~原因~
守護霊+幽霊が見えるってことは、絶対にばれねえようにしねえと!
この決意はとてつもなく強く、確実に守ってやろうと思っていたのだが……
結論から言おう。無理だった。
いや、考えたこと自体無駄だった。
ていうか不可能だろう。
俺には、幽霊が見えるだけじゃなく、触れることが出来てしまうんだぞ。
そりゃあ、幽霊と生きている人間を区別できる、なにか目立つ特徴やら、能力的なものが俺に備わっていたらそりゃ全然話は変わってくるけど、どうやら神様は不公平な存在らしく、このまま俺を不幸のどん底にたたき落としたほうが世界の平和を維持できると判断したらしい。
いくらなんでも酷すぎないか神様。もしかして俺の存在忘れてる?
お~い神様。俺はここに、い・る・ぞ~。
しかし神様もそこまで鬼ではなかったらしく、不幸中の幸いというかなんというか、なんとか被害は一人の少女にバレただけですんだ。
―――雨沢 怜
この名前の持ち主こそ、俺の人生を狂わせた原因でもある能力に、唯一気づいた人物だ。
「あなた――――見えてるでしょ?」
満面の笑みがこちらに注がれる。あ~怖かった……。
いったいどこで間違えたんだろう?
あの自己紹介が原因だったのかな……。
「えっと……俺は……三組か」
裏をかいて八組の欄から自分の名前探しを行ってしまったことが裏目に出てしまった。
変なときに運悪いんだよな……俺。運がいい時があったかどうか記憶にはないけど。
自分が割り振られた教室に入ってみると、すでにそこには半分以上の三組と思われる生徒がいた。みんなそれぞれ思い思いのことをして担任が来るのを待っているようだ。
私立海星高等学校
この学校の特徴を一言で言ってしまえば、いわゆる「バカのバカによるバカの為の学校……」
といったところか。
この高校の名前を知らない高校生はいないというほど、全国的にバカの学校として認識されている。
実際、ここの入試試験は名前さえ間違えずに書けば合格できるとか、授業の九割は保健体育とか、教師は牢獄から連れてこられた死刑囚とか、根も葉もない噂があとをたたない。
そんな噂が流れると、ほとんどの一般の中学3年生は受験志望を抱くことも恐れ、一般の地域住民は話しかけることも恐れ、一般の野生動物は近寄ることを恐れる、つまりバカと同時にヤンキー学校として認識されてしまっているのである。
こんな状況に陥っているにも関わらず、この学校の運営者はなにも対策を打たないのかと疑問を持っていたが、実際入学してみて、運営者がなんの対策も打たない理由が少し分かった気がする。
このクラスの雰囲気を見ても分かる。
(高校生……大人……女……胸!)
(ロリコンの俺を満足させることができるかな?)
(貴様ら俺をなめるなよ……九九なんて45秒あればすべて言い切れるんだからな!)
ヤンキーどころか、本当のアホしか集まらないのに、対策を打っても意味がないと運営者は判断したんだろう。的確な判断だ。
まあ俺がわざわざこの学校を選んだのも、ここまでアホなら俺の能力に気づくやつなんて現れるわけがないという考えのもとで選んだんだ。期待を裏切られてもらっちゃ困る
「では最後に、一人一人に自己紹介をしてもらう。じゃあ……1番、安藤から」
「はい」
担任の新山先生がついてから、流れ作業のように話は進み、あっというまに自己紹介の時間となった。
「僕の《私の出身は》名前は《三重の山奥のほうなん》安藤敏明《ですよ。いや~》といいます。これから一年《あそこは空気がおいしくて》間、よろしく《いいところでしたよ~。》おねがいします《ま、そこで死んじゃったんですけどね・・・・・・ってご主人様終わるの速すぎですよ~》」
自己紹介を終えた安藤と名乗る少年は、何事もなかったように再び席へと座りなおす。友達作るの大変そう……って、問題はそこじゃねえええええ!
正直、名前が安藤っていうことしか分からなかったぞ! なんて間の悪い守護霊なんだ!
守護霊
俺が友達を作ることが出来なかった最大の原因。
俺は守護霊が見えてしまう。
触れてしまう。
そして……
会話すことが出来る。
故……声が聞こえてしまう。
しかし、守護霊というのはどうやら自主性というものがまったくないらしく、向こうからいきなり会話を持ちかけてくるということは滅多にない。
しかし今は状況が違う。
なんたって今は『自己紹介』という時間だ。人間たちがお互いのことを知りたいように、守護霊たちも友達を作ろうと必死なのだ。
「じゃあ次、伊川」
「は~い」
先生! 俺まだ安藤君のこと、なに一つ分かってないですよ! 守護霊が三重出身ってことしか情報が入ってきませんでした!
しかし、こんなことをクラスの前で手を上げて発言したとしても、担任の教師だけではなくクラス全員が「なんだ? あいつ?」的な目で見てくることは、簡単に予想できる。ここで疑問を覚えてはいけない!
慣れるんだ……慣れるんだ、隼人!
「どうも! 《あの~ですね……》俺、伊川 楓っていい《その……なんというか、》ます。随時彼女は募集中なんで《春っていいですよね》今俺のこと見て、好きになった女子の方、あとで俺の席のほうに来てくださいね。《桜が……いいですよね》では!《ソメイヨシノが……》」
……新しい発見を一つ。どうやら守護霊の性格というのは、取り付いている人間の性格とは真逆になるらしい。今回の守護霊はとても無口な性格だったらしく、なんとか伊川君の自己紹介の全文を理解することが出来た。
理解するに値しない内容だったけど。
「次は……浦」
「は……はい!」
やべっ。声裏返っちゃった。恥ずかしい。
教室全体が苦笑に包まれる中、ついに俺の自己紹介が始まってしまった。
な、なにから話そうか・・・・・・。