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~エンピオ~ 2


 第一の難関であったはずであろう家への侵入を終えた俺たち二人は、続いて第二の難関である階段へと向かっていた。



 裏口から入ったので、玄関から入ってすぐ横にあるらしい階段まではかなり距離がある。



 しかも、そこにたどりつく為には、人の気配ありまくりの居間の横を通らなければいけないらしい。



 現に今も現在進行形でテレビの音が聞こえてくる。



 足音の音を掻き消してくれるのでありがたいのだが……というか、別に今からでも木下さんの親に断りをいれたほうが良くないか?



  すでに家の中に入ってしまっているから、誤解を解くにはそれなりの時間が掛かると思うが、そのことを含めても、なにも言わない段階でバレるほうがよっぽどやばい。



 下手したら警察ごとだ。



 その危険性を何度も説明したが、雨沢先輩から返ってくる答えはすべて同じ、「あの子の親、嫌いだから」だった。



 まあここまで来たら引き返すことも出来ないので、忍者アニメを見て覚えた抜き足、差し足、忍び足で居間の前を横切る。


 

 居間のドアが閉まっていたこと、この家が木造ではなかったことが幸いし、必要最低限の音で居間の前を通過することができた。



 先に進んでいた雨沢先輩の足元からはまったくと言っていいほど音がせず、肉球でもついているかと思わせるほどだ。



 多分これが初めてじゃないな。


 一番の難関であった階段も音をなるべく立てずに登り、時間は大分掛かってしまったが、なんとか木下さんの部屋の前に到着。



 ドアに『綾の部屋』と書かれたプレートが架かっているが、それがまた可愛らしい。



 そういえば女の子の部屋に入るの――というか同級生の部屋に入るのも初めてだ。なんだか緊張してしまう。



 そんな緊張の世界とは無縁の存在である雨沢先輩は、躊躇なくドアをいきなり開けた。



 ノックをするのが礼儀だと思うが、ノックの音で木下さんの親にバレたら、礼儀も何もないので、この行為には特に意見はない。



 意見があるとすれば―――今日お見舞いに行こうと考えた自分自身の出来損ないの脳に対してだ。



 なぜあの時の自分の行動の選択肢の中に、行かないほうがいい、安静にしといたほうがいい、という項目がなかったのかと今更になって思う。



 しかし、さすがにあの時の自分にこの光景を想像しろと言われてもそれは無理な話だ。



 現に今ここにいる俺自身も信じられない。



 隣では雨沢先輩が―――めずらしくというか、なんというか、この場面での適切な表現方法が思いつかないのだが、一つ言えることは、人間という生き物は顔の表情だけでここまで驚きを表現出来るのかと、勉強になった。



「は……やと……くん?」



 震えた声で俺の名を呼ぶ雨沢先輩の声が聞こえてくる。



「な……なんで……すか?」



 自分では落ち着いているつもりだったのだが、思った以上に俺の声は小さく、そして震えていた。



 いやむしろ、この状況で落ち着いていられるような人間がいたら、今すぐ俺のところまで来て、俺の頬を引っ叩いてくれ。



 早くしないと精神が狂っちまいそうだ。



 不安定道路爆走中の俺の精神を一般道に戻してくれたのは、同じく俺の隣で驚きの表情を隠しきれないでいた雨沢先輩だった。



 動作としては極めて簡単な、手を握る、という行為だったが、気を保つ為には十分すぎる行為だった。



 逆に言えば、このまま何の支えもない状態があと数秒続いていたら、どうなっていたことか……



「あれ……なに?」



 なにかは分かっている。でも、なにが起こっているのかは分からない。どうして……どうして、こんなところに――




 ――鬼がいるんだ?


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