で2~3年ほど学んで、その後、適正に応じて配属先が決まる。

 君ほどの才能が有れば・・・・・・・・・」

「ヤダッ!本部とか、配属先とか、スゲーどぅでもイイ!!

 ァタシゎ、じぃちゃんの弟子になってあげるの!

 ココでじぃちゃんに師匠をさせて退治屋するっ!!」

「本部の許可がなければ、退治屋は名乗れないし、道具の支給も無いのだが・・・」

「お嬢・・・『師匠をさせて』やなくて

 『師匠になって貰って』か『師匠になっていただいて』と言わんか?

 なして、弟子志願の方が上から目線なんじゃい?」

「あれ?本部で学ばなきゃ退治屋になれないのか?」


 紅葉のワガママに対して雅仁が丁寧な説明をするのに、紅葉は一切聞き入れる気が無く、それどころかスゲー失礼な物言いで押し通そうとしている・・・のだが、そんなことよりも、燕真がボソッと呟いた疑問が、その場の会話を止めた。


「俺・・・全く学ばずに退治屋やってんだけど・・・なんで?」

「え!?君は本部で学んでないのか!?」

「う、うん・・・学んでない。明治神宮のビルで勉強すんのか?」

「ほらぁ~~!本部とか関係無くて良いンぢゃん!!」

「君、確か22歳だよな?」

「それがなんだよ?」

「てっきり、高校卒業後に本部に入学して、

 他の連中なら2~3年で退治屋になれるのに、

 君の場合は出来が悪くて、4年間就学したとばかり思っていた。」

「大卒だ!去年卒業して、直ぐに退治屋になったんだよ!

 ・・・てか、出来が悪くて留年って・・・俺をバカにしすぎだ!」

「燕真、デキゎ悪いでしょ?」

「せやな、確実に出来は悪いな!

 本部で学んどったら、10年たっても退治屋になれんやろな!

 今のは狗塚の見立てが正しいで!」

「・・・・・・・・・・・・・・・誰か、俺をフォローしろよ!」

「即戦力並みに能力の高い者や、独学で霊術が使える者でも、

 最短でも、1年は本部で就学するんだ!

 退治屋の気構えと社会的立場を学べなければ、退治屋は名乗れないはずだ!」

「あ!それは全部、ジジイから詰め込まれた。」

「ァタシにも詰め込んでぇ~~~~!!」


 雅仁は、怪訝そうな表情で粉木を見詰める。粉木は、あからさまに「説明が面倒」と言いたげな表情で、溜息をつきながら口を開いた。


「ソイツの言う通りや。燕真は本部の教育は受けておらん。

 ソイツの教育は、ワシが任されておる。」

「・・・だから、何から何まで未熟なのか?」

「改めて言うな!」

「燕真ゎ0点だけど、人間的にゎァンタ(雅仁)の方が未熟だぁ~~!!」

「社会生活に全く適応していない君(紅葉)には言われたくない!」

「ァタシは、燕真とじぃちゃんとァミに適応すれば、

 その他大勢なんてどぅでも良ぃんだもん!」

  「良くないだろ!・・・俺もオマエの暴走には時々適応できないぞ!」

「それは視野が狭すぎる!

 そんな了見だから、才能の無駄遣いになることを自覚したまえ!」

「関係無ぃもん!燕真の役に立てばィィんだもん!!」

  「良くないだろ!・・・時々、足を引っ張られてるぞ!」

「何故、佐波木に拘る!?

 佐波木も佐波木だ!君はこんな歪な視野を何とも思わないのか!?」

「燕真をバカにするなぁ~~~!!燕真に謝れっ!!

 燕真は無能だけど燕真なんだぞぉっ!!」

「・・・狗塚にはバカにされてはいない!紅葉からはバカにされたけどっ!」

「毎度のことやけど、しょ~もない喧嘩はやめい!!

 なして、本部で学ぶ話から喧嘩に発展すんねん!?」


 店内に客が入って来る気配がしたので、「実は燕真が本部で学んでいない件」は有耶無耶になり、会話は終了する。



-数分後-


 つい先程までの短絡的な怒りが嘘のように、接客モードになった紅葉は、可愛らしい笑顔を浮かべながらフロア対応をしている。粉木と雅仁が事務室で打合せ中の為、普段なら2階に島流しにされる燕真がカウンターに入っていた。

 燕真は、紅葉目当ての客達が、紅葉にどんな思いを募らせているのかを想像する。きっと彼女は、彼等の妄想内の恋人にされているのだろう。平静を装いながら、紅葉の顔や体を見る目付きから、彼等の思惑が想像できる。


(みんな、アイツの本性を全く知らないんだろうな~~~。)


 他人が紅葉の妄想をするのは、あまり良い気分ではない。だが、彼等の気持ちが少しくらいは理解できてしまうし、個人の妄想まで制限することは出来ない。


「そっかぁ~・・・。紅葉ちゃん、土曜日はバイト休むんだ?残念。」

「ゴメンねぇ~。土曜日ゎ、お友達とスキーに行くの。」


 燕真は、紅葉と客の会話を適当に聞き流しつつ「紅葉ってスキーできるのか?」等と考えていた。


「燕真ゎスキーできるよね?」

「まぁ、それなりには・・・。」

「土曜日、スキーに行くからね。」

「おう、行ってこい。張り切りすぎて怪我すんなよ。」


 突然会話を振られた燕真は適当に対応する。紅葉は土曜日に文架市外に出かけるらしい。久しぶりに静かな1日を過ごせそうだ。尤も、客に「土曜日はいない」と宣伝しちゃっているので、店の売り上げも激減しそうだが・・・。




-事務室-


 話は有耶無耶で終わったが、「燕真が本部では学ばずに着任したこと」は事実だった。奧の事務所に引っ込んだ粉木と雅仁は、途切れてしまった話を続ける。


「ワシなりの解釈込みでしか説明できんがな。」


 怪士対策陰陽道組織(退治屋)は、公には伏せられた業種ゆえに、基本的に一般公募はない。血縁者のコネクション、妖怪被害で身寄りを亡くした子供、隊員にスカウトされた若者などが集められる。


適正年齢になると本社にある陰陽学校に入学して、最初の1年は組織の社会的立場と陰陽の基礎を学び、その間に適正を査定される。1年を経過すると、個々の立場や能力に応じて、幹部候補、チーフ(妖幻ファイター)候補、平隊員ヘイシトルーパー、事務職に振り分けられて、更に1~2年、専門分野を学んでから各職場に配属をされる。


「退治屋全員が通過する道や。

 せやから、燕真は例外中の例外という存在になる。」


 才能の無い者は平隊員か事務職に配属される。才能が認められても、通常は汎用型の妖幻システム(Yフォン)が支給され、現場でエースクラスの実績を上げて上層部に認められた者(幹部候補の場合は周りが活躍をお膳立てする)だけが最新型の妖幻システム(Yウォッチ)を獲得する。

 つまり、燕真の才能では事務職以外は有り得ない。だが、Yウォッチ以外では使えない『閻』のメダルが、燕真のみを適正者に選んだのだ。


「妖怪が自分の意思で、佐波木に使われることを選んだ?

 しかも、閻魔大王ほどの大物が?」

「ワシにも理由は解らん。」


 例外の発生に困惑をした上層部は、厄介事から逃げるように、燕真の指導と育成を、文架支部の頑固なベテラン退治屋に押し付ける。育成が失敗した場合の責任を取りたくない幹部達の思惑と、粉木を信頼する砂影による推薦が合致した為に、この配属が決まった。


「マニュアルに該当しない佐波木は、本部から厄介払いをされたのですね。」

「まぁ、そう言うこっちゃ。納得のいく説明ができんでスマンのう。」

「いえ・・・とても興味深い話でした。

 俺は、彼(燕真)を無能とは思っていませんよ。」


 粉木は、燕真と組んで、燕真の知識量の乏しさや、退治屋としての心構えの低さや、霊術的才能ゼロという事実に呆れながらも、胆力と純粋さを評価していた。霊術に伸びしろが無いゆえに本部では学べなかったが、逆に学ばなかったゆえの枠の無さが魅力と感じる。


「せやけど、燕真を評価しとるんなら、

 なんでそれを、燕真やお嬢の前で言わんのや?

 それがあれば、頻繁にお嬢に目の仇にされることも無かろうて。」

「・・・まぁ、そうなのかもしれませんが。」


 雅仁自身、何故、燕真や紅葉の前で「燕真への評価」を素直に表現できないのかが不思議だった。彼等を前にすると、無駄に張り合おうとしてしまう。それは、雅仁の、紅葉への淡い恋心の裏返しなのだが、幼い頃から「鬼退治」のみに邁進し、普通の思春期を経験してこなかった雅仁には、理解のできない心だった。


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