~木下 綾~ 2
「どう? 少しは落ち着いた? はいこれお水」
「あ・・・・・・ありがとうございます」
フランス人形のような、白くて小さな手に包まれていた紙コップを受け取る。
その際に指先どうしが触れ合ってしまい、顔を赤らめる木下さん。そのなんともいえない姿がまた可愛く……
(なんだあいつ、入学初日からイチャイチャしやがって)
(理科室だ。誰か理科室に行って青酸カリを持って来い)
(じょ……女子のみなさん。僕が伊川です。ここが伊川の席ですよ!)
どうやら木下さんの指の感触と引き換えに、いろいろなものを失ったようだ。
男の友達……できるかな? (伊川君以外)
「さっきはビックリしちゃったよ~。いきなり机の下に入って行くんだもん。正直ちょっと傷ついた」
手を目の近くで横に平行移動させる。泣きまねのつもりだろうが、目を完全に開けた状態で行っているので、とても泣いているようには見えない。
そういえば、なんで俺なんかに声をかけてきたんだろ?
「え? なんでって……、あっそうだ忘れてた! 私、浦君に相談があったんだ!」
さきほどまで泣くまねをする為に使っていた手を元の位置に戻したかと思うと、まったくの無防備だった俺の手を柔らかく包みこむように両手で握ってきた。
「私、浦君にお願いがあるの!」
「え? な……なに……かな?」
同世代の女の子からお願いをされたことなんてないから、少し緊張してしまう。
木下さんは初め、発言することを躊躇うように下を向いたが、決意が固まったのか、再び顔を元の位置に戻し……たかと思うと、また下を向いてしまった。
まさか俺……いまから告られるんちゃいますか? 最近の子は告白とかはメールで済ますものばかりだと思ってましたけど、こんな積極的な子がまだ現世に残ってたんやな~。ゆとり世代も捨てたもんじゃありませんぜ旦那!(なぜ関西弁もどきなのかは、パニクったからです)
っと、ここで俺の目が木下さんの肩に乗っている一匹の生物を捕らえた。
その姿は巷でいう『インコ』という生物によく似ているのだが、本来羽があるべきところに人間そっくりの手が生えていたり、本来鳥の足があるべき場所に人間そっくりの足がついていたりとなんかもう突っ込みどころ満載の容姿をしていた。
――――これが木下さんの守護霊か。今までで見てきた守護霊の中で一番キモイ容姿をしているな……。
(おいこら坊主、なにかわしにようか?)
「はっ!」
(フラッシュバック) 意味・ 過去の出来事がなにかのきっかけではっきりと思い出されること。
俺の脳裏ではまさに、さきほどの木下さんの自己紹介の場面がフラッシュバックとなって蘇ってきた……。
以下回想シーン
「名前は木下 綾《おいこらテメェ。なにこっち》っていいます。趣味は裁縫と……あと《見てんだ? あん? 調子こいてん》料理を最近習い始めました。《じゃねえぞ。ぶっ殺されてえのか》気軽に声かけてくれて大丈夫なんで、友達になりましょう!《お前、あとで校舎裏に……》」
回想終了
校舎裏になんなんだよ!
そうだ! 俺が木下さんを覚えていた理由は、ただ単に木下さんが俺のストライクゾーンど真ん中だったからだけではない!
あの自己紹介で、クラス中の男子を虜にしていたことは事実だが、俺の場合は違う意味で虜中の虜になっていた。
極悪極まりないインコ(守護霊)は、どうも俺のことを嫌っているらしく、自己紹介中ずっとこちらのほうを睨みながら、随分と酷い悪罵をかましてきたんだよな~。
――いったい俺がなにしたって言うんだよ。
「あの……浦君? 私の話……聞いてた?」
「え? ……あっ! ご、ごめん! ちょっと考え事してた」
――も~、浦君ったら~、なんて言葉を吐きながら頬を少し膨らませる木下さん。
そ、そんな顔をされたら馬鹿な男なんてみんな勘違いしちゃいますよ!
「ちゃんと聞いてよね! じゃあ、改めてもう一度」
膨らせていた頬はすでに元の大きさにもどっており、先ほどと同じような戸惑った感じの表情をしながら、今度ははっきりと、
「私と一緒に……ミステリー研究部に入ってくれませんか?」
………………………………………………………………………………ん?