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~守護霊~

守護霊  意味・人に付き添って、その人を見守っているとされる霊。

 

 俺はてっきりこの守護霊というのは、その人の先祖か誰かが、人の形を保ったまま、その人の後ろに佇んでいるものだとばかり思っていた。

 


八年前までは。

 

 


 話を八年前、つまりは俺がまだ小学一年生だったころまで戻すとしよう。

 

 当時の俺は、それはもう初心な心の持ち主で、やることなすことすべてに興味津々だった訳だ。

 

 幼稚園児だったころ、重い病気に掛かってしまい、友達と一緒に遊ぶとか、そういう経験がまったくなかったわけで、小学校の入学式を、それはもう言葉に出来ないくらいの気持ちの高ぶりとはしゃぎっぷりで待ち望んでいた。

 

 

 そして入学式当日、この日の光景、体験は鮮明に覚えている。

 


 確か俺は、入学式の入場の行進の時、気持ちが高ぶりすぎて泣いてしまったんだっけな。  そのせいで俺の後ろの奴までつられて泣いてしまって、結局クラス全員で泣きながら入場したというのは、あの学校では結構伝説として語り次がれている。

 

 

 まあ、今思えば、あの時泣いた理由はほかにあったんだけど……。


 

 初めての机、初めての教科書、そして、初めての友達……。こんな楽しい空間があるのかと、その時は小さいながらも、心底驚いてしまった。



 ―――こんな時間が一生続けばいいと思った。



 しかし、そんな少年に一つの災難が降りかかってしまう。


 いや、降りかかってきたというよりは、すでに出会っていた災難に気づいた……というほうが合っているかな。その災難というのが……



 ―――幽霊が見えてしまった。



 まだその時の俺は、幽霊と普通の生きている人間の区別がつかなかった。(今も自信がないけど)


 だから、教室の中には三十六個しか椅子と机がないのに、どうして子供が五十人以上もいるのかという事に疑問を持ったし、なぜ先生は授業中に立ち歩いている子を叱らないのかと怒りを覚えたし、なぜ給食中は食べている子とそうでない子に別れるのか、みんなで一緒に食べないのかと不安を覚えたものだ。



しかしその違和感が一週間も続くと、俺の頭の中には、疑問や怒りや不安よりもむしろ『恐怖』という感情が大半をしめていた。

 

 だってそうだろう? 

 自分では明らかにおかしいと、この教室はおかしいと考えていても、周りがまったくの無反応だったら、そこに生まれるのは『恐怖』以外のなにものでもない。

 

 

 入学式から三週間が経過した。そのころになると、周りのクラスメイトは毎日がそりゃもう楽しそうであり、笑顔がクラス中に溢れていた。

 

 しかし、俺の中にあるこの恐怖は減ることを覚えず、むしろ毎日増すばかり。

 そんなプレッシャーにまだ六歳の俺の身体が耐えられるはずもなく、俺は恐怖を押し殺して、先生に今現在感じている恐怖の原因を聞いてみることにした。



「先生、あの子……どこの子?」

 

 

 ……もし俺に、過去に戻れる能力が突如として備わったとしたら、間違いなくこの日に戻るだろうな。

 

 

 ――この日を境に、俺の周りから人という人がどんどん減っていった。


 

 始めは先生や大人たちも、子供の冗談、悪ふざけ的なノリで俺の話を聞いていたようだが、それが一週間ほど続き、どうやら冗談ではないらしいというオーラが漂い始めたころ、文字通りの意味で周りの人間から俺は『避けられる』ようになっていた。

 

 

 この現象は当時六歳だった俺の心を大きく傷つけ、そして俺の認識の中で「楽しい場所」とされていた『学校』という居場所を、大人達は俺からすべて奪い去ったのだ。

 

 

 俺の親も苦労しただろうな。自分の子がいきなり何もないところを指指して、「あの子どこの子?」なんて聞いてきたら、そりゃもういろんな意味で困ってしまうと思う。

 

 

 親は毎日のように精神科に俺を連れて行った。どこかの怪しい宗教にも相談した。その結果は言うまでもなく無駄だったわけで、最終的に……俺の家には多額の借金と絶望だけが残っただけだった。



この出来事が原因で、俺の両親は離婚してしまった。いわゆる「家族崩壊」ってやつだな。まだ俺が七才だったころの話だ。そのころの俺は離婚なんて単語の意味が分からなかったし(教えてくれる大人もいなかった)父と母が別々に暮らす……くらいの軽い気持ちで考えていた。


 父親に引き取られてからの七年間、それはもう苦痛で苦痛で、毎日のように「死にたい」なんてことを考えていた。

 家にも学校にも、俺の居場所はなくて、毎日のようにあるいじめや苦難を乗りこえながら、ただひたすら「早く大人になりたい!」とばかり考えていた。大人になればこんな生活を脱出できる、改善できる! なんてことを考えていたんだと思う。 





 幽霊が初めて見えた日から、五年が過ぎたある日の早朝。

 

 当時の俺には……というか初めて幽霊が見えた日からずっとなんだけど、やっぱりそのころにも俺には心の休まる場所なんてものがどこにもなくて、早朝四時という時間にも関わらず、街の都心部でなにも考えずただプラプラと歩いてたんだ。


 

 そんな俺の目の前に、一人の女性が現れた。

 

 いや、現れた……というより、俺が一方的にぶつかっただけなんだけど。


「だって私―――、幽霊なのに―――」

 

 俺は一生、この時の言葉を忘れないだろうな。


「ど――どうか、どうか私を―――助けてください!」

 

 ―――まさかこの綺麗な女性が、俺の人生を大きく変える原因になるなんて、この時の俺は思いもしなかった。





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