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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

化け物から人に戻るとき

作者:

後書きに解説があります。

読み終わった後に、読んでくれると嬉しいです。

 とある島が日本近海に浮上した。

 その島は西之島という新しい島だった。

 急激な火山活動によって、生命が芽生え、日本に住む国民はその島を宝島と呼んだ。メディアはこぞって西之島に行き、総理大臣はその島に行き、島の一部を持ち帰った。

 しかし、それが仇となった。

 それには化け物の卵があった。

 卵は急激に進化し、生命体へと変化し、東京都は壊滅の被害を受けた。

 たった一匹の巨大な蛇―—神話生物のヤマタノオロチに。

 陸、海、空の自衛隊がそれに立ち向かったが、化け物の吐き出す炎や雷に迎撃された。

 それに立ち向かうように命令されたのが、化け物がいる西之島を攻略した三人であった。

 三人は西之島を攻略する前は日本人であった。

 その彼らを人々は最初は歓迎した。

 しかし、今は異なる生物になっていた。

 不老不死の剣を持つ勇者、魔法を扱うエルフ、炎を吐き出す赤いドラゴンとなっていた。

 西之島を攻略した後は、化け物に変わってしまった彼らをメディアはこぞって罵倒した。

 国民はそれを鵜呑みにして、ゴミを投げつけ、かつて西之島を攻略した彼らを追放しようとした。

 しかし、ヤマタノオロチはそのことを好機と考え、東京都だけではなく、愛知県へと進出し、日本国民を次々と皆殺しにしていった。

 ヤマタノオロチに攻められた県は生命のいない荒れ地となっていた。

 そして大阪府へと攻めようとしたとき、山口県の長である久坂元帥が三人を見つけ、一緒にヤマタノオロチを倒そうと考えたのだ。

 三人は初め久坂の意思を頑なに断った。

 西之島を攻略させておいて日本から必要とされなかった事実と、日本人から化け物へと体を変えた三人を捨てた事実に、きっと久坂も同じことをするのだろうと三人は考えた。

 ヤマタノオロチは大阪府を飲み込み、山口県へと進んでいった。

 久坂は目の前に進んでくるヤマタノオロチに絶体絶命を感じた。

 しかし、三人は久坂の前に姿を現し、ヤマタノオロチを倒した。

「ぼくたちは大したことをしていない」

「山口県を救ってくれたんだ。お礼はたくさんするよ」

 久坂は強く歓迎した。そして勇者たちに一眼レフを送った。

 10年後、久坂は山口県の未来を願って永眠した。

 勇者たちは久坂を静かに埋葬した。

『よかったら、その一眼レフと一緒に山口県にきてくれよ』

 最後の久坂の言葉はそれだけだった。


 そして、現在に至る。

 ヤマタノオロチに壊滅な被害を受けた県は復興が進み、国民は多くの県に移り住んでいた。

 三人はというと、兵庫県で暮らしていた。

 兵庫県の淡路島の山奥に洲本城があった。

 そこで生活をしていた。

「ここはいつも綺麗だな」

 不老不死の勇者は早朝の洲本の町へカメラを向けた。

 その後のピッという音でモノクロだった写真がカラーに変わった。

「写真を取ってどうなるの?」

 勇者のカメラを覗き見るようにエルフの女性が上から覆い被さった。

「懐かしいものがあったんだ」

「ふーん、確か久坂からもらったね」

  エルフはカメラのレンズの前に手を伸ばした。

 今のところ綺麗な群青色の手袋しかレンズには映らない。

「撮ってもいい?」

「どうぞ」

 しかしスイッチを押した手は赤いドラゴンの手だ。

 カメラはパチリと光を放った。

「あー、もう!押したかったのに!」

 エルフの手が写真として現像される。エルフは後ろにいる大きくて真っ赤なドラゴンへと顔を向ける。

「気になってな」

「何が『気になってな』か! あたしだって、アンタ以上に気になっていたわ!!」

 エルフはほっぺたをハリセンボンのように膨らませながら、ドラゴンの皮膚をガンガン叩く。

 ドラゴンはなんとも思っていないのか、勇者に声をかける。

「写真として使えそうか?」

「うん、使え……」

 勇者はチェキのように一眼レフの下から出てきた写真に驚きの顔を示す。

「人の手が写ってる」

「え? 本当?」

 エルフは写真を背後から見た。

 写真に写る手は若干透明になってしまったエルフの手ではなく、人間の色をした手だった。

「このカメラ、人の頃だった姿を写すというの?」

「そうだとしたら、やることは一つだな」

 勇者はエルフとドラゴンが言おうとしていることが分かった。

「ぼくたちだけの国内旅行をしようか、きっと久坂も喜ぶと思うんだ」


 三人はまずは愛知県から旅行をすることにした。

 その理由は今はエルフの姿をしている彼女に所以があるところがあるからだった。

「わぁ、懐かしぃー!! わたし、巫女だったころ、ここで働いていたの!!」

 エルフの女性が足をぴょこぴょこ飛び跳ねて、ウサギのように駆け回る。

「少しぐらい落ち着いたらどうなんだ。ここは神さまがいる場所だろう」

 ドラゴンは少しだけエルフを叱った。

「神さまだって、わたしたちの不敬を少しは許してくれると思う!!」

「だからと言ってな、おれたちには日本人の血があるというのに……!!」

 その場所は熱田神宮だ。

 空から名鉄名古屋を探し、都会にある大きな神社を探せばわかるとエルフが言っていたのを頼りに、熱田神宮を探した。

 運よくヤマタノオロチも神さまの領域に触れなかったのであろう。

 建物の破損や傷すらもついていなかった。

「巫女をやっていた時期を思い出すわ。ねぇ、巫女の服を着たら似合うかな?」

 グラマラスなポーズをするエルフに二人は何も言わなかった。

 そして、砂利道を歩いて、神宮の奥まで進んだ。

 賽銭箱に好きな硬貨を入れて、お願い事をする。

 勇者は手早くお願い事をしたら、少し後ろへ下がった。

 そして一眼レフをパシャリと取った。

 エルフの女性がお願い事をするシーンがモノクロで映り、ピッと現像されるフィルムには黒髪の女性がお願い事をしている写真が出てきた。

 それを思い出としてカバンの中にしまった。

 そして二県目の香川県へと向かった。

「空から見る香川県はどうだ?」

「銭形砂絵だよね!! わたし、初めて見た!!」

「ぼくもだ。今まで名前すら分からなかった」

「おれの生まれ故郷なんだ、香川県は。育ちは神奈川県だが」

 ドラゴンの背から降りて、猫のいる公園の奥へ進んでいく。

 砂絵が見える展望台を見つけ、三人は夜にライトアップされた銭形砂絵を見た。

 そして、勇者はドラゴンに気付かれないように写真を取った。

 ドラゴンは砂絵を見ているモノクロの写真から、次第に消防の恰好をしたたくましい男性のカラーの写真が浮かんだ。

 そして最後の県、山口県に来た。

 久坂の石像がある萩市の公園内で岐阜県で汲んだ加賀野八幡神社の湧水を飲んでいた。

「日本の湧水はここが一番だな」

「なっ、名古屋の水道水が一番よっ!!」

 ドラゴンとエルフが一番の水をどれかと言い争っている。

 その姿を勇者はパシャリと写真を撮った。

 現像されるのは、男性と女性の姿だった。

(いつか、ぼくも人に戻れるのかな)

 西之島を攻略することになり、持っていた武器に不老不死の効果があったのだ。

(きっと、二人はぼくより先に逝ってしまう。ぼくは一人残されるだけだ)

 不老不死は生物である以上、羨ましいと誰しも思うだろう。

 しかし、勇者になってしまった青年は人ではなくなることを一番わかっていた。

 羨ましいとは微塵も思うことはなかった。

 もう生きるのは十分だ。

 死にたい、眠りたい。

 そう切に願うのに、死ねないという呪いという剣を持たざるを得なかったのだ。

 山口県の久坂の誕生地で写真を撮った。

 その写真は、青年だけだった。

 どう映ったか分からない。

 その理由は、二人の表情が物語っていたからである。

「久坂も喜んでいるよ」

「そうだといいな」

 青年は花を誕生地に供えた。

「次はおれたちかもしれない」

「えぇ、そうね」

 国内旅行を終えた、ぼくたちは洲本に戻った。

 二人の体調がおかしくなり、ドラゴンやエルフと言った異形な姿になった二人を医者は診ることができなかった。

 50年後、二人は息を引き取った。

 二人は幸せな顔をしていた。

「西之島を攻略しても、寿命には抗えなかった」

 青年は涙を流した。

 朝も、夜も、一日中も、一週間も、一年も。

 涙を流さない日はなかった。

 写真を見るだけでも、辛く感じた青年は一眼レフと写真を城の奥へとしまうことにした。


 そして、日本は二度も過ちをした。

 ヤマタノオロチが復活したのだ。

 青年は三人で立ち向かったあの日を思い出していたが、気力がわかなかった。

 日本を助けることができるのは、不老不死の青年しかいない。

 誰もが青年へと助けを乞うた。

 しかし、青年は拒んでいた。

 もう、死んでしまえばいい。

(ヤマタノオロチがぼくを襲えば、ぼくはようやく死ぬことができる)

 青年は洲本城に籠っていた。

 ただひたすら、殺される日を刻々と待っていた。

 ヤマタノオロチが来ない日は、剣を喉元に突き刺し、また心臓に突き刺していた。

 しかし、死ぬことを許さない剣の力で傷ついた体は治癒し、何も起きなかったかのように、正常に動いていた。

「もう、殺してくれよ!! 一人にしないでくれよ!!」

 青年は気が狂うほど、体を剣で突き刺した。

 しかし、体は元に戻るばかりで、ますます自虐体質が仇となっていく。

『戦わないの?』

「……え?」

 女性の声が聞こえた気がした。

『困る人はほおっておけないんだろ、おまえは』

 男性の声もした。

『あなた/おまえは誰かを(まもる)ためにいるんだろ?』

「どこにいるんだ? 二人とも!! ねぇ、出てこいよ!!」

 青年は剣を放り出し、声のする方向へと向かった。

 それは多くの写真と一つの一眼レフがある箱だった。

 写真には見知った顔の女性と男性が多くあった。

 そして、一つの写真だけが青年の写真となって残されていた。

『おまえは不老不死の勇者じゃない』

『あなたは陸上自衛隊の若者よ』

 オレンジ色となった今の髪が写真では黒色のショートになっていた。

『だから、戦え!!/戦いなさい!!』

 その声が二人の最後だった。

 剣を持っても、光すらない。

 青年はもう不老不死の勇者でなくなっていたのだ。

 人間に戻ったのだ。

「二人が見守っている……。ぼくは一人じゃないんだ」

 剣を持って、目の前にやってくるヤマタノオロチに立ち向かった。

 戦いになるほど、冷静になっていく青年はヤマタノオロチの体をバラバラに刻んだ。

 復活するしっぽは炎で焼き尽くし、治癒を遅らせた。

 そして、ヤマタノオロチのしっぽへ剣を振る。

 ガキン!!

 ヤマタノオロチの皮膚に何かが入っていた。

 それは二つ目の剣だった。

 その剣を引き抜き、今の剣を捨てて、ヤマタノオロチの顔を切り裂いていった。

 今までの剣と異なる切れ味にヤマタノオロチを一刀両断し、それは倒れていく。

『これで……』

『頑張ったな』

 後ろでは消防の恰好をした男性がいた。

『ずっと待っていたんだから』

 巫女の服をした女性は自衛官の青年に抱き着いた。

『でも、写真はいつも見てほしかったかも』

『おれたちの死が辛かったんだ、仕方ないだろう』

『そうね……』

 二人は苦悶の顔をした。

『三人で写真を撮ってみないか? おまえはおれたちばかりを撮っていただろう?』

『そうよ、かっこつけないでよ!』

『おまえのがとても多かったが……』

『うん、三人で撮ろう!!』

 天国の花園で三人は久坂を呼んできて、一眼レフで写真を撮ることにした。

『今から撮るぞ! 山口のカメラは高性能だ』

『いつでもいいよ!!』

 天国の花園でカメラが光を放った。

 三人の姿は見ていた久坂しか分からなかった。

 しかし、現像される写真には、かつて人間であった頃の姿とまったく変わりのない日本人としての姿が映っていた。

 三人の表情はとても安らいでいた。


 かつて、日本はヤマタノオロチの襲撃を二度受けたことがある。

 一回目は勇者たちが倒し、二回目は一人の青年が倒した。

 その後、彼は行方不明になっている。

解説

・西之島(読み:にしのしま)

 日本の小笠原諸島にある今も火山活動をしている無人島。

 この小説では化け物が住まう西之島として設定している。

 そのため、この島に近づく、または攻略すると、化け物にされていくことが裏設定にある。

 だから、初めから三人は攻略前はただの日本人であった状態から、物語の序盤から勇者・エルフ・ドラゴンとなっている状態になっている。

・ヤマタノオロチ

 日本の神話に出てくる神話生物。

・久坂元帥(よみ:くさか げんすい)

 元ネタは久坂玄瑞くさか げんずい。山口県(長州藩)の幕末藩士。

 なお、誕生地は山口県の萩市に実在している。

・一眼レフ

 ここでは一眼レフの撮影機能とチェキの現像機能が融合したカメラとなっている。

・洲本城(読み:すもとじょう)

 兵庫県の淡路島にある城跡。

・熱田神宮(読み:あつたじんぐう)

 愛知県の名古屋市にある神社。

・銭形砂絵(読み:ぜにがたすなえ)

 香川県の観音寺市にある、寛永通宝と形作られた砂絵。

・ドラゴン

 元ネタ:神奈川県 横浜市の消防 全国初配備 ドラゴンハイパーコマンドユニット

・加賀野八幡神社

 岐阜県にある神社

・名古屋の水道水

 水源は木曽川。名古屋の水道水はおいしいと有名。詳しくは名古屋上下水道局のHPを見てください。

・『勇者は……』→『青年は……』への名詞の変化

 不老不死としての勇者として生きている状態から、カメラで撮られた時から人間に戻っていることを示唆するため。

・天国

 青年は人に戻ることができた(死亡した)ということ。

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