~エンピオ~ 6
「ただいま……って、一人だったっけ……」
どこかの独身中年サラリーマンのようなセリフを吐きながら、二次元の世界に住んでいる相棒に向かってあいさつをする。
いつも笑顔を振りまいてくれる相棒も、今日はやけに悲しそうに見えた。
玄関に鍵を掛け、生活の拠点を置いている部屋に向かう……と言っても、部屋は一つしかないんだけ
ど……なんて、自分で言っていて悲しくなってくるような突っ込みを入れながら部屋に通ずる扉を開けると、
《遅かったな。待ちくたびれちまったぜ我が奴隷》
電気が付けっぱなしになっていた。
朝からだと思うから、約十一時間もの間電気を無駄にしたということか。今時エコ精神ゼロかよ、俺は。
無駄にした分は取り返さなければならない。というわけで今日はもう寝よう。
そうすれば電気を使わずに(ブシャー)済むし、明日の為に体力も……弁慶の泣き所から血が物凄い勢いで噴出してる!
「痛っっってぇぇ! 何すんだこの化けインコ!」
身長差か! 身長差を利用してその嘴で攻撃をしかけてきたのか!
《貴様が俺の存在を全否定するのが悪い》
「お前の存在はすでにないみたいなものじゃん」
《黙れ、俺たちの仲間になりたいのか?》
「うるせぇ、焼き鳥にしてやろうか?」
《……》
「……」
ん? そういえばなんでこいつがここにいるんだ?
木下さんの守護霊であるところの、極悪非道、礼儀しらずの最低インコもどきが、なぜ俺の家にいる?
今木下さんは病気で、しかも正体不明の鬼が近くにいるのに、守護霊のお前がここにいたら意味ないじゃねえか。
《鬼じゃねえ。エンピオだ》
人を馬鹿にするような目を向け、嘴をいつも以上に尖らせながら……エンピオ?
「おいエロインコ。なぜお前がエンピオなんて言葉を使っている?」
《俺を表現する言葉が見つからなかったからって、エロはねえだろエロは!》
「いいから……答えてくれ」
《……》
正直、心の中に溜まっているこのモヤモヤ感がどうしようもなくキツイんだ。
エロインコも俺の様子がいつもと違うことに気づいたらしく、その体にまったくといっていいほど合っていない、人間そっくりの腕を腹の前で組み、そして静かに語り始めた。
《なにも知らねえようだから教えてやる。まず始めに言っとくけど、俺が主人の傍にいないのは、居たくないからとかではなくて、居たくても居られないからなんだ》
「そう……なのか」
《もっと正確に言えば、追い出されたんだよ。エンピオに》
「エンピオ……まさかそいつって――」
《ああ、貴様が言う鬼っていうのが、多分エンピオだろう》
あの鬼が、エロインコの居場所を奪ったってことになるのか……。
ということは――、
「木下さんが苦しんでいる病気っていうのは、やっぱりその……エンピオが原因なのか?」
《ああ。そうだ。……正直、現状としては最悪だ。守護霊が近くにいない場合、その主人の生命力、治癒力といった回復面の能力は著しく低下してしまう。しかも、今主人にはエンピオが取りついている。これは本当にヤバイ……》
組んでいた手を顔の前で合わせ、頭を下げるエロインコ。
《頼む奴隷! 主人を……助けてやってくれないか?》