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24-2・EXメダルの深さ

-鎮守の森公園近くのビジネスホテルの一室-


 浴室から聞こえてくるシャワー音が止まり、中からバスローブに身を包んで濡れた髪を拭いた夜野里夢が出てくる。襟元から覗く豊満な胸は彼女が大人の女性であることを、バスローブからスラリと伸びた筋肉質な足と衣類越しにでもハッキリと解る引き締まったウエストは、彼女が戦士であることを雄弁に物語っている。


「ここまで来れば、堀田君達を仕留めるのは簡単ね。」


 部屋の灯りを消したまま、5階の窓から夜の文架市を眺める。

 彼女は「裏切り者が文架市を離れる」とは考えていない。これまで、大魔会を離反して、生き残った者は1人もいない。全てが追っ手に始末をされた。何処に息を潜めても、離反から数年が経過していても、大魔会のアサシンは所在を突き止める。逃げても無駄なのだ。

 ならば、離反者は隠れ家ではなく、抵抗する手段を探すだろう。彼等は、その手段を‘銀色のメダル’と考えている。


「彼等は、追っ手が掛かったことを理解した。」


 退治屋を侮っている離反者は、里夢の眼を盗み、必ずYOUKAIミュージアムを襲撃する。彼等に残された道は、それしかない。


「・・・だけど」


 先ほどの接触時、リリスがデスサイズを振るえば、離反者の命を狩ることは容易だった。だが、彼女はそれをしなかった。

 里夢は任務の即時遂行とは別のことを考えていた。名家の陰陽師と、データに載っていない妖幻システム。この地には、注目すべき妖幻ファイターが2人も揃っている。


「彼等を観察すれば、退治屋の最先端を把握できるわ。」


 噂で聞き、データでしか見たことの無い‘妖幻ファイター’を知りたい。母の古巣の技術を自分の眼で確かめたい。

 何故、母は退治屋から離れたのか?母は「保守的な退治屋の技術と比べて、躍進的な大魔会の技術は素晴らしい」と言った。里夢が退治屋に興味を持たないと言えば嘘になる。


「離反者など、その気になれば、いつでも消せる。

 それよりも、暗黙の不可侵を守りつつ、離反者達を泳がせて、

 妖幻ファイターとの戦いを傍観する方が楽しそうね。」


 里夢は、アイスティーで渇いた喉を潤してから部屋に照明を灯し、ノート型パソコンを開いて現状の報告書を纏め始める。




-郊外の廃ホテル(文架市南東の明森町・土地開発区)-


 電気のない建物の中に焚き火が焚かれ、3人の男達を照らしている。マスクドウォーリア・オーガ=堀田、マスクドウォーリア・スプリガン=クロム、マスクドウォーリア・ゴブリン=ロバート、3人の大魔会離反者だ。


「追っ手が来やがったか。」

「予想はしていたがな。」


 彼等は力を求めて大魔会に所属をした。人助けの意思は無く、悪魔を倒して支配下に置き、力を誇示することに生き甲斐を感じていた。

 大魔会は、退治屋とは違い、所属者の人間性は重要視しない。能力が有り、結果が伴えば、一定の地位を認められる。そう言う点では、堀田達には天職だった。


 だが、彼等はやり過ぎてしまった。強い悪魔を倒す為に見境無く戦い、多くの無関係な一般人が犠牲になった。首脳部は彼等の更迭を決めた。結果主義の組織は、結果が伴わなければ、「替えはいくらでもいる」と切り捨てられるのも早い。更迭は未来の昇進を奪われたことを意味する。

 彼等は従わなかった。「戦いが長引いたのはマスクドシステムが弱いからだ!」と反発をして、組織を離反して渡日する。

 その八つ当たりと力の誇示で‘鬼討伐の援軍30人’が犠牲になった。


「どうする、堀田?・・・もう俺達は?」

「ビビるな!返り討ちにすりゃ良いだけだ!」

「だが、アサシンは、総帥の懐刀だぜ!」

「フン!体で総帥の懐に転がり込んだ情婦だ!

 リリスの性能は驚異だが、俺達が強くなれば済む話だぜ!」


 巨漢・堀田の言葉に、クロムとロバートが頷く。


「その為にも、銀色のメダル・・・か!」

「あぁ、そうだ!実際に戦ってみて解っただろ?

 妖幻ファイターなんて、俺達のシステムに比べれば、ガキの玩具みたいなもんだ!

 サッサと連中を潰して、銀色のメダルを奪い取れば良いんだよ!」

「だが、あの茶店に、銀色のメダルなんて本当に在るのかな?」

「フン!・・・在るさ!リリスがこの地に来たのは偶然なんかじゃない!

 あの女は、俺達が探している物が、あの茶店にあるって情報を掴んだんだ!

 だから、俺達は、ピンポイントで、リリスに突き止められたんだ!

 俺は、あのリリスを見て確信をした!」

「なるほどな。・・・だが、どうする?派手に動けば、直ぐにリリスが来るぞ!」

「俺に考えがある。」


 3人の離反者は、焚き火に照らされた互いの顔を見つめ合い、強奪作戦の打合せを進める。




-YOUKAIミュージアム-


 粉木の過去と退治屋の汚点を聞き、事務所内は重苦しい雰囲気に包まれていた。だが、いつまでも黙っているわけにはいかない。粉木は砂影の目配せを受け、「自分がいつまでも沈痛な表情をしていたら、若者達に無駄な気を使わせてしまう」と察して表情を作り替える。


「もう昔の話や。いずれは話さなアカンて思うてた。

 せやけど、これをオマン等が聞いて、あれこれ悩むモンでもないやろ?

 ワシが言いたかったんは、銀色メダルは使いモンにならんと言うことだけや!」


 燕真は、かつての弟子とは違う。まだ未熟で、力に溺れるところはあるが、彼は、彼の周りにいる天才肌達(紅葉&雅仁)の陰になり、自分が「特別」ではなく「凡人」であることを理解している。そして、地味と言われても、不満を持つわけでもなく、素直に自分ができることに真正面から挑んでいる。


「そんなことより、オマン等の方は、もう話はえぇんか!?」


 少しでも「危険かもしれない」「実態の解らない」物は、出来の悪い愛弟子からは遠ざけたい。しかし、全ての話がが表面化した今は、「彼が闇に傾倒することはない」と信頼することにする。


「あ・・・あぁ・・・そう言えば・・・。」

「ケースに封印されたのが銀色メダルなら、

 透明色の方が‘エクストラの力’ですね。」

「ザムシードのパワーアップアイテム・・・か。」


 燕真が、テーブルの上から水晶メダルを拾い上げて眺めてみるが、反対側が透けて見える円にしか見えない。


「霊感ゼロのオマエが触れても何も解るまい!」

「あぁ・・・うん。やっぱ、そうなのかな?」

「君には解らないだろうが、周りの空気が鬼討伐の時のザムシードに似ている。」

「狗は解るのか?」

「どうだろうな?・・・触れてみなければ何とも言えない。貸してくれ!」


 雅仁は、燕真から水晶メダルを受け取って、掌において眺めてみる。


「水晶のメダルなんて、随分と不思議な代物ですね。

 人間界の技術では、こんな物は作れませんよね?」


 メダルを握り締め、目を閉じて、無言でメダルの習性を読み、僅かに顔をしかめて手を開く。


「こ、これはダメだ・・・呪われた銀色メダル以上に、俺の手には負えません。」


 燕真は驚いた表情で雅仁を眺め、粉木は「やはりな」と言いたげな表情で、雅仁が水晶メダルをテーブルの上に置くのを待ってから話す。


「どうや、狗塚?把握できたか?」

「えぇ、ある程度は解りました。

 そして、粉木さんが『解らない』と表現した理由もしました。」

「オマンでも、そうなんか?」

「はい・・・このメダルは、封印妖怪のリミッターを解除する代物ですね。

 おそらくは、地獄の書記官が言った‘エクストラ’開放のスイッチです。

 粉木さんは、この機能を、銀色メダルと同じ質感と表現したんですね。」

「あぁ、そうや。」


 理解できない燕真が、水晶のメダルを手に取って嬉しそうに眺めた。


「なら、このメダルを使えば、俺は鬼討伐の時みたいに・・・」

「残念ながら、それは無理だな。」


 直ぐに、雅仁が燕真に訂正をする。


「全ての機能が眠っている。」

「・・・ん?どういうことだ!?」

「電池が入っていない電化製品みたいな物だ。

 高性能だが、起動できなければ、どうにもならない。」

「・・・電池?」

「メダルの中身が空っぽなのさ。」


 燕真は、透明なメダルを覗き込んでみるが、何も解らない。


「起動させるには、霊力が必要ってことかしら?

 銀色メダルに霊力を送り込んで、封印妖怪のリミッターカットをするように。」

「大雑把に言えば、そう言うことですね。

 俺は、リミッターカットの霊術を教わっていないので、明確には言えませんが、

 おそらく、リミッターカットに必要な霊術は、

 攻撃的な類の霊術を銀色メダルに送り込んで、

 起動した銀色メダルが、封印を破壊して、あとは妖怪に霊力を食われ続ける。

 使役妖怪が強大なほど、得る力は大きいが、食われる霊力も大きくなる。

 父が、数分で天狗ガルダに霊力を食われたように。・・・ですよね?」

「・・・そ、そうね。」

「このメダルが保つ習性は、おそらく全く正反対です。」

「・・・どういうことだ?」

「ハッキリとは言えませんが、このメダルに必要なのは、

 リミッターカットで妖怪の暴走の糧になる霊力。

 使用者の魂を守る為に、事前にメダルに霊力を満たしておいて、

 封印妖怪は、その霊力を食い続ける。

 その霊力が無ければ、このメダルは機能しない仕組みになっているのです。」

「よ・・・よく解らないんだけど・・・。」


 雅仁は苛立ち、燕真が摘まんでいた水晶メダルを奪い取る。


「解れ、未熟者!

 ザムシードの‘エクストラ’が開放されれば、

 妖怪の力が強すぎて、君は瞬時に魂を食われる!

 場合によっては、周りにいる者の魂すら食うほどの妖力を開放するスイッチだ!

 それを防止する為に、事前にメダルに霊力を溜め込み、封印妖怪に食わさせる!

 その霊力が無ければ、スイッチその物が起動しない!

 つまりは、霊力でメダルを満たさなければ、このメダルは使えないんだ!」

「な、なんだよ!それだけで、俺は強くなれるのかよ!

 だったら、早速、このメダルに、オマエの霊力を封じ込めてくれよ!

 銀塊に霊力を封じ込めんのと同じようなもんだろ!?」

「確かに同じような物だが、深さがまるで違う!適応する霊術の種類も解らない!

 さっきも言っただろう!俺の手には負えないんだよ!」

「・・・ん?」

「このメダルに必要な貯蔵量が深すぎて、全く読めないんだ!

 俺は、自分の内包霊力量は把握しているが、メダルの貯蔵量は把握できない!

 例えば、銀塊や石礫1個がコップと仮定すれば、

 俺はその日の体調次第で、幾つのコップを満タンにできるか把握できる!

 だが、このメダルは海だ!これがどういうことか解るか!?

 このメダルは、俺の霊力・・・

 いや、命では足りないほどの霊力を求めているんだ!」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 銀色メダルと同じ習性、中身は空っぽ、どんな種類の霊力が必要なのかも解らない。雅仁の感想は、粉木の見解と同じだった。


「地獄の書記官は、何故、人間では扱えない物を置いていったんだ?」


 呪われた銀色メダルも、エクストラの力も、使い物にはならない。強大な敵と戦う為に新しい力を欲した燕真と雅仁にとって、それは残念な結果だった。




-翌朝・ビジネスホテルの一室-


 YOUKAIミュージアム付近に放っておいた斥候が、里夢の通信機に「異常発生」のアラームを送る。

 里夢は、粉木達と別れた直後に、魔力で野良猫を支配して、YOUKAIミュージアム付近を偵察させていた。


 通知内容は、「烏の姿を借りた使い魔が出現をして、YOUKAIミュージアムを見張っている」という物だった。間違いなく、離反者の放った斥候だろう。彼等は、里夢を警戒し、且つ、銀色メダルを諦めていないのだ。


「了解。住人にも、その使い魔にも気付かれないように、偵察を続けなさい。」


 本来ならば敵の使い魔は潰すべきだ。しかし里夢は、特に慌てることも、対応策を打つこともなく、表情1つ変えずに通信を切って、ノートパソコンを開く。

 昨夜の報告に対する返信が届いていた。内容は、「計画を継続せよ」。


「うふふっ・・・どう動いてくれるのやら?

 せいぜい、その余命を組織の為に役立てなさい。・・・下品な裏切り者ども。」


 里夢は、粉木や砂影には見せない冷たい微笑を浮かべ、ノートパソコンに向かって事務作業を続ける。


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